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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第10話 [動物を飼い慣らすって道徳的にどうなんだろうな。]
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ロウルフ ー安城麗華ー

 大会会場の地下避難所。大会関係者から参加者、観戦者が各々、バラバラに敷き詰め合い、ノゲムからの恐怖に怯えていた。たまにチームのメンバーを見つけ、声をかけようとするも、人混みで埋もれ、すぐ見逃してしまう。


「史織ちゃん!? 大丈夫!?」


 騒がしい人混みのなか、私は繋いだ手の先にいる友達に声をかける。


「大丈夫! それよりも今ノゲムはどこにいるんだろう……ここに来たりしないよね?」


「分かんない……とりあえず今はゲットリッダーを待つしか……」


「ノゲムが来るぞぉぉぉ!!」


ドォォォォォォン……!


 突然後ろの方から男の人の声が聞こえたかと思うと、すぐにとてつもなく大きい衝撃音が聞こえた。

 振り返って確認しようとするも、人混みが急激に押し寄せ、私たちは雪崩のように倒れ込んでしまった。周辺一帯の人が倒れたことで、ノゲムの姿がここからでも見ることができる。


 全身に黄緑色のゼリーのような、透明で弾力のあるような見た目でありながらも、人のように手と足がある。ユラユラと揺れ動くその姿は、この状況も相まってかとても不気味だ。


「こ、これってヒューマンノゲムなんじゃ……?」


 横にいた史織ちゃんが呟く。


 大翔が何度か戦ってきたヒューマンノゲム。ノゲムと人間が融合することで、知能も能力も上がり、通常のノゲム以上の被害を起こしてしまう存在。


 人々はノゲムに怯え、より多くの悲鳴が辺りに響く。


「コンナセカイ……コワシテヤル……」


 ノゲムは、痙攣するように震えながら言葉を発した。女の人の声だとは思うが、様々な声色が混ざり合っているような、人間ではなくなってしまったようなその声は、私たちの耳に不快感をベットリとこびりつかせる。


 ノゲムは人混みへと突き進む。逃げようとするも、奥はもう十分に詰まっており、後ろに下がることができない。

 

「ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!」


 ノゲムが、目の前にいる人めがけて走り出した。おそらく一番先に目についたから襲うのだろう。ノゲムの錯乱している状態を見ると、何か明確な目的があるとも思えない。


 私の脳内には、その後予想される悲惨な光景が思い浮かぶ。私は地面にうずくまり、耳を押さえた。

 あの人はこのまま死んでしまうだろう。いや、あの人だけじゃない。前から順番に殺されていき、やがて自分も。


 私たちはこのまま死んでしまうのか。体が残りもせず、バラバラになってしまうのだろうか。

 私は怪物に襲われる恐怖、絶望を感じた。


 死にたくない。もっと生きたい。もっと大翔と一緒にいたい。

 ただただ願うしかなかった。




 これから来るであろう衝撃に備え、精一杯押さえていた耳には一向に音が入ることはなく、衝撃も感じられなかった。

 私はその不自然さから耳を押さえる腕をさげ、前を向いた。そこには、腰を低くし臨戦体制をとるノゲムから、私たちを守るように立つ男の背中が見えた。

 使い古したような少しボロボロなジャケットは、明かりを反射することもなく、ただ寂しくどんよりと黒色が浮かんでいる。

 この人には一度だけ会ったことがある。それも最近。どこか寂しげで、それでいて強い意志を感じる背中が印象的だった。


 男はノゲムへとゆっくり歩いていく。


「get rid……」


change(チェンジ) Getrider(ゲットリッダー) Rorufe(ロウルフ) Union(ユニオン) Shootomanaihina(シュートメナイアヒナ)


 強い覚悟を決めたような、低く鋭い声を発し、男は変身した。

 紫色で艶やかな姿のゲットリッダーは、ノゲムに怯えることなく、鋭い威勢を纏いながら、一歩、また一歩とノゲムに近づいていく。


「邪魔しないでよォォォ!!」


weapon(ウェポン) 転送 Swordfishhorn(ソードフィッシュホーン)


 甲高い声を上げゲットリッダーを飛び越えようと高く跳ねるノゲムだが、ゲットリッダーは素早く武器を召喚し、狙うようにノゲムの腹部を突き刺した。


「ギャァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!」


 ゲットリッダーはノゲムを刺したまま、その身体ごと腕を後ろへ持っていき、勢いよく前へ振る。ノゲムは太い針から離れ、避難所の壁にドンと強く叩き付けられた。


「ここから一歩も進ませない」


 ゲットリッダーはさっきとは打って変わり、ノゲムへ素早く走り出した。ノゲムも体を起こし、ゲットリッダーへ向かって走り出す。近づくと、ゲットリッダーはノゲムの右肩を突き刺す。しかしノゲムには効いてないのか、刺さった肩に構わず体を屈み、そのままゲットリッダーの頬に殴りかかる。ゲットリッダーはノゲムの体からつるんと外された武器を引きながらノゲムの拳をかわし、もう一度突き刺す。が、またもやノゲムは武器を体からはずし、ゲットリッダーの腰あたりを蹴りかかる。

 ゲットリッダーは腰にきた足を受け止め、右足を軸に体を半回転させてノゲムを放り投げた。

 ノゲムは宙を舞いながらも、上手く体勢を立て直し着地した。地面にはところどころにゼリー状の破片が落ちている。


「なるほど。ゼラチン状の物質はコアである体を守っているのか」


 ゲットリッダーはそう呟くと、キーを出し、チェンジャーに挿した。


attack(アタック) skill(スキル) 発動 discharge(ディスチャージ)


「その腐った性根とともに洗い流してやる」


 ゲットリッダーは右手から鋭い水流を発した。


「ぐっ、ゥゥゥゥ……!」


 鋭く水圧の強い水流がノゲムの体に当たる。ノゲムは顔周辺を腕で覆うように防ぐが、防御も虚しく、ゼリー状の体組織に水流がぶつかり、たちまち体から分解されていく。


「ヴァァァァァァ……!」


 ものの数秒でノゲムの体からゼリー状の体皮がボロボロと落下し、驚くほど脆い、薄く黄ばんだ体だけが残った。


「もう終わりだ」


 ゲットリッダーはすっと体を前方に傾けると右足を前に出し、素早く地面を蹴った。一歩一歩地面を蹴る音がこの空間に響き渡る。

 ノゲムを絶対に逃さないという強い意思を感じた。


 もう勝ち目がないと悟ったノゲムは後ろを見て逃げ出す。ゲットリッダーは右手を振りかぶり、ノゲムの細い体めがけて一直線に針を突き刺した。


「ギャァァァァァ!!!」


 ノゲムはまたも甲高い悲鳴を上げ、体を逸らしてもがき苦しんだ。そんなノゲムの体内からは緑色の粒子が噴出し、中からチアのユニフォームを来た女性が徐々に姿を表した。

 全ての粒子が空中に浮かぶとすぐに消え、女性はその場に倒れた。ゲットリッダーに刺された傷も残っていて、腹部から大量に血を流している。


「チッ……」


 ゲットリッダーはチェンジャーを外し、変身を解除させた。革の上着を脱ぐと、それを女性の傷口に巻いて縛る。


 男はポケットからスマホを出すと番号を3回タップし、電話をかけた。


世田輪(せたがわ)区、国立世田輪競技場地下避難所にて腹部に刺し傷のある女性がいる。事件ではない。詳しい事情は現場にいる人間から聞けば分かる」


 男はブツブツと話すと、すぐに電話を切った。


 避難所にいる人たちは、さっきまでの恐怖が嘘だったかのように表情を柔らかくさせ、立ち上がり、男に拍手をしだした。


「ありがとうゲットリッダー・ロウルフ!」


「あなたのおかげで助かりました! ありがとうございます!」


 辺りが次々と感謝の言葉を発する中、私と史織ちゃんは、ただ茫然とその男の背中を見ていた。


 男は感謝する人々を一瞥すると、何事もなかったかのように出入口の方へと歩いていった。


「麗華ちゃん!」


「あ、うん!」




 私たちはその男の後を追った。地下の避難所を出て1階へと続く階段を駆け上がり、出口へと抜けようとする男を見つける。


「大空先生!!」


 史織ちゃんが精一杯大きい声で叫ぶ。その声を聞き、男は足を止める。

 史織ちゃんの体がビクッと動く。私は史織ちゃんの前に立った。


「あの……! 茜って女の子……10年前に亡くなったあなたの担任の生徒……知ってますよね……?」


 私は、この10年間ずっと頭の中にあった有耶無耶を、全て解消させるように叫んだ。今まで出したことのないぐらい大きな声で叫んだ。


 寂しく佇んでいる大空心助は、顔を上げゆっくりと、ほんの少しだけ私たちの方を向いた。


 茜の死の真相、報道がそれを隠す理由。私たちが知るべきこと、追及すべきことは、今私たちの目の前にいる大空心助という男が知っている。

 私は目を逸らさず、じっと彼を見続け、彼の放つだろう言葉を待ち続けた。

 これにて第10話完!!

 心助と麗華、二人はこの先どこに向かっていくのか!?

 次回、ゲットリッダー・ロウルフの起源が明らかに!!

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