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死神様の気まぐれ

作者: 舞原咲希




―――ねぇ、今度の春休み、一緒に桜でも見に行かない?




―――私、1箇所おすすめの所知ってるんだよね




―――いいの?忙しいんじゃなかったっけ




―――やった!約束だからね?




―――




◇ ◇ ◇



目が覚めました。天気は快晴、皆さんが最も憂鬱に感じるでしょう月曜日です。特に学生諸君にとっては宿題したり遊びに出かけたりのハードワークな休日を終えての登校です。ブルーマンデーなるものが存在するのも頷けるというものです。


私?もちろん苦手でしたとも。これでもピッチピチのJKですからね!ですが今日はそれほどでもありません。むしろ体が軽いくらいです。せっかくなので、久々に学校にでも行ってみようかなぁとか思っちゃったり!今から行けばちょうど3限が始まるくらいでしょうかね。遅刻しといて言うのもなんですが、ちょっとワクワクしています。なんせ、制服に袖を通すのも半年ぶりくらいなのです!



◇ ◇ ◇



つ、着きました………いけませんね、ちょっと動くだけで息が上がってしまいます。私達の教室は3階、ここからあと階段2階分上がらないといけません。やっぱり学年が上がるほど下の階に教室を置くべきだと思うのです。後輩くんどもが私より楽をしているなんて許せませんッ!!まぁ、自分が後輩のときは先輩方大変そうだなぁとか思ってたので自業自得?みたいなところはありますが。


さて、遂にたどり着いてやりましたよ、我が3年3組!思い切って勢いよく扉を開けます。あぅ、思ったより大きい音がなってしまいました………教室の皆が私の方を見ています。恥ずかしい………初めて教室に入る人間がやっていい事じゃないって、考えればわかったはずなのに。私のばかぁ………


私が入った時は、幸いなことにもちょうど休み時間だったようで、すぐに視線は散っていきました。これはギリギリセーフ?と言えるのではないでしょうか。改めて教室を見渡してみると、見知った顔がちらほらいますね。去年同じクラスだったあの子も同じクラスなようです。あっ、そして私の1番と言ってもいい親友、那月も同じ3組のようなのです!さすが私!もってますね。


ですがその那月さん、今日は元気がないようなのです。誰ですか、私の親友を悲しませたのは!後でしっかりと問い詰めないといけませんかね!これは!


話しかけにいきたいのですが、そういう訳にもまいりません。次の授業も始まってしまいますしね。くっ、ここは一旦引くしかありませんが、いずれ第2第3の私がッ………


そんなこんなで私の席までたどり着くことができました。皆羨む1番後ろの席です!窓側じゃないのはいただけませんが、しゃーなしなのです。一番前よりはマシなので許してあげましょう。


そして私の席にはなんと!かわいらしいお花が置いてあるではありませんか!私はあんまり植物には詳しくないので、なんの花かとかはわかりませんが、かわいいのでおーけーです!ふふ、我が親友のことは気がかりですが、一応幸先のいいスタートと言えるのではないでしょうか。この調子で1日乗り切ってやりますよ!!



◇ ◇ ◇



………無理です。なんですか、sinxのビブンって。この数弱の私にこれを理解しろなんて、到底無理な話です。ピザ屋が蕎麦打つ様なものですよ、これ。要するに私の分野じゃありません。私は食べる、寝る、遊ぶ専門なのです。勉強は頭のいい那月たちの分野なのです。


チラッと天才様の様子を伺います。さすが我が親友、手が止まることがありません。私とは文字通り頭の出来が違うのです。


―――決して私が馬鹿だと言うわけではありませんよ?ええ、ないったらないのです。


ただ、時折窓の外を眺めたり、どこか上の空だったりと、ちょっと心配ではありますね。というか今気づいたのですがこの席、那月の後ろ姿眺め放題じゃないですか!!やっぱりかわいいですね、我が親友は。ポニーテールの奥に見えるうなじとかぺろぺろしたい………


はっ!?いやそんなこと思ってませんからね!?私が那月の全身隅から隅まで舐め回したい変態みたいじゃないですか!ええ、誓ってもいいですがそんなことは欠片も思ったことはありません。私のこれはそう、ちょっとした馴れ合いみたいなものなのです。決して!邪な感情は!ありませんとも!


あっ、そんなことを言ってたら私の親友様はまた集中モードに入ってしまわれたようです。ふむ、こういう姿もまた………


………違いますからね?



◇ ◇ ◇



1ミリも理解できない授業は、とても長く感じられました。途中途中で至福の時間があったとはいえ、長いものは長いのです。やっぱり嫌なことほど時間が進むのが遅いみたいです。もしかしたら私、時間操作系の異能とか持ってるのかもしれません。コントロール?そんなの知りませんね。


そんなこんなで放課後になりました。いやぁ、疲れましたね。特に久しぶりの学校というところが大きかったと思うのです。私はだら〜っと机に体を預けます。疲労が私と机の接している面から抜けていくようです。これこそ私の編み出した究極の疲労回復方法!メリットは自分の机から動かずにできることで、デメリットはこの姿を人様には見せられないことですかね。


結局、1日那月と直接話すことはありませんでした。私的には声を聞いただけでも十分なのですが、話さなくても平気と言うと嘘になります。成分が足りないのですよ、成分が。


今は教室には私以外は誰も残っていません。午後になって突然降り出しましたからね、皆傘も持ってないでしょうし、早く帰ってお風呂にでも入っているのではないでしょうか。それに高3ですからね、部活も引退して自分の進路についても考えなくてはいけない時期なのです。放課後に残る理由もありません。


―――私?私は何も考えていませんよ?人間、なるようになるって小さい頃近所のよく飴くれるおばちゃんが言ってたのです!


しかし全員が全員帰ったかと言うとそうでも無いようです。コツ、コツ、と廊下を歩く音が聞こえます。私、耳だけはいいんですよ?


どうやら廊下の彼はうちのクラスの住人のようです。静かに扉を開ける音が聞こえます。さすが、誰かとは違いますね。昼間にドアを思いっきり開け放ったのはどこのどいつでしょうか。


コツ、コツ、と。足音は次第に大きくなり、やがて私の目の前で止まりました。私のぐでっとした姿を見られたからには無事ではかえせません!何奴めと思って顔を上げると、そこには我が親友様が立っていました。意外、というわけではありません。私の那月センサーがビンビンと反応していたので!


しかし何故でしょうか、あれだけ話したいと思っていたのに、いざ本人を目の前にすると上手く口から言葉が出てきません。



「………して……」



いけませんね、こんなことなら言いたいことくらいまとめておくべきでした。久しぶり、とか?やっぱり挨拶は大事だと思うのです。それともやっほー!とか?元気だけが私の取り柄と言っても過言ではありませんからね。



「………どうして……」



嗚呼、そんなに泣きそうな顔をしないでください。私は那月の、私のわがままに付き合って、それでも仕方ないなあって笑ってくれる、あの顔が好きなのです。いや、そうではありませんね。困った顔も、怒った顔も、嬉しそうな顔も、楽しそうな顔も、すべてが好きなのです。だから。



「………約束、したじゃないの……」



―――約束。



ええ。しました。去年、12月の頭頃でしたかね?私から誘ったんですよ?確かネットサーフィンをしてたら結構近くに絶景スポットなるものを見つけたのです。なんでも春になると満開の桜が咲き誇るとか。桜ですよ、桜!ココ最近はあまり見ることもなくなりましたからね。これは行くしかない!って那月にも無理言って誘ったんです。



―――ねぇ、今度の春休み、一緒に桜でも見に行かない?



まあ、もう行くことはできません。なんせ先週梅雨入りしたってニュースで見ましたからね。行ってもたぶん葉桜?とかだと思います。



―――私、1箇所おすすめの所知ってるんだよね



那月は私と違って勉強ができるのです。どこか頭いい大学を受験するとかで、必死に受験勉強に勤しんでいました。そんな那月に、1日だけ空けて貰えるように頼み込んで。



「………早すぎるよ……」



死神さんによると、死んだ人間は規定に違反しない範囲で、なんでもひとつだけお願いごとができるそうです。やっぱり現世に干渉するとかは規定違反だそうです。私の場合は、1日だけ幽霊としてこの世に残って活動する、というものでした。だけど。



―――お願いごと、まちがえたかなぁ



伝えたいことはいっぱいあるのに。言わなきゃいけないこともあるのに。まだごめんねも伝えてないのに。伝えられないのが。



―――こんなに、辛いだなんて思わなかったな



私はいっつも失敗してばっかりなのです。迷惑かけてばっかりなのです。ほら、今も私の1番の親友を悲しませているのです。



「………うぅっ、ひっぐ……」



だめです。何故でしょうか。視界がぼやけるのです。これでは、那月の顔も、見れないじゃないですか。


久しぶりに親友の顔を見て、色々満たしてばいばいする予定だったのに。



「………陽菜ぁ……」



死神さんに聞いたのです。どうやら私が消える時は少しずつ記憶が消えていって。それから。



「………戻ってきてよぉ………」



それから。


それから。


「………陽菜ぁ……」


ところで、私の目の前で泣いている子は大丈夫なのでしょうか。あーあー、綺麗な顔が台無しじゃないですか。というか、よく見たら懐かしいような気もしますね。どこかで会ったことがあるのでしょうか。



嗚呼、これが終わるってことなんだな、ってわかるんです。私から()()()大切なものが消えていくのも。



―――そういえば言わなきゃいけないことがあったような気がするんです。でも思い出せません。やっぱ気のせいだったのでしょうか。



む、これはもう限界っぽいですね。なんか頭がふわふわします。理解(わか)るんですよ?意外と。



んあー。なんかすっごく気持ちいいです。



あ、それと


















「那月、ごめんね」


「そして、ありがと」


















死神様の気まぐれも、たまにはいいのではないでしょうか。








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