古の魔法は王女を襲う
「ジェリム卿、この子は?」
率直な意見を目の前の貴族に尋ねる。
この御方はフローラ=シュバルツ様。この国シュバルツ王国の第三王女であられます。
「なんと…。」
先生は多少驚いたようだが、僕は開いた口が塞がらなかった。だがこの現状聞かなくてはいけないことがある。
「あ、あのこの方が第三王女様ですか…?ですが何故眠って居られるのですか?」
「原因はわかりません。ただ眠っているのではなく、眠り続けてるのです。」
「どういう事ですか?」
「実は…。」
ジェリム卿によると話はこうだ。
元々健康そのものの姫様が突然眠りに落ちる奇病が発生した。
最初は数分程度だったものが数時間になり、週に一回程度だったものが数日起きになったという。
王都の原因不明の風土病かと思い、フローラ様を支持するブラッドムーン公爵家に看病の為に運び込まれたという。
しかしこの奇病は時間と共に頻度が増して行き、とうとう3日前からずっと眠り続ける事態に至ったという。
「リア、フローラ様の熱とか変わった所はある?」
僕が背を向けてる間にリアにはフローラ様の服を脱がしてもらい、見える範囲で調べてもらった。
「熱も人と変わりないし、目立った外傷も特に無いようね。」
「なら一応回復魔法をかけてみるか。ヒール。」
僕の手のひらを中心に優しく暖かい光が周り一体を包む。
「ダメか…。」
僕の癒やしの光は彼女には一切反応しないようで、彼女はただ深い眠りにつき続ける。
「やはりフローラ様もう…。」
ジェリム卿は悲痛の叫び捉られる苦悶の声をあげる。
「でも、ただ眠ってるだけじゃ…?」
僕は疑問の声を上げる。
「主よ…。人の子が三日間飲まず食わずしたら…。その先は言わなくてもわかるじゃろ?」
「・・・。」
僕は言葉が出なかった。
「先生。鑑定して何かわからなかったの?」
「悪いが主よ。鑑定のスキルはそこまで便利じゃない。だが一つの可能性が出てきた。」
「可能性?」
「うむ。ワシの鑑定すら見破れない。ならつまりワシが知らないって事じゃ。つまりこの娘は恐らく古魔法。つまり呪われておる。」
「呪い…?」
「ワシの旧友とも呼べるドラゴンに昔聞いたことがある。この世界にはかつて呪術と呼ばれる魔法があったと。だがその魔法は代償が必要であり、代償が故に危険すぎる為この世界中から呪術という魔法をこの国挙げて葬り去ったと聞いたことがある。」
「じゃあ、この子はその呪いによって…。どうにも出来ないのか?先生。」
「落ち着け。対処法はなくもない。お主ドライアドに解呪を習ったじゃろ。」
「それって確か対象の魔法を打ち消す魔法だよね?」
「あぁそうじゃ。ただ解呪の魔法は発現者、もしくはその対象者に対して直接触れなくてはいけない魔法じゃ。じゃからこの娘に触れて解呪すれば行けるじゃろ。」
「わかった…。」
僕はフローラ様に近づき魔力の根本である、心臓…即ち胸に手を当てる。
「解呪…。」
僕の手のひらが淡く光、優しい光がこの部屋全体を包み込む。
「あ…私は……。」
先程まで眠り続けていたフローラ様がゆっくりと瞼をあげ目を開ける。
「良かった…。」
安堵が僕やジェリム卿を満たした束の間、解呪の魔法を解いた瞬間、またフローラ様は眠りについた。
「こ、これはいったいどいう事ですかな?」
ジェリム卿が慌てて僕達の間に割って入る。
「先生。これは一体…。」
「落ち着け。考えられる可能性は一つじゃ。主の解呪は確実に成功した。だがこの娘は一度目を冷まし再び眠りについた。ならば考えるとしたら、この娘現在進行系で呪われておる。」
「な・・・。」
「主でも無理じゃ。24時間この娘と付きっきりで解呪するのか?不可能じゃよ。」
「でも先生、僕に見捨てろと?僕は、僕はできる限り…。」
僕は俯き自分の力のなさを呪う。
そのだらんとぶら下げた僕の手をリアが優しく無言で握ってくれる。
「何を言っておる?お主の本業は回復屋じゃないじゃろ?薬師じゃろうに。なら話は簡単じゃ。解呪のポーションを作ればいいじゃろ。」
「それならこの子を?」
「あぁ助けられるじゃろ。ただ確実にリアが泣くぞ?」
「よくわかんないけど先生。この子が助けられるなら!リアもいいよね?」
リアは僕と同じで会話を理解してないようで表情が「わかんない」って顔を僕に向ける。
「ジェリム卿、少し台所を借りていいですか?」
ジェリム卿は驚いた様子で慌ただしく続ける。
「構わないが、な、なにを?」
「それだけは秘密です。」
僕達は案内された台所に一直さんに向かう。