新作落語『量子力学』
「物知り先生! 聞きたい事があります!」
「どうした、生徒くん。何を聞きたいんだい?」
「量子力学って何ですか?」
「量子力学?」
「量子力学って、原子よりも小さい粒々の理論だとかシュレディンガーの猫とか、ニュートリノとか、スーパーカミオカンデとか、全然訳が分からなくって」
「量子力学とは、えーっと……」
「あ、先生も知らなかったり?」
「バカ言っちゃいけませんよ。実は『量子力学』は『りょうしりきがく』ではなく、『りょうこ、ちから、まなぶ』なのですよ」
「量子、力、学!?」
*
夕焼け空をバックに、見つめ合う男女。
「佐々野量子さん、好きです! 愛してます!」
「物理学くん、ありがとう。嬉しい……」
「では、僕と付き合って下さい!」
「でも、ダメなの。私には家同士で決められた許嫁が」
「えっ!?」
「はっはっは! 力はパワーだ!」
二人の前に現れたのは、長髪のいけすかないイケメン!
「何っ!? お前は原子財閥の御曹子、原子力!」
「彼女は俺の物だ、諦めてもらおう」
量子を強引に抱き寄せる力。
「嫌っ!」
「量子さんを放せ!」
「核分裂パーンチ!」
ドゴォ!
「うわあああーっ!」
「学くーん!」
「はっはっは、貴様ごときが財力、権力、暴力の三拍子揃った俺に敵う訳があるまい……」
*
「えっ? 急に何が始まったんです?」
「愛し合う量子と学の間に立ちはだかる力。これこそが量子力学!」
「あ、量子力学の説明だったんですね。でも、学くん負けちゃいましたね」
「この話は、まだ続きがあってね」
*
「待て……、僕はまだ負けてないぞ……」
息も絶え絶えに、立ち上がる学。
「ふん、死に損ないめ。放射性破壊キーック!」
「出でよ、召喚獣! シュレディンガーの猫!」
ニャーッ!
「ぐわあっ!? 爪で引っかかれた!」
「必殺、新しい鳥の唐揚げ!」
「もがぁーっ!」
学は揚げたて熱々の唐揚げを、力の口に突っ込んで倒した。
「学くーん!」
「量子さん!」
二人は抱きしめ合い、口づけを交わす。
「学くん、髪を噛んで」
「え?」
「私は髪の毛で感じるの! 超・髪を噛んで!」
ガブガブッ!
「ああ~っ♡」
*
「こうして、二人は幸せに結ばれたそうな。めでたしめでたし」
「なるほど、量子力学は能力バトルだったんですね。でも、量子力学って『小さい粒々』の理論だったような」
「まあ、細かい事はいいじゃないか」
「そうは行きませんよ。小さい粒々はどこ行ったんです?」
「えーっと、そうそう、量子の好物が『たらこパスタ』だった」