楽しい学生生活。
通勤ラッシュで息がつまりそうな電車内にヘッドフォンで外界をシャットアウトし死んだ目で窓の外を眺める。
「ああ……なんて晴れやかな青空、公園のベンチで横になって昼寝したら気持ちいいだろうな……」
だらけ切った独り言をブツブツと呟きながら降りる駅に着くの待つ。
私が通う川崎学園は女子高で中の中という評判のこれといって特徴のない学校だったが、受験した理由は自宅から一番近いからというなんとも簡潔な理由だった。
「マジだるい、ホントだるい」
しばらく揺られていると目的の駅に着きホームから改札へ、そして学校へ向かう道をトボトボと心底嫌そうに歩く。
「車かバイク、実車でもイケそうな気がするんだよね……いやイケないか標識とか意味わかんないし、そもそもあっちで法定速度なんて守って走った事ないしね……ああ免許ほちぃ……」
ただひたすら死んだ魚のような目で周囲を見渡しながら学校へと向かい校門を抜け、靴を履き替え自分の教室へ向かい窓際の一番後ろの自席へ着き、カバンから小説を取り出し適当なページを開き読んでいるフリをする。私は他人との接触を極力避けたがる孤独が好きな人種。世間でいういわゆる陰キャだった。
「でさー昨日カレシのうちにいったんだけどさー」
「ねね、昨日新しく駅前に出来たカフェに放課後いかない?」
雑多な会話をヘッドフォンで遮り適当に開いたページの文章に目をやり適当に読み進め時間が過ぎるのをただ待つ。私にとってこの学校にいる時間は苦行でしかない。
「ああ、早くタイムタイムマシンかなにか誰か作って私にくれないかな」
誰にも聞こえない音量で呟き、朝礼が始まり、授業が始まり、そうやって時間が過ぎ下校時刻になるのを待つ。 私、花守さゆりの日常の前半はいつもこんな調子で進んでいく。
そして、念願の放課後、教室の生徒たちはやれどこのゲーセンに行くだのどこのカラオケにいくだのどこのファミレス寄ってくだのと談笑しているが、さゆりは一目散に教室を後にする。勿論走ったりはしない、あくまで確実に迅速に下駄箱にたどり着くために早く歩く。 下手に全力ダッシュなんぞすれば教室の生徒たちや他の学年、クラスの生徒。そしてなにより教師たちの目に留まり注目を浴びるし説教だってされるかもしれない。
しかしそんな事に割ける時間は一秒たりとも無いのである。故に彼女は歩く、誰よりも早く。
下駄箱へ辿り着き靴を履き替え駅へと向かう。勿論同じ駅へ向かう生徒たちにも注意を払い電車に乗るまでは競歩スタイルを忘れない徹底っぷりである。
それから数分、自宅の近くの駅で降り、ホームと改札を抜けると一気に猛然とラストスパートと言わんばかりに駆け出す。
「終わった終わった! クソッタレの学校が終わったぞー!」
数分走り続け上がる息を吐きながら自宅のドアを勢いよく開け、脱いだ靴はきっちり揃えキッチンで夕飯の準備をしているお母さんにただいまを言い、階段を駆け上がり二階にある自室にたどり着きカバンをフローリングの床に放り投げ、着古した黒のジャージに着替えてから机の横にある、頭部を覆い隠すデザインのVR装置を被りベッドに横になり、三か月前にサービスが開始され、私がこの一か月ドップリはまっているVRゲームタイトルを音声認識で起動させる。
「『ナイトメア ハンティング オンライン』 起動!」
VR空間で戦場へと向かい立ち向かってくる敵を殺し時には殺されスリルと興奮を愉しむ。
それが私の日常の後半なのだった。
書き溜めてあるのでその分が無くなるまでは一日一話で行こうと思います。




