死の瞬間
道の真ん中でぼうっと突っ立っていると、頭の中がしんとしてくるような気がする。
脳内にある荒れた海が少しずつ穏やかになっていって、そして今まで吹いていた風が、動いていた空気が、あらゆるものが止まっていく感覚。
世界から色が抜け落ちて、情報がすごくシンプルになる。
私が今感じている世界は、とても両極端。
白か黒か。
静か動か。
生か死か。
遠くの方で何かが鳴っている。
おそらく踏切の音だ。
けれど私はすぐさまそれをシャットアウト。
私の世界に、それはいらない。
余計なものは存在させない。
頭の奥の芯を冴えわたらせて、極限まで感覚を鋭くさせる。
価値のない、ごみのような世界を知るためじゃない。
私だけの、私のための世界を知るために。
そうしていると、だんだんとそれが近づいてくるのがわかる。
まばゆい光を放つ天使が。
(ああ、やっと迎えにきてくれた)
私はそれに向かって、手を差し出しす。
そしてもう、手放す世界の産物、足元の道を踏みしめながら、その場で踊って見せた。
私が生きる、最後の踊りを。