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包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜【180万PV達成】  作者: 藤白ぺるか
第5章 高校生編

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269話 記憶の旅 その2

 ほとんどやったことのない裁縫。

 細い針に糸を通し、予め切られていた布を縫い付けていく。


 ギターは練習の繰り返しでなんとかできているけど、元々は不器用。

 不揃いな間隔の縫い幅は、同じく隣で作っているルーシーのものを見比べると、比較にならないほど不出来だった。


 そうしてサシェの袋ができると、そこに簡単な刺繍を入れる。

 難しすぎて時間内に終わるのかと思ったが、なんとかサシェの袋が完成した。


 次に乾燥させてあったラベンダーの花を広げ、そこに精油を垂らして香り付けをする。

 最後に薄い布に入れたラベンダーを刺繍した布の袋の中に入れ、最後にリボンをつけて完成だ。


「できた!」

「凄い神経が削られた気がする……」


 ルーシーが作ったサシェを掲げた。

 そのクオリティはかなり高く、さすがは料理もできる繊細さがあるといったところだ。


 一方の俺のサシェは——、


「光流の……なんか変」

「なら、あげないぞー」

「うそうそ。変だけど、心がこもってる」

「変なのは否定しないのか」


 その"変な"サシェを俺はルーシーに手渡す。

 ルーシーも自分が作ったサシェを俺に手渡してくれた。


 サシェに刺繍されてあった言葉は『Hikaru』と『Lucy』だった。

 俺たちはそれぞれ、相手のためにサシェを作っていた。

 不出来なのは申し訳ないが、これが俺の限界だった。


「ふふ、ありがと」


 こんな歪なサシェでも喜んでくれるルーシーの笑顔が眩しい。

 そうして、やっとその時がやってくる。


「じゃあ、これ持って行こうか」

「うんっ!」



 ◇ ◇ ◇



 時間は夕方に差し掛かる少し前。日が傾いてきていた。


 俺たちは、後方にラベンダーが広がる位置へと、やってきた。

 目の前にはカメラを構えた須崎さんがいる。


 そして、二人の手にはお互いにプレゼントしたサシェがあった。


「ルーシー、何か思い出せる?」

「うーん……何も浮かばないかな……へへ、ごめんね」

「謝ることじゃないよ。こうやって思い出を作りに来れてるだけで嬉しいし」

「だねっ」


 結局、この時になっても、封印されているルーシーの記憶が蘇ることはなかった。

 でもいいんだ。二人が最初に出会ったこの場所に再びやってきて、新しい思い出にできたのなら、それで——。


「じゃあ撮りますよー!」


 須崎さんの声が聞こえる。

 俺たちはサシェを構え、シャッターに備えた。


「撮りまーす! 三、二、一——」


 ——カシャっ。


 カメラのシャッター音が鳴り、二人共満面の笑みで紫いっぱいのラベンダーに包まれた写真を撮った。



「————っ」



 ドサッと音が聞こえた。

 気になり隣に視線を移すと、ルーシーが地面に寝転がるようにして倒れていた。


「ルーシー!?」

「お嬢様!」


 俺と須崎さんはルーシーに駆け寄り、抱きかかえた。



 ◇ ◇ ◇



 ——ぼんやりと、白い靄が目の前に広がっていた。



 ここ、どこだろう。

 前にもこんな光景……見たような気が——。


 そう考えているうちに、白い靄は少しずつ晴れていく。

 しかし、その先の光景は、以前見たラベンダー畑での思い出のものとは全く違っていて。


 心が締め付けられるような感覚に襲われた。

 しかしこの痛みが私に何かを伝えてくれるのだと、そう感じた。


 だって、目の前にはとてもとても小さな私がいて。

 お父さんとお母さん。そして兄たちも一緒にいたのだから——。




「ルーシー、お誕生日おめでとう!」



 自分で言うのは何だが、とても可愛らしい傷ひとつない綺麗な顔の私が大勢の人に囲まれていて、何歳なのかわからない誕生日を祝われていた。ただ、目の前の巨大なケーキには四本のろうそくが刺さっていた。


 テーブルの上にはプレゼントの山があり、今では考えられない量。

 その理由は場所と人の多さが関係していた。


「しょ、しょうがないから私のプレゼントもあげるわ……ル、ルーシー」


 クロワッサンのような縦ロールの髪が特徴的な少女が、眉をつり上げながらも私へとプレゼントを渡した。


「れいあさま。昨日までずっとなにをプレゼントしようって、かんがえてたくせに」

「ルーシーさまのほしいものがわからなくてなやんでいたのも、かわいらしかったです」

「あなたたち、よけいなことをっ!」


 玲亜ちゃん——倉菱玲亜。そして隣にいたのは彼女といつも一緒にいる鳳妃咲、剣持舞羅の三人だった。

 彼女たちは小さい頃、私と会って友達になっていたらしい。それが本当だったのだと理解した。


「それはたのしみね。わたしのおめがねにかなうプレゼントをよういできたのかな」


 あまりにも酷い言葉だ。

 小さい頃の私は、本当に性格が悪かったらしい。プレゼントをくれた相手に対して、こんな態度はないだろう。

 

 何不自由なく育って、過保護に愛でられたお陰でこうなってしまったのだろうか。

 それを家族のせいにするなんてことはないけど、私はどこまで傲慢だったのだろう。


「できたにきまってるでしょう! この私がえらんだものよっ」


 しかし、玲亜ちゃんは自信満々だった。

 私に対して気負わないこの性格。私はこの頃から玲亜ちゃんのことは好きだった……そう思う。だから友達になったのだろう。


「うれしいプレゼントじゃなかったら、げぼくけっていね」

「はぅんっ」


 本当に酷い扱いだ。

 ただ、なぜか玲亜ちゃんは嬉しそうだ。



「ルーシーちゃん、お誕生日おめでとう」


 その後も次々と私へのプレゼントがテーブルの上に置かれていく。

 私と同年代は玲亜ちゃんたちくらいで、他は兄たちの友達、両親の友達など年上ばかりだった。見覚えのない人たちだらけだった。




「ルーシー、誕生日はどうだった?」

「すっごいたのしかった!」

「そう。それなら良かったわ。本当にルーシーは可愛いわね」


 誕生日会の後、母親に感想を聞かれ、私は抱き締められていた。

 大きな母の体は、私を軽々と抱き上げて、喜ばせた。


「ルーシー良かったな。お父さんからも、さっきのプレゼントとは別の特別なプレゼントだ」

「え! まだあるの!」


 すると、まだ今よりもずっと若い父親が子供の私に似合う可愛らしい髪飾りをくれた。私はそれが嬉しくて、大喜びした。


「どうだー!」

「わぁー!? きゃー!」


 プレゼントを受け取った後、父は私を抱き上げて、高い高いをしてくれた。

 私が知っている父とは全然違っていた。


 今の父はどこまでも真面目だ。カラオケが下手だったりもするが、優しいことには変わりない。

 でも、私が小さかった頃は、目に見えて溺愛していたらしい。


「…………」


 こんなに大きくなった今でも、高い高いしてもらえるだろうか。

 そんなことが頭に過った。




「さすがは俺の妹だ! 可愛い顔しやがって!」

「ちょっとおにいちゃんやめて〜」


 今では大人になりすぎて触れ合いがなくなったアーサー兄。

 小さな頃はこうして私の頭をぐちゃぐちゃになるまで撫でで、可愛がってくれていたらしい。


 頭を撫でられることが本当に嫌だったのか、それとも髪型が崩れるのが嫌だったのか、どちらなのかはよくわからない。でも、私はアーサー兄ことは嫌いではなかった。


「ちょっと兄さん。ルーシー嫌がってるじゃないか」

「だって可愛いんだもん。しょうがないだろ?」

「それは認めるけど……でもほどほどにね」


 そうやって軽く頭を撫ででくれたのは次男のジュード兄。

 子供の頃から穏やかで優しかったらしい。

 

 ジュード兄に撫でられるほうが好きだと、小さい私の顔が物語っていた。




 ——記憶が再び吹き飛ぶ。


 見たことのない地。

 緑が多く、どこか北海道を思わせる場所。


 ただ、町並みが日本とは違って、どこかおしゃれに見えた。


「<ルーシー! ルーシー! あぁ私の可愛いルーシー!>」

「ぎゃっ」


 母の母——私の髪と同じ色をしている祖母がそこにはいた。

 明るくてちょっと激しい。元気過ぎるくらいの人物で、恐らく五十歳以上だとは思うが、まだまだ綺麗だった。

 その祖母がぎゅっと私を痛いくらいに抱擁していた。


「<ルーシー! 空いたかったよ! あぁルーシー。なんでこんなにも可愛いのだろう!>」


 おじいちゃんだ。

 母が結婚前にアーサー兄を身ごもったと知り、怒り狂っていたらしい祖父。

 うちの家柄を出した瞬間に手のひらを返した現金な人でもある。

 その祖父も祖母と同じく私をぎゅっと抱き締めた。


 ここはイギリス——母親の実家だった。


 美人な母はとても都会で生まれたと思っていた。しかし、想像とは違い、この場所は緑が多く、都会とは程遠い場所だったのだ。


 だから北海道が居心地良かったのかな。

 ふと、光流との共通点を見つけ、嬉しくなる。


 今この時まで、全く思い出せなかったが、この温かい祖父母の家が好きだったんだ。

 ただ、食事の時間になると、私も兄たちも苦い顔をしていた。

 祖母が作ってくれたイギリスの料理はあまり私たちの口には合わなかったらしい。


 家族全員が仲が良い。

 こんな温かい場所があったのだと、やっと気づいた。


 どれだけイギリスに行っていないのか。

 顔が治った、ちゃんと成長した私を見せたい——そう思った。






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