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包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜【180万PV達成】  作者: 藤白ぺるか
第5章 高校生編

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265話 コスプレ撮影会 その2

「ルーシー、真空、しずは。撮るよー!」


 ラウちゃんと揺木先生から教えてもらった通りにカメラを構えて写真撮影をしていった。まずは魔乳天使側の撮影からだ。


「宝条、脇が見えるように武器構えて」

「朝比奈、もっと谷間作って」

「藤間、武器を胸に挟んで持って」


 隣でラウちゃんの指示が飛んで、ポーズが次々と変わる。

 しかも撮影が進むに連れてどんどん過激になっている気がする。どことなく三人の表情も硬く赤い。


「皆ダメ。ちょっと替わって」


 ラウちゃんが三人を押しのけて一人前に立つ。


「画像、見せた。どんなシーンかも教えたでしょ。イメージして……私は微乳悪魔……デカ乳は敵……吸い付くしてやる」


 そう言った瞬間、雰囲気が変わった。


 自分のキャラが乗り移ったかのようにラウちゃんの顔に怒りが走り、武器を構えて目の前にいる架空の敵に憎悪を向けた。

 まさにプロだった。


「わぁ……すごい」


 ルーシーも見惚れるほどだった。


「九藤、早くシャッター」

「あっ……うんっ!」


 俺も見惚れてしまっていて、シャッターを押すのを忘れてしまっていた。

 パシャパシャとシャッターを押していった。こちらが何を言わずとも良いタイミングでポーズを取っていくラウちゃん。


「……撮った写真見せて」


 しばらくすると、写真を確認しに俺に近づく。

 カメラをラウちゃんに渡すと、真剣な表情で眺めていった。


「ど、どうかな……」

「……初めてにしてはセンスある」

「よかったぁ」

「よしよし」

「——!?」


 皆がいる前で突如ラウちゃんは俺の頭を撫で撫でしはじめたのだ。

 いきなりのことに俺は恥ずかしくなり、少し後ずさってしまった。


「ん。ハグのほうが良かったか?」

「だだ、大丈夫っ!」


 ラウちゃんは恥ずかしがる様子も見せずにいた。

 それを見ていたルーシーとしずはが問題だった。


「むぅ〜〜〜〜〜」


 ワナワナと顔を赤くして怒りを向けていた。

 ラウちゃんではなく、なぜか俺の方にだ。


「良い顔。その気持ちでポーズとって」


 …………もしかして、わざと煽るようにして俺の頭を撫でた?

 ラウちゃんは普段ぼーっとしているように見えて、意外と計算高いのかもしれない。


 ルーシーたちの撮影を再開すると先程までとは違い、顔つきが変わったように思えた。

 ラウちゃんの作戦は成功したようだった。


 レンズ越しにどうしても彼女たちの胸や露出度が高い場所を見てしまうのだが、しょうがないだろう。役得というやつだ。


 そうして次に先生も一部カメラを持って撮影していた微乳悪魔の方を撮ることとなった。


 ラウちゃん、焔村さん、深月。こうして並ぶとどこか異色の三人だ。

 互いに話したことなどほとんどないと思われるが、結構ハマっているように思えた。


「キメてるポーズはもうとったから、次はやられてるシーン。二人はそこに寝て」

「え、床に?」

「ん。寝転がって」

「しょうがないわね」


 焔村さんと深月は渋々床に寝転がる。

 最後にラウちゃんが寝転がると、三人が川の字になるようにではなく、少し絡み合ったイメージで寝転がった。

 それに、こんな姿の深月を見ることになるなんて。冬矢には言えないな……。


「九藤、上から見下ろす感じで撮って」

「わかった」


 俺は三人に近づき、カメラを下に構えた。


 …………なぜかめちゃめちゃエロかった。


 特に焔村さんのマイクロビキニにボンテージスーツという謎のかけ合わせの衣装。自分が押し倒しているような感覚に思えてくるのだ。


「うーん。斜めは微妙……焔村の上に乗って」

「ななっ、何を言ってるの!?」


 撮り終わり確認すると、ラウちゃんは俺の写真の角度が気に入らなかったのか、それを解消するための方法を提案。女子の上に乗るなどとんでもない行為である。


「ひひ、光流……私なら大丈夫よ」


 焔村さんの顔がかなり赤くなっていた。


「むぅ〜〜〜〜〜」


 再びルーシーとしずはから唸り声と痛い視線を感じた。


「じゃ、じゃあ失礼するね……」

「うん……」


 俺は焔村さんの太ももあたりに跨がるようにして腰を下ろした。


「ひうっ」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫よ……気にせず思いっきり体重かけて」


 焔村さんの発言がどこかいやらしく感じた。

 隣にはラウちゃんと深月も横になって寝ており、カメラに収まるように三人とも顔がかなり近くなっていた。


 俺はそのままの状態で何枚か写真を撮っていった。


 そこから約二時間ほど。

 わざと汚すようなその場での衣装加工やメイク直しなどをしながら撮影を続けていった。


 途中、ルーシーとしずはが、上に乗って撮影してと言ってきたが、ラウちゃんが「そういうシーンはないから却下」と言ったので実現しなかった。



 ◇ ◇ ◇



「「終わったー!!」」


 伸びをしたルーシーと真空の声が廃ビルのコンクリートに反響する。

 既に着替えを済ませ、全員が荷物を持って帰る準備万端だ。


 さすがに全員に疲労の色が見えた。

 俺もヘトヘトで普段は使わない筋肉を使っているような気がした。


「光流。覚えてるよね?」

「え、何のことだろう」


 ふと、しずはにそんなことを言われた。

 考えるフリをしたが心当たりがなかった。


「撮影をしたら、私たちの言う事を聞くって話」

「あ……そんなこともあったような」


 これは勉強合宿でコスプレ撮影の許可をとるための条件。

 それぞれに俺が願いを叶えるものだったような気がするが、何をさせられるのだろうか。


「また後日ってことで、楽しみにしててよね」

「楽しみに……うん」


 俺が楽しみにしていいものなのかわからないが、しずはは笑顔だった。

 でも、頑張ってくれたことには違いないので、俺ができることなら何かしてあげたい。特にしずはは海外のコンクールのために絶賛ピアノ練習中だ。空き時間に参加してくれたようなものだ。


「九藤」

「ラウちゃんどうかした?」


 廃ビルから出ようと歩いている途中、ラウちゃんに服の裾を掴まれた。

 前を歩く皆の背中を眺めながら、後方で二人きりになった。


「次の土日。ちょっと良いか?」

「バンドの練習があるけど日曜なら多分大丈夫」

「ん。ならまた連絡する」


 ラウちゃんに何かの約束事を取り付けられた。

 ただ、今回はルーシーではなく、俺個人に対する用事のようだ。


 彼女の個人的な用事。

 どこか家族に関するもののように思えた。


「き、君たち……わかっているとは思うけど……私のことは他の人には言わないでほしい!」


 最後、揺木先生が懇願するように俺たちにお願いをして帰路についた。

 教師でもコスプレはしても良いとは思うのだが、えっちなコスプレをしているとなればまた話は別だ。

 これを良しとしない親御さんだっているだろう。俺たちもそれを承諾した。



 ◇ ◇ ◇



 そして七月の二週目、日曜日。

 ラウちゃんへの用事のため、東京の二十三区外のとある田舎の駅へとやってきていた、


 駅で待ち構えていたのは、遠くから見ても目立っていた存在。

 通る人がその姿に目を奪われ、視線を止めていっていた。


「ラウちゃん、待たせた?」

「ううん、さっき来た」


 太めのジーパンに上はぴたっとしたTシャツ。頭には深めのキャップを被っていた。

 シンプルな服装なのに、スタイルが良すぎて芸能人にしか見えなかった。


「じゃ、着いてきて」


 ラウちゃんが歩きはじめたので、その背を追った。


 今日俺はどこに連れていかれるか知らされていない。

 ラウちゃんも直前まで話すつもりはなかったのか、駅だけ指定してきたのだ。


 十分ほど歩くと、田んぼで視界が埋め尽くされた。

 緑の匂いが気持ちよく、小鳥の囁きも聞こえてきたのだ。


 ただ、ラウちゃんのイメージにはそぐわない場所だった。

 普段はぼうっとしているが、どちらかと言えば都会が似合う。


 ではなぜここに来たのか。

 それは少し坂道を昇った場所——視界の上に見えたいくつもの墓石がその理由を示していた。


「——お父さんのお墓。たまにお参りしに来てる」


 ラウちゃんの父親の墓だった。


 ラウちゃんの父親はファッションデザイナー。

 早くして亡くなったが、父を喜ばせたくてはじめたコスプレがラウちゃんのコスプレの始まりだった。


 しかし父親が亡くなって以降、母親が思い出すのが辛いという話で、コスプレを禁止された。

 今回のコスプレ衣装も見つかってしまった結果、そのほとんどが捨てられていたのだ。


 それだけラウちゃんの父親に関する問題は簡単には他人に立ち入るものができないものだった。


「良かったら、掃除手伝って」

「……ウン! 俺で良ければっ!」


 他人に墓を触れさせること、それはどのような意味を持つのか。

 俺には良くわからなかったが、ラウちゃんがそうしてほしいというのなら、俺はそれに従った。


 はじめからそうするつもりだったようで、ラウちゃんが持ってきたカバンの中から水のペットボトルや綺麗な布を使い汚れを落としていった。


 掃除などするイメージは全くなかったが、ラウちゃんの墓石を掃除する手は手慣れていて、何度も何度もこの場所に足を運んできたのだと良く理解できた。


「——お父さん。お友達、連れてきた」


 掃除が終わると、ラウちゃんは墓石に向かって一人話しはじめた。

 俺は横でそれを静かに聞いた。


「九藤光流。ハーレム作品の主人公みたいな人……私もその一人に加えられた」


 すっごい心外なこと言われてますけど……お父さん、嘘ですよ?

 そう話すラウちゃんの表情は相変わらず無表情だ。


「お母さんが禁止してるコスプレ、手伝ってくれた。九藤がいなかったら、撮影できなかった」


「……どうすれば良いのかな。どうしたらお母さん認めてくれるのかな」


「お父さんとの思い出。楽しいことばかりだから、コスプレも楽しいものにしたいよ」


「……………………」


 しばらく一人で話しかけたあと、ラウちゃんは最後に酒瓶を墓石にぶっかけた。

 父親はお酒が好きだったのだろうか。



「九藤、ありがと。あと一つだけ付き合って」

「うん……」



 ◇ ◇ ◇



 静かな墓参りが終わり、次に向かった先はこの場所から徒歩圏内だった。

 約十五分は歩いた先にあったのは、とても古い木造建築の二階建ての家だった。


『樋口』。そう表札に書かれていた家だった。


 到着すると、ラウちゃんはインターホンも鳴らさずに中へと入った。

 しかも田舎特有なのか鍵はかかっていなかった。


 俺が「いいの?」と言うもラウちゃんは「問題ない」と言ってズカズカ中へと進んでいったのだ。


「きたよ」

「あらぁ〜ラウラちゃん。久しぶりね」

「おお、ラウラか。よく来たなぁ」


 居間と思われる場所には外国人と思われる老齢の女性と日本人と思われる老齢の男性が夏ではあるがこたつテーブルを囲んで座っており、優しい笑顔で出迎えてくれた。

 そしてもう一人——、


「ラウラ! それに……前にお家に来たオトモダチ!」

「いきなりすみません。ラウラさんに連れてこられてしまって……」

「あらあら……座りなさい。果物でも出すわよ」


 カタコトで話すラウちゃんの母親と祖父母と思われる人物に迎え入れられてしまった。


 聞く話によれば、墓参りをしたあとは、父方の両親の家に顔を出すのが通例らしい。元々母親も同じ日に墓参りをする予定だったらしく、向かう時間はバラバラだが、最終的にはこの家にやってくるそうだ。


 祖父は日本人で、祖母はドイツ人だそうで、ラウちゃんには日本の血は四分の一だけ入っているとか。日本ではよくクォーターという言葉を聞くが、日本の血が薄いクォーターはあまり聞かない。それがラウちゃんだった。


「また背が伸びたんじゃない?」

「ん。伸び盛りだからそうかもしれない」


 高校一年生にして百七十センチは超えている。身長は俺とほぼ同じである。

 よく見ると部屋にはラウちゃんがモデルをしているポスターが飾っており、孫の事が大好きだと伝わってくるものだった。


 ラウちゃんの家族は温かく感じた。

 本人もどこかいつもとか違い、ゆったりとできている雰囲気だ。いつもゆったりしているが、心が安らいでいるとかそんな感じだ。


 トイレを借りて廊下に出た時、ラウちゃんが待ち構えていて声をかけてくれた。


「九藤。何も言わずに着いてきてくれてありがとう」

「全然良いよ。俺は特に何もできてないけどね」

「ん。それでいい。いてくれただけで」


 でも、それでもだ。

 俺の心の中にはずっと引っかかりが消えなかった。


「——このままでいいのかな?」

「九藤?」

「このまま隠れてコスプレをしていてもいいのかな……俺、やっぱりお母さんにも認めてもらうべきだと思ってる」

「それは…………」


 ラウちゃんもよくわかっている。

 多分、彼女なりにも何かしようとは考えたことがあるのだろう。


 でも、有無を言わせずに衣装を捨てられたこともあり、もう内緒でやるしかなくなっているのだ。


「俺さ……昔は好きなこととな何にもなくて。でも、今は音楽やったり、皆と一緒に過ごしたり、小さい頃では考えられないほど幸せだと思ってる」


 好きなことが自由できるというのは、当たり前であって、当たり前ではない。

 ラウちゃんを見ていて、よくそれが理解できた。


「でも、それをやれているのは、家族が否定せず応援してくれているから。ラウちゃんには、ラウちゃんの好きなことをしてほしい。人の家族の話に頭を突っ込むのって、すごいお門違いだと思う。でも、それでも……」

「私……」

「——ラウちゃんが隠れることなく、好きなことをしてほしいって思う」


 ああ、俺は何をしてるんだ。

 今から何をして、どこへ向かおうというのだ。


 そんなデリケートな問題。

 部外者の俺が首を突っ込んでいいわけがない。


 でも、一度関わってしまった同級生。

 他の人より、深くを知ってしまった同級生。


 悩んで、それでも好きなことをするために、隠れてまで俺に協力を求めて、そして実現したこと。

 好きなことをしている人っていうのは、こうも輝くのだと、撮影中のラウちゃんを見ていて思ったから。


「なにを」

「先に謝っておくね。ごめん」

「くど——」


 俺は立ち尽くすラウちゃんとすれ違い、そのまま居間に向かった。

 こたつを囲んで座っている三人。


 その中の一人へと顔を向け——、


「——ラウちゃんのお母さん! ラウちゃんにコスプレをさせてあげてください!!」


 そう渾身の土下座をして言い放ち、他人の家のデリケートな問題に首を突っ込んだのだった。



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