278話 球技大会 その1
夏休みが明け、二学期が始まった。
教室の中には、日焼け跡が残っている生徒も多いようにも思えた。
会っていなかったクラスメイトの顔は懐かしいが、仲の良い友達はお泊りをしたりしたせいか、それほど懐かしくはなかった。
高校に入学してからというもの、はじめは慣れなかったこのクラスの雰囲気も随分と慣れたものだ。
「ねえ、藤間さんテレビ見たんだけど! ピアノやってたんだ!」
「すごいねっ! びっくりしちゃった」
「てかお母さんって、あの藤間花理さんなんだ!」
夏休み中にテレビで流れたヨーロッパのピアノコンクール。国際大会でしかも日本人初優勝したことで取り上げられたものだが、その血筋までもが紹介されていた。
クラスでもそのニュースを見ていた人がいたみたいで、普段それほど話さないクラスメイトもしずはに話しかけていた。
「わー、しずはすっごいモテてる」
「あいつは元々モテてるよ」
「別の意味でー!」
「まあ、そっか」
ホームルーム前の時間。隣の席のルーシーが俺に話しかける。
中学校の文化祭でもピアノの実力を一部披露したしずはだったが、あの時点で日本一の実力者だと知っている人はほとんどいなかった。
ただ、今回のことでその見た目もさながら、人気に拍車がかかっていくだろう。
「皆さん〜。きたる九月十九日と二十日、二日間に渡って球技大会が行われます」
ホームルームが始まると顔を見せたのは揺木先生だ。
コスプレ撮影でのえっちな衣装が思い出されるが、それを知っているのはごく一部。
彼女が話題に出したのは、今月行われる球技大会だった。
そして、九月二十日というのが、なんと冬矢の誕生日と重なった日だった。
「出場する競技は夏休み前には決めましたけど、怪我のないように今から気をつけてくださいね〜」
球技大会はその名の通り、学内における球技オンリーのスポーツ大会。
体育祭での陸上競技とは違い、スポーツの種類の幅が一気に広がる。
現在、登録されている競技はこの通り。
男子はサッカー、バスケットボール、バドミントン、卓球。
女子はバレーボール、ソフトボール、バドミントン、卓球。
この中でバドミントンと卓球は二人一組のダブルスとなる。
ほとんどが団体競技で運動が苦手な生徒も体育祭の陸上競技とは違い、手を抜きづらい状況になっている。
そのため、深月のように以前から球技大会に関してぶーぶー言っている生徒もちらほら。
俺が参加するのはサッカーとバドミントン。
ちなみにバドミントンのペアは開渡だ。テニスをやっているせいか、ラケット競技は上手で、体育の授業で練習している時からバド部でもないのに圧倒的に上手かった。
開渡が言うにはテニスとバドミントンではラケットの扱いは全然違うけど、体育時間の練習でなんとか慣れたらしい。
俺は全般的に球技が苦手なので、開渡頼みにはなるが……。
また、ルールとして、団体競技での部活に入っている生徒が参加するのは一名まで。例えばサッカー部ならサッカーの競技には一名までしかエントリーできない。
バドミントンと卓球に至っては部活に入ってる生徒は参加できないことになっている
そして俺はずっと気になっていたことがある。
正直、ここまで放置してよいのか、わからなかったことでもあるし、どう声をかければ良いのかもわからなかったことでもある。
前方を見ると、チャラついた長い髪の冬矢が座っている。
俺には冬矢が何を考えているのかよくわからない。
だからこそ、この球技大会で何か変われば良いとは思っているが、その予兆はない。
結局、何ができるわけでもなく、時が過ぎ、球技大会がやってくる。
◇ ◇ ◇
「1-C行くぞー!」
「「「オーッ!!」」」
コート上で六人が円陣を組み、声に合わせて手を天井に上げた。
まずは女子バレー。
スタメンの中にはルーシー、真空、遠藤さん、ラウちゃんの姿があった。
一年生の中でも、C組は特に可愛い子が多いクラスらしく、こうして試合するだけでも人が集まってしまうらしい。
一年生だけではなく、二年、三年生までもが、集まって試合を眺めていた。
体操着の腕をまくり肩を出した状態のルーシー。
真空のように縛ってヘソを出さないで良かったとは思うが、真空も真空でよくあんな格好ができるものだ。観戦しにきた他クラスの男子も真空のヘソと大きな胸に釘付けになっている。
G組まである学年のクラスは、トーナメントではなく総当たり戦で優勝を決めることになる。
なので、もし負けても挽回できる可能性があるのだ。
「いくよー!」
最初は真空のサーブから。
男子のようにジャンプサーブではなく軽く相手のコートに入れるサーブだ。
初戦の相手であるD組がレシーブをし、トスを上げる。そのまま綺麗にアタック――
「――跳んでっ!」
ルーシーの声が聞こえた瞬間、長いダークブロンドの髪が揺れた。
「やったぁっ!」
ドシャットのブロック。相手コートの真下にボールが落ちて、C組の得点となった。
ブロックしたのはラウちゃんだった。
聞く話によれば彼女の身長は173cmらしい。俺と同じである。
女子の中では圧倒的に身長の高いラウちゃん。本人は運動が大の苦手なのだが、身長という最大の武器を持っているためバレー、さらにはバスケにまでエントリーされていた。
「ラウラちゃんナイスーっ!」
「よしっ!」
「ジャンプ疲れる……」
ルーシーたちがハイタッチするために駆け寄るも、本人はだるそうな雰囲気。
「デカいやつ集めるとかずりーぞ!」
「そうだそうだー!」
ぶーぶー言っていたのはD組の理沙と朱利だった。
合同体育の時間を通してルーシーたちと会話するようになったらしい理沙たち。
相手であるC組のメンバーに文句を言っていた。
「ふふん、これは正当な権利!」
「そうだよー! ラウちゃんも何か言ってあげて!」
「交代」
「早いよっ!」
試合は進み、終盤。
試合数が多いため十五点、一セットマッチの勝負。
十四対十三で、接戦になっていた。
「あと一点! 締めるよー!」
真空がメンバーを叱咤する。
「おし!」
ルーシーの顎から首筋に伝わる汗。
それだけで、グッと来てしまうのだが、本人は真剣だ。
意外と勝負事には負けたくない性格らしい。
ラウちゃんと言えば、後半まで持たずに交代。
遠い目をしながら委員長の的場史さんに膝枕されていた。
真空からサーブが始まると、相手はレシーブから繋げてスパイク。
ラウちゃんと交代していた千影がレシーブすると遠藤さんがトス。
「ルーシー行けー!」
俺はいつの間にか応援の声を出していた。
「んあっ!」
高くジャンプしたルーシーがポニーテールにまとめた金髪を揺らす。
声を出しながらスパイクすると、そのまま相手コートに突き刺さった。
「やったぁっ!!」
ガッツポーズをして、皆とハイタッチ。
ルーシーはちらっとこちらを見ると、ピースをして笑顔を見せてくれた。
俺は拍手を送った。
――最終的にC組はD組に勝利した。
汗をかいたルーシーたちが戻ってくると、それぞれとハイタッチした。
「光流、試合いつ?」
「もうすぐ。サッカーの前にバドミントンの予定だよ」
「わかった! しばらく休みだから応援に行くね!」
ルーシーと言葉を交わして、俺は開都とバドミントンの試合に向かった。
◇ ◇ ◇
バドミントンはトーナメント戦。一回負けるとそこで終わり。
そして、一年生から三年生までランダムに対戦する組み合わせになっていた。
「――よう、ルーキー。今日は年上の意地見せてやるからな」
「いえいえ。これも真剣勝負ですから、負けませんよ」
最初の相手はいきなり三年生。
見れば開都のテニス部の先輩のようだった。
この感じを見ると開都は一年生ながら部内でも実力者として認められているようだ。
それもそうか、関東大会にまで出ているもんな。
「――光流。来た羽根をとりあえず上にあげて返すだけでいい。スマッシュとかは無理にすんなよ」
「うん、任せたよ」
俺は球技が圧倒的に苦手だ。だから俺がプレーをすると大体負けに繋がる。
だから今回はほぼ開都に任せるつもりだ。
――スパン、スパンとラケットに羽根が打ち付けられる音が鳴る。
俺の目線は常に上。
横からはルーシーや千彩都の応援の声が聞こえる。
「どうだ!」
「ふんっ! まだまだぁっ!」
「これでっ!」
開都がスマッシュを打つと、相手の一人がギリギリキャッチ。
ちょうど俺の目の前に羽根が飛んできた。
スマッシュの大チャンスだった。
「光流! 最後は決めろ!」
「わ、わかった――」
「させるかぁ!」
俺が打つ目の前に開都の先輩が仁王立ちするように構えていた。
このままだと、簡単に返されてしまう。
けど、球技が下手な俺はただ思い切り打つことしかできなかった。
「うらぁっ!」
ラケットを振りかぶり思い切りスマッシュをした――はずだった。
「なんっ――」
先輩が素っ頓狂な声をあげた。
「光流はこういうやつなんすよ、先輩――とらぁっ!」
俺は大きな空振りをした。
結果、つられた先輩はタイミングをずらされ、そこに後ろに控えていた開都のスマッシュが炸裂。
そのままポイントが決まった。
「わー! やったー!」
「かいちゃんかっこいいー!!」
勝った…………けど。
俺、なんもしてねええええええええ〜〜!
九割型、開都が羽根を打っていた。
俺はといえば、呆然とその場に立っていただけ。
ダブルスなのにシングルスをやっていたようだった。
でも、勝った。
「光流ー! おめでとー!」
「あは、あはははは……」
「もー、勝ったんだから喜びなよー!」
「ルーシー、男にはプライドがあるんだよ。そこまでにしてあげなさい」
ルーシーが純粋に俺を褒めるものだから、とても微妙な気持ちになった。
すると隣にいた真空が、ルーシーの肩に手を置いて、褒めることをやめさせた。
「サ、サッカー! 見ててね!」
「もちろん! ゴールするの楽しみにしてる!」
絶対無理だけど……!
ルーシーの期待を背負い、俺はサッカーの試合へと向かった。
◇ ◇ ◇
グラウンドでメンバーと合流すると、その人物がいた。
「なあ、光流。深月なんだけどよ、今日はずっと不機嫌なんだよな」
「球技大会は乗り気じゃなかったしなぁ」
「いや、そういう感じじゃない気がするんだけど……」
会ったのは冬矢だ。
すると深月の機嫌を気にしていた。
サッカーの試合をやることになり、どうなのかと思っていたが、思いの外大丈夫そうだ。
「よっし! 皆集まって!」
そう声をかけたのは、うちのクラス唯一のサッカー部である今原修だ。
修は今回キャプテンとして俺たちを指揮する。
俺は足だけは早いので、フォワードになったのだが、さっきのバドミントンを思うとめちゃめちゃ不安だ。
ちなみに修と冬矢でダブルボランチ。
中心あたりにポジション取りして、ボールを回す役目となっている。
「とりあえず俺が運ぶから、フォワード陣はゴールめがけてどんどん蹴って!」
「わ、わかった!」
「あー、緊張してきたー」
「ほら、女子もいっぱい見にきてるんだから頑張れよ」
「うおっ、黄色い声援!」
野球部の家永も俺と同じフォワード。緊張しているようだが、堀川の言葉で目を輝かせた。
サッカーは同学年のグループリーグを行い、その上位二チームがトーナメントに進み、上級生とも戦うことになる。
十五分ハーフ。前半後半合わせて三十分一試合という形になる。
「じゃあ、お前ら、行くぞー!」
「「「オーッ!!」」」
円陣を組み、修の掛け声で俺たちは声をあげた。
そうして、波乱のサッカー第一試合が行われる。
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