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30話 実家

 車に乗って一時間が過ぎた頃、やっと実家に到着した。


「あぁ……変わっていないや……」


 しみじみと懐かしい実家の景色を遠目に感じる。 


「いやいやいやっ! ルーシーの家大きすぎぃっ!!」


 私が感慨に耽っていたところ、真空が驚きの声をあげる。

 見たのは、私の家の全貌。


 ズラッと横に外壁が家全体を囲っており、外からでは中は全く伺えない高さになっている。

 現在は家の外壁にある巨大な木製の門の前にいた。


「確かに大きいよね。家までちょっと距離あるのが大変なの」

「アメリカのマンションどころじゃない……」


 氷室が代表して、インターホンの場所まで行き、カードキーを使って認証。分厚い木製の門がゴゴゴと音を立てて左右に自動スライドし、開いていく。


「広い……」


 そこには、庭がざっと広がっており、庭師によって管理されている盆栽や数々の木々が立ち並んでいた。さらに他にはプールや何もない芝生も広がっている。そこでは泳いだり、走り回って遊べたり、バーベキューなどもできるようになっている。


「真空、ここから少し歩くよ」


 真空を誘導し、大人数で家まで進んでいく。

 玄関には複数人の執事やお手伝いさんが待っていて、さらに見知った人間が、二人並んでいた。


「おじいちゃん、おばあちゃん……」


 日本人である父方の祖父母だった。母の実家はイギリスなので母方の祖父母には中々会う機会はないけど、父方の祖父母はたまに会っていた。


「ルーシー、久しぶりだね。本当に大きくなった」

「ルーシーちゃん。あらまぁ、もうママに似てきたんじゃないかしら?」


 顔は見せていないけど、二人は余計なことは言わず、私の成長を喜んでくれたようだった。

 祖父母も私が病気の頃、とてもよくしてもらった。ただ、私が変わる前だったので、あまり心を開いてはおらず、仲が良かったとは言えなかった。


 光流と会っていた一週間の間には、祖父母とは会っていないので、私の変化はわからなかっただろう。


「おじいちゃん、おばあちゃん……ごめんね。あの時、優しくできなくて……」


 氷室と再会した時と同じように私は二人とハグをした。


「いいんだよ。ルーシーは私達の宝だ。どんなルーシーだったとしても大切なことに変わりない」

「そうよ。いつになっても孫は可愛いものよ」

「ありがとう……ありがとう……」


 今日は何度泣けばいいんだろう。

 光流のおかげで、ちゃんと家族と向き合えてる。祖父母は体力的に海外に行くのは辛いらしいので、アメリカには来てくれなかったが、こうやって再会できてとても嬉しい。


 祖父母との再会のあと、五年ぶりに実家の中に入った。


「ただいま……そして、真空。我が家にいらっしゃい!」

「ルーシー、お邪魔します!」


 広々とした玄関。皆次々と靴を脱いでいく。


「真空、後でお家案内するからね」

「驚くのは後回しにしておくよ……これじゃ心臓いくつあっても足りないからね」


 真空はきょろきょろと辺りを見回して、初めて知らない土地に来た観光客のようになっていた。


 そして、食事をとるリビング、長いダイニングテーブルがある場所に行くと、そこにいたのはーー、


「ルーシー、夏休み振りだな。元気してたか?」

「おかえり、ルーシー! まさか冬休みに日本に来るなんてね!」


 アーサーは現在大学二年生で、ジュードは高校二年生になっている。

 二人はちょくちょくアメリカに来ていたので、何度も顔を合わせていた。なので、そこまで久しぶりではない。


「ただいま。アーサー兄、ジュード兄。二人とも元気そうだね」


 アーサーはダイニングテーブルの椅子から立ち上がって私の所に来て、バシバシと肩を叩く。

 ジュードも立ち上がって、私の所まで歩いてきて、頭をよしよししてくれた。


「こちら、アメリカで友達になった朝比奈真空。仲良くしてあげてね」

「はじめましてっ! 朝比奈真空です! よろしくお願いします!」


 真空が一歩前に出て、兄達に挨拶する。

 私がいるアメリカの学校に転入したタイミング的に、兄達と会う機会はなかったので、これが初対面となる。


「随分可愛い子と友達になったなぁルーシー。俺はアーサーだ。真空ちゃん、よろしくな」

「僕はジュード。真空ちゃん、ルーシーから少し話を聞いてるよ。これからよろしくね」


 二人らしい反応だ。

 そして私は真空に近寄って耳打ちする。


「真空っ。この二人のどちらかなら、ジュードにしといた方がいいよっ」

「ルーシー何言ってるの! 同じ家に住むんだからさすがにそういうのは……確かにどっちもイケメンだけどさ……」


 アーサーもジュードも既に身長が百八〇センチを超える高身長で、確かに顔もイケメンだ。

 ただ、妹の私から見ても明らかに気が遣えるのは次男のジュード。便箋を渡してくれたくらいだ。だから性格的にはジュードの方が人に紹介できる。


 だからといってアーサーもモテないというわけではないらしい。

 ちょっと投げやりな言い方だったり、いじわるな面も多いが、アーサーはアーサーで気を遣ってくれている部分もある。

 その証拠にジュードだけではなく、アーサーまでもが光流の動向を見守っていて、たまにメッセージで様子を送ってくれていたからだ。


「じゃあ、ちょうどいい時間だし、お食事にしましょうか」


 母が荷物をお手伝いさんに任せて、リビングにやってきた。


 それぞれがテーブルに着席する。両親だけではなく、祖父母も一緒だ。


「ああ、こんな機会が来るなんて……」


 家族に真空を加えての食事はもちろん嬉しい。

 でも違う。そこじゃない。


 私が光流のおかげで見える世界が変化し、性格も少し前向きになれて。


 自分が変わってからの家族みんなが揃った食事。

 それは、五年前に味わった景色とは全く違って見えた。


「じゃあ、食事始めるか。改めて、ルーシーおかえり」


 父がそう言葉を発すると、それぞれがいただきますをして、食事が始まった。


『パンッ!』


「わっ、何!?」


 音の鳴った方を見ると、アーサーが一人でクラッカーを鳴らしていた。

 クラッカーから飛び出た紙テープがテーブルの料理の皿に落ちていく。


「アーサー!! 場所を考えなさいっ!」

「兄さん……」


 母がアーサーに怒った。

 確かに、料理にクラッカーの紙テープがかかるのはよろしくない。


 でもクラッカーを鳴らす時って何かお祝いの時だよね。

 誰にも相談せずに勝手にやったから母は怒ったのだろうか。

 母も父もジュードも驚いた顔をしていたし、祖父母に至っては驚き過ぎたのか立ち上がっていた。


 でも私は嬉しかった。こうやって帰ったことを祝ってくれているんだから。


「アーサー兄……ありがとね」

「いいってことよ! ほら、ルーシー、たらふく食えよ!」

「いいからテープ片付けなさいっ!」


 アーサーは怒られても全く動じない人間だ。メンタルは超がつくほどタフだ。

 その部分は私にも分けて欲しい。


「ははっ、ルーシーのお兄さんって面白いねっ!」


 母が怒ってはいたが、険悪な雰囲気ではなかった。

 真空も笑えるほど、楽しい雰囲気になっていた。


この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!

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