マイフレンド ー安城麗華ー
空いてる更衣室。今は昼休憩の時間で、ここには私たち二人しかいない。
「それにしても、史織ちゃんがチアやってたなんて驚いたなぁ~……まさか東京に、しかも私の隣の区に住んでるなんて!」
「私こそ麗華ちゃんがチアやってるって最初知ったときは驚いたよ! 1、2年のころは大会にも行けてなかったから、麗華ちゃんといつ会えるのかな~ってずっと思ってたんだぁ~」
史織ちゃんは満面の笑みで返した。
あの頃と変わらない、見てるこっちが嬉しくなるような気持ちのいい笑顔だ。
「ほんと!? 嬉しい!」
「よかった~、喜んでくれて」
「ふふっ……うん!」
私は少し照れくさくなった。顔が熱くなる。
「そういえば、私たち3人で麗華ちゃんちに集まってさ、よくおままごととかしてたよね! 覚えてる?」
「もちろん! 茜の両親が共働きだったからさ、迎えが来る夜までずっと遊んでたよね~」
「ほんと、今考えればよくまあ毎日飽きずに遊んでたと思うよ……フフフッ」
「確かに……あ、あとあれ覚えてる? みんなで苺狩りに行ったの」
「覚えてる覚えてる! その日土曜日でさ、小林先生のデート現場に遭遇したんだよね~」
「えぇ? そうだっけ? よく覚えてるね史織ちゃん」
「だってさ、あの頃めっちゃ楽しかったんだもん!」
「ねー! ほんと、あの頃は楽しかったなぁ~……」
私たちはあの頃のように笑い合った。14年経っても、私は私で、史織ちゃんは史織ちゃんだった。
本来なら茜だって、こうして昔の話に華を咲かせながら私たちと笑い合えているはずだった……
「ごめんね? あのときは」
つい口を出てしまった。できればずっと楽しい話をしていたかったはずなのに。でも、茜を無視して、私たち2人だけで盛り上がっているような気がして、それは嫌だから……
「うん? 苺狩りのときなんかあったっけ?」
「いや、そういうんじゃなくってさ。その……私、茜のお葬式に行けなかったから」
私が東京へ引っ越した4年後、2020年5月14日、その日が茜の命日だった。
今までの、騒がしく楽しい空気が一瞬で冷たい空気に変わるのを感じる。
「麗華ちゃんが謝ることじゃないよ? それに、あの葬儀は茜ちゃんの親戚と限られた人たちだけで行われたわけだし……私も悲しくて、とても行けるような状況じゃなかったし……」
史織ちゃんは俯く私の顔を、優しく、そっと覗いてくれる。
「あれって、ほんとに事故だったのかな……」
「え?」
長年思っていた疑問を、つい口に出してしまった。
あのとき茜が巻き込まれたという事故。最初は火災事故だったと伝えられた。その話を聞いたときは悲しかったけど、それでもせめてお葬式には行きたかった。でも行けなかった。親には「残念ながら葬儀には出れない」とだけ言われた。
ずっと気になっていた。学校で、しかも3人の生徒が死亡し、加えて30人の重軽傷者が出たのにも関わらず、一切ニュースにもならなかった。テレビだけじゃなく、週刊誌や新聞でもそれは同じだった。まるで火災事故なんてなかったかのように、誰も何も言わなかった。
ノゲムが出現し始めたのは、その4ヶ月後だった。
「あの事故、いや、あの“事件”は、実はノゲムの仕業で起きたことだったっていう噂がネットで流れてる。あの学校にいた史織ちゃんなら、噂があること自体は知ってるでしょ?」
「そ、そうだけど……」
史織ちゃんをすぐに目を反らした。絶対に何か隠している。私には分かる。史織ちゃんは嘘をつけない性格だから。
「ねぇ、あのとき何があったの? ほんとに火災事故が起きたの? なんで公に報じられることがなかったの?」
史織ちゃんは私の言葉には返さずに黙っていた。
「お願い。私だけには教えて? 茜がなんで死ななくちゃいけなかったのか…… 私、どうしても知りたいの……」
史織ちゃんは依然として目を逸らしたまま、口を開いた。
「ごめん……やっぱり言えない」
「なんでっ?」
私は史織ちゃんの両肩を強く掴む。今は史織ちゃんの気持ちを考えていられる状況ではなかった。
「言えないの……ほんとにごめん……」
史織ちゃんの目から涙がこぼれているのに気付き、私はすぐに手を離した。
「ごめん! その……ずっと気になってて……」
「私も、全部を知ってるわけじゃないし、茜ちゃんとはクラスが違ったから、それこそ、噂でしか聞いたことがないの……」
史織ちゃんは必死に涙を拭いていた。
私は後悔した。せっかく14年振りに会えたのだから、やっぱり楽しい話だけしていればよかったのかもしれない。わざわざ過去の嫌な思い出を掘り返して、その上で泣かせてしまうなんて……私は最低な人間だ。
「あっ……そうだ……」
突然、史織ちゃんは何かに気づいたような顔をした。
「え、何……?」
「も、もしかしたら、大空先生なら知ってるかも……」
「大空」……どこかで聞いたことがあるような気がする。
「え……?」
「もちろん、全部知ってるとは限らないよ? それでも現場にいたっていう噂はあるし、あの後すぐに先生辞めてゲットリッダーになったらしいし……」
「ちょっと待って、それって……」
ドォォォォォォォォン……!
突然大きな音とともに、更衣室が、いや、建物全体が揺れた。
少しの間が空き、すぐに大きい悲鳴が遠くから聞こえてくる。
「え……まさかノゲム……?」
長く揺れたわけでもないので、地震ではないのは確かだった。この状況で考えられるのは「ノゲムによる襲撃」、ただ一つしかなかった。
たくさんの人を殺してきた怪物、ノゲム。私は絶対にノゲムを、そしてノゲムを自らの私利私欲に利用する人たちを絶対に許さない。許すわけにはいかない。
それでも、私には何もできない。運命を甘んじて受け入れ、ただ逃げることしかできない。
「史織ちゃん! 早く逃げよ!?」
「う、うん……」
私は、史織ちゃんが不安そうな顔をしているのに遅れて気付いた。
「だ、大丈夫っ!! 言い忘れてたけど、私の彼氏、ゲットリッダーなんだ! きっとすぐ来ると思うから、落ち着いて、早く避難しよっ!?」
「えっ、あ……う、うんっ!」
驚きながらも頷く史織ちゃんの腕を、私は強く引っ張り非常口に向かって全力で走った。
大翔、お願い……! もう二度と、友達を失いたくないの……
私は、心の中でそう願い続けた。




