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包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜【180万PV達成】  作者: 藤白ぺるか
第5章 高校生編

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277話 夏祭り

 夏休みも終盤。

 予定が合わなかったこともあり、ここまで伸びてしまったが、今日この日、俺は花火大会兼夏祭りに来ていた。


 ルーシーから渡された学園祭三曲目の歌詞。

 それを受け取った俺たちは、冬也を中心に曲作りに励む中、練習を継続しながら順調にバンドとして前に進んでいた。


 この夏は、富良野にルーシーと一緒に旅行したり、宝条家の別荘に泊まったり、そこでは海を楽しんだり、部活をしながらでもあるが十分に楽しんできた。


 そして今日の夏祭りはその締めくくり。

 俺は、ゴクリを息を呑みながら皆と合流するのを待っていた。


 しかし、今日一緒に向かう夏祭りのメンバーはいつもとは違う。

 違うというのは、メンバーが違うわけではない。


 いつもなら、ルーシーたち女性陣や冬也たち男性陣と一緒に行くはずなのだが、相手はたった二人だった。


 冬也は深月と開渡は千彩都、真空に至ってはジュードさんと回るという話だ。

 つまり、俺が一緒に回る相手は――


「光流〜〜!」


 手を振って待ち合わせ場所にやってきたのは、金色の綺麗な髪が特徴的な人物。


「まだまだ熱いわね。うちわ持ってくればよかったかな」


 そしてもう一人、テレビにまで特集されてしまい、今や時の人になりつつある人物。


「……ルーシー、しずは。二人とも浴衣姿、すっごい似合ってるよ」


 俺が今日の夏祭りを一緒に回るのは、ルーシーとしずはの二人だった。


「えへへ……ありがとっ。お母さんから借りたんだけど、似合ってるか不安だったんだ」

「ありがとう……私は新しいやつ。ほら……ね」


 ルーシーは赤を基調とした浴衣で、きらびやかなかんざしで髪をアップにしてまとめている。普段は見ないルーシーのうなじにグッときてしまう。


 一方のしずはは逆に青を基調とした浴衣。彼女のクールな時のイメージにぴったりなデザイン。花の形をした簪をつけている。しずはも高校生になり、前に見た時よりもずっと浴衣が似合う女性になっていた。


「光流も浴衣姿似合ってるよ」

「まあ、確かに似合ってる」

「はは。ありがとう。でも、着慣れないね」


 浴衣を着たのは中学二年生以来だろうか。

 三年の時はプールには行ったけど、花火大会は行かなかったからなぁ。


「じゃあ、しゅっぱーつ!」

「ちょっとルーシーゆっくりにしなさいよ!」

「はーいっ」


 俺としずははルーシーに手を引っ張られ、まずは出店を巡ることになった。


「あ、火縄銃!」

「……確かに見えなくもないけど……」


 見つけたのは射的の屋台。

 ルーシーが火縄銃といったそれは、おもちゃの銃。弾はコルクだ。


「あ、ちるかわのぬいぐるみあるじゃん」

「取って深月に……って思ったけど、残しておいたほうがいっか」

「そうだね」


 しずはが気付いたのは、深月が大好きなキャラちるかわ。

 しかし、もしこの後冬矢たちがこのお店にやってきた時、残しておいたほうが良いだろうと思い手は出さないことにした。


「じゃあ私からやるー!」


 まずはルーシーからチャレンジ。

 パンッ、パンッと撃って行くもなかなか景品が落ちない。

 当たってはいるのだが、当てた場所が悪いのか、まだ足りないらしい。


「ちょっとしずはやってよー!」

「ふんっ、任せなさい」


 ルーシーが一つも景品を落とせなかったのでしずはに交代。

 しずはが銃を構えると、同じように狙っていった。


「ぜんっぜん当たらないじゃないっ! この銃おかしいんじゃないの!?」


 目の前に店主がいることも忘れて、とんでもないことを言い出すしずは。


「よし、俺がやる」

「光流頑張ってー!」

「絶対に落として!」


 余計なプレッシャーがかかった。


 銃を構えて狙いを定める。

 ターゲットは、飴が入ったお菓子。こういうのはまず小さなものから。


「おおっ」


 一発で取れた。

 せっかくなら、二人分渡してあげたい。


 しかし続く一発はハズレ。

 全部で五発。残り三発。


「くそ……あと一発」


 しかし二発が外れ、最後の一発になった。


「光流がんばれ!」

「最後当ててっ」


 俺は集中して、別のお菓子を狙う。


「…………」


 パンッと最後の射的でお菓子の中心を狙うと、見事命中。

 もう一つのお菓子をゲットできた。


「やったーっ!!」

「ちょっ、ひか――」

「きゃあっ!?」


 銃を後ろに引き、景品が取れた喜びでそのまま手を上に上げた瞬間だった。

 持っていた銃の両端がルーシーとしずはの浴衣の裾に引っかかり、そのままめくれ上がってしまったのだ。


 ――黒と白。


 ちらりと見えたそれは、彼女らに似合う美しいデザインだった。


「見ちゃだめぇっ!」

「何すんのよっ、バカっ!」

「ごへぁっ!?」


 同時にビンタされ、俺の頬には赤い印が刻まれた。



 ◇ ◇ ◇



 ――ひゅ〜、ドンッ……ドンッドンッ!


 美しい花火が次々を上がり、ルーシーとしずはの瞳に鮮やかな色が煌めいていた。


 手元には焼きそばなど、屋台で購入した食べ物と飲み物。

 俺が持ってきたシートを地面に敷き、空に打ち上がる花火を見ていた。


「わー! 凄い凄いっ!」

「あんた……わかるけど、はしゃぎすぎ」

「だって! 日本でちゃんと花火を見たのは初めて何だもんっ!」


 恐らく花火大会に行く機会はいくらでもあった。

 でも、こうして友達と一緒に花火を間近で見たのは初めてだろう。


 ルーシーにとっての日本でのイベントは、ほぼ全て初体験だ。


「……もう八月かぁ」

「なに、しんみりとしちゃって」

「いやさ、少し前まで中学生だったのに、高校生になってもう四ヶ月が経過したんだよ? 時の流れって案外早いなって」


 ここまでの四ヶ月、色々なことがあった。

 ルーシーもそうだし、友達と過ごした楽しい思い出はたくさんある。


 そして、花火大会といえば、思い出されるのはしずはたちと行った花火大会。

 あの時はナンパだったり、しずはの鼻緒が切れたておんぶしたり、そのまましずはの家に泊まることになったりと、色々あった花火大会だった。


 今日は不思議なことに、ルーシーとしずはという二大美女に囲まれる花火大会になっけけれど、他の皆も楽しんでいるのだろうか。


「そんなこと言ってたら、本当にすぐに三年過ぎちゃうよ」

「やだなー、ずっと高校生が良い」

「じゃああんただけずっと留年ね」

「キーーっ!」


 しずはの煽りにルーシーが猿のような奇声を上げる。


「…………」


 花火が打ち上がり続けるなか、俺たちは少し無言になった。


「………………っ」


 え……?


 左頬に柔らかな感触を感じた。

 左側にいたのはルーシーだった。


 横目でルーシーの顔を見ると、頬が赤らんでいるように思えた。

 でも、花火で本当の色はわからない。


「…………っ」


 あっ……。


 今度は右頬。

 しずはがいる方だった。


 同じく柔らかな感触を感じ、俺は右を見るもしずはは花火を見上げたまま。

 ただ、ほんのりと耳が赤くなっているように思えた。


「…………」


 心は、答えは決まっているとしても、好意を向けられていることは嬉しい。

 いつか、その時が来るまで、俺は今一度決意を新たにしなくてはいけない。


 両隣にいる二人は、俺が一緒にいるには過分なほどの実力者。

 一方は日本のみならず海外でも注目されたネット上の謎のアーティスト。

 もう一方は、ヨーロッパのピアノコンクールで日本人初優勝を果たしたジュニアピアニスト。


 ただ、ギターを頑張っているだけでは、彼女たちには追いつけない。


「――――」


 すると、左右から同時に腕を絡められ、ぎゅっとされた。

 もう、二人はわかっているのだろうか。


 ルーシーもしずはもお互いがいるのに、こんなことをして――バレても良いのだろうか。


 今の俺は、ただ、彼女たちの腕の温もりを感じ、花火を眺めることしかできなかった。



 ◇ ◇ ◇



「あー、楽しかったっ!」


 ルーシーが伸びをしながら、帰路を歩いていた。


「満足そうで良かったよ」

「光流も楽しかった?」

「ビンタさえなければ……」

「あれは光流が悪いっ!」


 正直、今でもまだ両頬がひりついている。


「って、あー! あそこ見てっ!」

「ん――」


 ルーシーが指差す方向。

 その場所にはなんと、花火大会の会場から帰ろうとしている冬矢と深月の姿が見えた。


 二人とも浴衣を着ていて、深月はとっても綺麗におしゃれしていた。


「とっ――んーんっ!?」

「あんたバカ! 呼ぶんじゃないわよっ!」

「……ぷはぁっ……息ぐるじい……っ」


 冬矢の名前を呼ぼうとしたルーシーをしずはが口を塞いで止める。


「あの二人には……二人にしてあげなさいよ……」


 どこか言いにくそうにしずはが言った。


「あ、ごめん……普通に挨拶しようかなーって思っちゃった」

「空気くらい読みなさいよねー」


 しずはがバシっとルーシーのお尻を叩いて注意した。


「って、あー! 今度はあっちにもっ!!」


 騒がしいルーシーが、次に指を差した場所――そこにはなんと浴衣姿のジュードさんと真空がいた。


「わっ、あの二人ってそういう関係なの?」

「そういやしずはって、知らなかったっけ」

「うん。知らない――ルーシー、呼ぶんじゃないわよ」

「――っ。危ない危ない」


 しずはが静止しないと先程のように呼ぶつもりだったらしい。


「ほんっと、皆やることやってるのね」

「うんうん……っ。楽しそうで何よりだよっ。ね、光流〜〜っ」

「そうだね。そうだと良いな」


 遠目に見るジュードさんも真空も楽しそうに話している。

 と言っても真空の場合、元気じゃない時がないというか。


「あー、夏休み終わっちゃう〜」

「学園祭まで、あと少しだね」

「その前に球技大会か……鬱だ」


 しずはが呟いた球技大会。

 九月に開催される、名前の通りに球技の大会。


 スポーツが苦手なしずはは乗り気ではない。


「女子は何に出るか決まってる?」

「うんっ! 私はバレーとバスケだよー!」

「私はソフトボールと卓球のダブルス……」

「そうなんだ!」


 それぞれ別の競技をやるようだった。


「光流はー?」

「俺はバドミントンとサッカー!」

「へえ! そうなんだ! 時間合えば応援に行くね!」

「光流の球技……楽しみね」

「別の意味で楽しみにしてるだろ……」


 そう、俺は球技が得意ではない。

 陸上競技は得意なのだが、ボールを扱う競技はどうにも苦手なのだ。

 だからしずはに対しても何か言える立場ではない。


 こうして、夏が終わる。


 迎えるのは球技大会、そして学園祭。

 高校生になってからの俺たちの一年は、後半に突入していく――。





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