モチベを取り戻すって本当に難しい
フィールドでのチーム戦でまたしても、JKの圧倒的な戦力差を見せつけられた私は、意気消沈しログインしても、すぐにログアウトするようになっていた。
そんな事を数日繰り返していた頃、JKから呼び出しが来た。
「なんかこうしてゆっくり会うのひさしぶりだね、フラウ」
「……うん。そうだね……私がすぐ落ちちゃってから……」
いつものたまり場ではなく、人混みを避け映画でよく見る、アウトローな人たちが危ない取引に使う時に出て来る酒場のような店に案内され、JKと対面で話す事になった。
「なんか最近フラウ元気ないみたいだけど、なにかあった?」
「……別に、ないよ」
「ほんとー?いつもだったらニッコニコで楽しそうにしてるのに、ここんとこずっと顔がつまんなそうにしか見えないんだけどなー」
対面の席で俯いている私の顔を覗き込むようにしながら、JKは揶揄うように言ってきた。
「ほんとに……なんでもないから」
「……そっか。じゃあさ、ちょっと付き合ってよ」
JKは私にパーティ参加の要請を寄越した。
「どこかいくの?」
「まあね。今日はちょっとだけやれるんでしょ?」
「……うん」
私は沈んだ気持ちのまま、申請を承諾しリーダー権限を持つJKにポータル移動を任せた。
光に包まれ、連れられたのはこの間のランダムマッチと同じフィールドだった。
「ここは……」
「そ、フラウが初めてチーム戦したやつ。あれの条件プレイヤーが決められるモード」
「あれ、このチームって」
「そ、この間遺跡で私たちと戦ったチーム」
視界の隅に表示される対戦相手のチーム名は確かに、この間戦った連中だった。
「ど、どうして?」
「いやー、なんとなく暇そうだったから対戦ログから個人チャット飛ばして連絡とってさ。リベンジしたくない?って煽ったら釣れちゃった」
いたずらが成功した子供のように笑うJKは、装備を確認し始める。
「武器は手持ち使用可、スキルやパラメータも現在の状態依存。まあ、武器とかステータスの縛りがないサバゲ―モードって感じだから、フラウも好きな武器で挑めるから」
「いや、そうじゃなくってやるなら……JKだけで勝てるじゃん……。私なんかいなくても……」
私は自分でも驚くほど掠れた声を絞り出すが、聞こえなかったのか聞こえなかったフリなのかわからなかったが、JKは愛銃のショットガンのグリップを握り試合開始に備えた。
「さ、始まるよフラウ」
「……う、うん」
足を引っ張らないようにすることだけを考え、私は深呼吸して開始の合図に合わせてゆっくりと足を踏み出した。
「人数もこの間と同じなんだよね?」
「そ、同じ。向こうもたぶん装備は変わらずだろうから、戦いやすいでしょ?」
「そ、そうなのかな?」
荒廃した市街地エリアといった戦闘フィールドに、さっそく小さい金属音が鳴り朽ち果てた自動車のなれの果てに身を隠すと、すぐ目の前で爆発が起こる。
「索敵の手間を、グレネードで適当にビビらせて追い立てる魂胆か」
「どうするの?」
「ノリと勢い」
ニヤリと不敵に口の端を吊り上げ笑うJKの顔は心底楽しそうで、見惚れてしまう程だった。ここ数日私自身は、足を引っ張る事ばかりして自己嫌悪に浸り、ゲーム内で笑う事など全く無くなっていた。
「楽しそうだね、JK」
「うん、楽しいよ。一回一回の戦闘が楽しいからね」
「羨ましいな、たまたま夢中になってたまたま集団を追い返せただけの私とは大違いだよ」
対戦の真っ最中だというのに、私はJKの笑顔が正直羨ましくて妬ましくて悔しくて仕方が無くなっていた。
「……そっか。そういう事か」
JKはぽつりとそういうと、深呼吸をし出した後、スクラップの陰から飛び出した。
「おーい!!ここにいるぞおぉ!さっさとかかってこーい!!」
「ちょ!?JKなにしてるの!?」
「何って挑発、隠れてるの飽きたし、ほらフラウも何か言ってやりなよ」
私の手を引っ張って無理やり立たせると、背中をぺシぺシ叩いて来た。
「ほらほら、どたどた聞こえてきたよ。もう一押しなにかいってやりなよ」
「……脳天ぶち抜いてやるぞぉ腰抜けええ!」
「あははは!良いねぇ!どこぞのアクション映画の悪役みたいだ!」
私の挑発のセリフに腹を抱えて笑いながら、JKは右の廃屋から仕掛けてきた一人に信じられない反応速度で、銃口を向けショットガンをお見舞いし腕を吹き飛ばすと、身を低くして接近した。
「まず一人」
「うっそだ――」
JKの反応速度に驚愕の顔を浮かべて体勢を崩した男は、接近してきたJKのトドメのショットガンを食らい粒子になって消えた。
「舐めやがって!おい、小さいのからやっちまえ!」
挑発にまんまと乗った相手チームは一斉に顔を出し、至る所から発砲しながら距離を詰めてきた。
「ひぃぃ!?私の方が目付けられてるぅ!」
「良いね良いね!フラウ、やっちゃいなよ」
男を屠った廃屋の陰から、銃声に負けじと声を張って揶揄って来るJKに腹を立てつつも、確かにやられっぱなしは性に合わないので、私も負けじと銃だけを突き出し、応射しつつ相手の位置を探る。
「JK!!」
「なぁにぃ!」
「このまま突っ込んでくる!」
「おっけー幸運を!」
サムズアップしたJKに同じく返すと、私はスクラップのボンネットを足掛かりに、ルーフに飛び乗りそこから更に跳躍、一瞬の滞空時間でどうにかして視界に映った私を狙っている射撃主の位置を出来るだけ把握して着地、一気に距離を詰める。
「な、なんだこいつ。はええ!?」
私のアバターは低身長で、ステータスをほぼ速度に割り振っているおかげで機動性に長けているのを生かし、視界に捉えることが出来た二人の片方へ向かった。
「ちっちぇえし、早くてねらいにきぃぞ!」
「落ち着け!グレ使えグレ!」
何発か流石に貰ったが、なんとか頭部を死守し最低限のダメージに抑え、完全に距離を詰められ慌てふためく男に肉薄すると、サブマシンガンではなく腰に差してあるナイフで脚を切り裂き、跪いたところを振り返り首にもう一閃加え、男を粒子に変えた。
「てめ、ちび助!」
仲間のフォローに向かって来た男は、間合いを詰めようとはせず、冷静に距離を保ちアサルトライフルで確実に仕留めようと正確に私の足を撃ち抜いた。
「ぐぅ!?」
「動きは良かったが、流石に囲まれた後じゃ中々辛いだろ、おめえを殺してPKJKに残りで攻めればおしまい、今度こそ俺らの勝ちだ」
「かもね」
私は撃ち抜かれた足を引き摺りながら、後退し距離を取ろうとする。それをじっと見つめて笑う男。
「はは、流石にそれじゃ不便だろ。今楽にして――」
男が勝利を確信した笑顔のまま爆発に巻き込まれ、粒子になって消えた。
「さりげなく、撃ち抜かれた時にタイマー式のグレネード転がしといて良かった……」
結局のところ、試合は今回もJKが残りの人数を壊滅させ私たちの勝利に終わり、男たちは今回も悔しそうにしてフィールドから出ていった。
「どうだったフラウ」
「やっぱりJKは強いって事が分かった。そんな人と私がコンビを組んで対戦するなんて、私が足を引っ張るだけでJKからしたら絶対楽しくないし、たまたま勝ちが続いてるけどいつかきっと負ける時が来ると思う、その時の原因はきっと私」
私はスッと顔を上げてJKの瞳をじっと見つめながら言う。
「フラウは私とのプレイヤースキルの差とかそういうの気にしてるけど、正直どうでもいい。私は楽しければそれでいいの。私はフラウとこのゲームで知り合って一緒に居て楽しいの。これからもずっと遊びたい。フラウは私とゲームするの嫌?」
JKは私よりも身長が大きいのに、なぜか小さく怯えた子犬が縋るような目で私を見ていた。
私は、一歩距離を詰め手を伸ばせば届く所まで近づき、首を横に振った。
「さっきまでは憂鬱だったんだ。どうしても見せつけられる実力差に。けどさ。私は別に強くなりたいからこのゲームしてるわけじゃない。ただ、ゲームをしたいからしてるだけだし、JKと一緒にたまたま今対戦してるだけだよなって思えてきてさ。じゃあやるだけやって負けたらそれでいいじゃん、とことんやってやろうって思ったら。なんだか悩んでたことが馬鹿らしくなってきたんだ。だからさ、JKとゲームするの嫌じゃないよ。大好きだよ」
私はそっとJKに手を伸ばし抱きしめた。
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