対人戦の光と闇
『ナイトメア ハンティング オンライン』には様々なアトラクションが用意されていて、プレイヤーから『サバゲ―モード』と呼ばれ親しまれているアリーナマッチというのがある。
ルールは簡単で5v5の3マッチ制をランダムで生成されたフィールドの端に5人が同時に配置され、遮蔽物などを利用しつつ撃ち合い、ステータスは全員初期ステータスで一回死亡したら1マッチ終了まで観戦するしかなくなるというシステムで、そこが現実のサバイバルゲームとほぼ同じ事から呼ばれる事になったようだ。
それを丁度、話題にしたらJKがやってみる?と振ってきたので参加し、ランダムでマッチングしたチームメンバーの人と対戦エリアに降り立った所だった。
「よ、よろしくお願いします!」
初めての対戦形式ということもあり、私は緊張して声がひっくり返った。
「あはは!フラウ、緊張しすぎぃ!もっと気楽にいこうよー。よろしくねー」
強張った私の肩を優しく揉み解しながら、他のメンバーに挨拶をした。
「んっ!?おいおい、あんたその恰好……ペケジェイか!?」
「んー?まあそう呼ぶ人もいるね」
興奮気味にJKに話しかける男性アバターと、JKの反応を見て他の男女もそれぞれ何か反応を示した。
「JK、ペケジェイってなに?あだ名?」
私一人意味が分からずおいてけぼりをくらい、遠巻きに3人を眺めつつJKに出てきたワードを聞いてみる。
「うん、自分で名乗ったわけじゃないんだけどさ。このゲームってプレイヤーキル、略してPKも全然アリなシステムじゃん?だから、最初の頃はモンスターだろうがプレイヤーだろうがお構いなしに襲い掛かって、狩りまくってたのよ。そしてたら私のJKの頭にPKをくっつけてPKJK、略してペケジェイって呼び始める人が出てきたってわけ」
「お、おう。そんな有名になるくらい狩りまくったんだ……」
「まあね、ゲームが出てからほぼずっと狩りまくってたし、たまたま選んだこれが女子高生の制服みただったせいもあるかも」
JKはいつも着ているセーラー服の裾をちょんと引っ張って笑う。
「確かに――」
「あ、あの!」
会話を遮るように、残りの二人の片割れの男のプレイヤーが話しかけてきた。
「そっちの小さい子はフレンドなんですか?」
「うん、私から声かけたの」
JKの返事に目を見開いて、私を品定めでもするように見つめてくる。3人の反応に少し嫌な感じがしたところで、ゲーム内アナウンスが始まる。
「よーし、たのしもー!」
「おー!」
シグナルと同時に私は、今回の対戦エリアである市街地のひび割れた大通りを駆け抜けていく。
「ちょ!いきなり行くのかよ!」
慎重に索敵しながら行くつもりだったらしい他メンバーは呆気にとられている。
「え、あ……ごめんなさ――」
振り返って隊列を組むため、戻ろうとした時、ちょっとした衝撃が私の頭を貫き暗転し、シアタールームのようなところに転送された。
「あ、私狙撃されて、即死?」
モニターからは、3人のメンバーが私のファーストダウンに対して悪態をつく声が聞こえてきた。
『いや、あんなガンダ決めてヘッショ一発ダウンって……なに?荒らし?』
『ないわー。あれでJKのフレってどういうこと?』
『ちょっと!フレンドになる理由が強い弱いとは限んないでしょ!やめてよね、そういう言い方』
システム上音声カットは出来ないらしく、会話がそのまま私の耳に届いて来る。
そんな時だった。
『良いじゃん別に、強くなくちゃこのゲームしちゃいけないなんてことないと思うんだけど?違う?』
あっけらかんとした口調でJKは話しながら、ゆっくりと索敵していく姿が映る。
「……それは、そうかもしれないけどさぁ――」
「黙って、敵がいる。男は右から、私たちは左から行きましょ。合図したら行くよ」
壁に身体を寄せて、目線で合図してJKが廃屋の左側から身を乗り出し、姿勢を低くして駆け出す。
「やってやらぁ!」
それにタイミングを合わせて3人も一斉に駆け出して、左右から挟撃が見事にハマり敵チームの4人を撃破した。
「あと、一人は……最初の大通りで狙撃してきたし……もうちょい奥か?」
「流石にこの状況で、同じ場所に留まって狙撃を狙うとは思えない。武器を変えてどこかで待ち構えてるはず」
「4人相手にどこまでやれるのかね?」
余裕の笑みを浮かべて、索敵していくと武器を持ち替えた一人が痺れを切らして特攻してきたのを、全員で挟撃し撃破。
まずは一勝を手にした。
「さ、さっきはすいませんでした」
「気にしないでフラウのやりたいようにやればいいんだから」
「う、うん」
「そうですよ、楽しみ方なんてそれぞれなんですから!がんばりましょ!」
ふんす!と可愛い声で気合を入れて、女の人は私を励ましてくれた。
「まあ、とりあえず死なないようにしてくれれば、こっちでなんとかすっから」
「だねー、逆にさっきみたいに突っ込んで囮になるのも、ありっちゃありだから。ご自由に」
期待も何もしていない、そんな声音で声をかけてくる男二人に、女の人が注意するがヘラヘラ笑うばかりで反省の色を示す事はなく、2戦目が始まった。
相手チームはさっきとは打って変わって、隠れて待ち構える戦い方から、真逆のあからさまに音を立てて、位置を知らせておびき出されたこちらのチームを、狩っていくスタイルに変えてきた。
「うわっ!」
「きゃあ!」
男の一人が胴を撃ち抜かれて退場し、女性もそのすぐあとに背後から回り込まれて離脱してしまう。
「くそっ!さっきと全然ちげえ!舐めプしてやがったのか!?」
「うるさい黙って。敵がだんだん包囲を狭めて来てる。フラウも気をつけてね?」
「う、うん」
馴れない集団でしかも屋内戦で、私はもう動作の基本すら覚束ない状態になっていた。
そんな時、フラウと男から少し間を空けて歩く私の目の前に、敵チームの一人が音もたてず忍び寄ろうと現れたので、銃を構えてトリガーを引く。
「あ」
空しくカチンと音だけがなり、弾が出ずそれに気づいたそいつが、振り向いて私に気づいて脳天に銃弾をお見舞いし、私はモニター席に転送された。
「リロードしておくの忘れてたぁぁ!私のばかぁ!!!」
「ど、どんまいですよ!」
「……つまんねえミスしてんなよ……ったく」
フォローしてくれる女の人と悪態をつく男の人の音声が届いて来て、いたたまれなくなり俯いてしまう。
『俺たちだけか……今ので一人やったがそれでも4人残ってるしよぉ……つうか真後ろ取ってるのになんであのチビ撃たなかったんだ?利敵行為してんじゃねえよ、クソが!』
『……別行動しましょ、私が適当に暴れて敵の位置伝えるからさ。あとはそっちに任せるから』
今まで聞いた事もない感情の冷め切った声音で、JKが後ろをついて来る男に言い放つと、足音を立てずに駆け出していく。
「おい、まっ――」
狼狽えた男の声が途中で銃声にかき消され、ついにJK一人になった。
あと一回勝てばこちらの勝ちではあるけれど、4対1というこの状況では厳しいのでは?という空気が観戦組の中で漂い始める。
『ふふ、面白くなってきたじゃん』
そう言ってJKは、ショットガンを構え不敵に笑ったのだった。
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