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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第10話 [動物を飼い慣らすって道徳的にどうなんだろうな。]
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マイペースな人と接するのは苦労するな。 ー潮田大翔ー

「どうですか? ケガの調子は」


 舞原さんは優しい目をしながら俺を気遣った。危うくさっきまで感じていた不信感を忘れそうになる。


 俺たちはWANON東京本部というところに搬送された。といっても、俺たちが今いるところはメディカルエリアと呼ばれているところらしく、ここは正陰(しょういん)コーポレーション経営の民間病院も兼ねているらしい。()()()()()()()()が誰彼構わず隕石を降らしたおかげで、全身5箇所にも及ぶ打撲の怪我を負ったが、ここの適切な処置を受けたおかげで、ある程度痛みは収まった気がする。


「いえいえ、おかげさまで打撲だけで済んでます。えっとー竜也の方は……」


「元気に遊んでますね」


 俺をこんな目に遭わせた6才児は現在、遠くにあるキッズスペースにいる。色とりどりのクッションに囲まれたスペースの中、恐竜のフィギュアで黙々と遊んでおり、周りにも他の子どもはいるが、相変わらず一人だ。

 痛みが収まったとは感じているものの、もちろん完全に治ったわけでもなく、イライラしてもしょうがないのだが、散々()()()()()()()()()俺に怪我をさせているにも関わらず謝りもせずに悠々と遊んでいる竜也を見ていると……まあ要するに、とてもムカつく。


「あ! 私、彼にも挨拶しないとですよねっ」


 舞原さんは何かに気付いた顔をすると、竜也の方へと向かおうとする。


 いやいや、それだけはさすがにないだろう。

 竜也に向いていた俺の嫌悪は薄れ、代わりに目の前の女性へ移っていく。

 そもそも俺が怪我する羽目になったのは、彼女が無理にノゲムを保護しようとしたからであり、なんなら彼女の毒を受けている竜也も被害者だ。すぐに治したから良いというわけでもないだろうし、目的があるならそれはそれとして、負い目ぐらいは感じてくれてもいいのに、と思う。

 

 俺は彼女への怒りを隠しながら、彼女の前に割り込む。


「いっ、今はそっとしておきましょう。たぶんあいつ、舞原さんの顔を見たら暴れかねないです」


「へ?」


 彼女のとぼけた顔に、俺は少し驚いた。自分が何をやっったのか、心の底から気にしていない顔だ。

 大人しくさせるためとはいえ毒をかけるなんて、俺が竜也の立場だったとしても暴れるかもしれない。いや、暴れはしないか。暴れはしなくとも、ものすごく怒ることは間違いない。


「えぇ……」


「……あ、そんなことより潮田(しおた)さん、私に話したいこと、あるんですよね?」


 舞原さんが思い出したかのように言う。


「そうです、それです。なんであのとき竜也にまで毒を……ってちょっと待って!」


 俺が話し出すと、舞原さんはいきなり俺に背を向けて歩きだした。俺はすぐに追い付く。


「分かります。私もあれは少々やりすぎてしまったかなぁと、今更ながら後悔しております」


 彼女はゆっくり歩きながら、顔をこちらに向けて言った。言葉だけでは一応後悔しているっぽいが、本当にそう思ってるのかと疑いたくもなる。まあ表面上ここまで言われてしまえば、こちらとしては何も言いようがない。


「まあいいですけど……てゆうか、そもそもWANONって何なんですか? 一応教習で習いましたけど、あんなに苦労してまでノゲムを生かすことに必要性を感じないんですけど?」


 俺は少し語気を強めた。しかし彼女は一切怯まず、変わらずゆったりと話す。


「まあまあ落ち着いてください。順を追って説明致しますので、まずは改めての自己紹介から」


 舞原さんは足を止め、俺の方を向いた。

 まずい、彼女のペースに乗せられてしまう。


舞原(まいはら)七花(ななか)と申します。19歳です。このWANONのメンバーとしてノゲム保護の活動をしながら、ゲットリッダーとしてノゲム駆除もしています」


「え、19歳なんですか?」


「はい。なので、タメ口でもいいですよ」


 そうか、年下か。大人っぽい振る舞いと穏やかな顔のせいで、同い年か、もしくは年上かなと思っていたが……


「あぁ……えっと、じゃあ……タメで。俺は潮田大翔。大学3年生の20(はたち)。よろしくね」


「へぇー! 大学生なんですね! 大学ってどうですか? やっぱり充実してますか?」


 彼女はゆっくりと歩きだした。彼女は純粋でキラキラした目で俺を見る。


「んー、まあそうでもないよ。俺サークルとかにも入ってないし、友達も多くはないし。ていうか、七花……ちゃんは? 大学とかは行ってないの?」


「そうですねー、行ってみたいとは思いますけどー、どうしてもこの活動で忙しくて。大学に行く暇はないかなー、なんて思ってます」


「そっか。んで、そこまでしてWANONにいる理由は?」


 俺は話しながらも、いつの間にか相手のペースに乗せられていることに気付く。一旦怒りを納めた姿勢をとってしまったので、流れに乗りつつ、WANONのことを聞いてみる。


「そうですね。ではまずこのWANONという団体、延いてはゲットリッドシステムの歴史をお話ししましょう」


 俺は彼女に付いていくままにエレベーターに乗り、メディカルエリアのある5階から、2階へと下りた。


 エレベーターから降りると、すぐに案内図があり、そばには「ヒストリーエリア」と書かれた看板が吊り下がっている。


「大体は分かってるよ。ノゲムが出現した時点で俺10歳だし。さっきも言ったように、少しは教習で教わったし」


 回りくどい彼女に、俺はほんの少しイライラしながらも後を歩く。


「ではおさらいとして」


 彼女は依然としてペースを崩さず、話を進める。


「まず始まりは2020年8月30日。ここ東京にて、世界最初のノゲムが発見されます」


「だから知ってr……」


「最初のうちは自衛隊だけで被害を最小限には止めておりましたが……ノゲムは次々と出現し、その被害はやがて世界にも及んでいきました。『なぜノゲムは私たち人類の前に姿を現したのか』、『どこから、どういう理由で生まれたのか』、数々の謎は未だに解明されていませんが、いずれも人間の脅威となる生き物であることは全世界共通の認識でした」


 彼女はまるでガイドのように話しながら博物館のような屋内を歩いている。最初に発見されたノゲムの剥製、ノゲム関連の当時の報道の資料や、年表など、貴重な資料がたくさんある。


「やがて世界中の人々は、外を徘徊するノゲムから身を守るため、在宅や避難所での生活を余儀なくされました。大翔さんも私も、それは経験してるはずです」


「そうだね。俺は地元の公民館で避難生活をしていた。建物の外側には申し訳程度の電気柵が囲んでたけど、ほんとにこれだけでノゲムが来ないものなのかと、毎日が不安だったな……」


 俺はあのときのことを昨日のことのように思い出していた。


「大翔さんはどこの出身なんですか?」


「俺は茨城出身だよ。俺のところは結構田舎で、ノゲム出現のニュースも4,5件だった」


「そうなんですね」


 彼女は一応の反応はしつつも、すぐに展示の方へと目を向け、話を本題に戻した。


「ただ、そんな日々も約2週間で徐々に解消されることとなりました。『ゲットリッダー』の開発です」


 俺たちは展示されているゲットリッドチェンジャーの前にいた。


「もともとロケット開発や最先端医療機器を取り扱っていた企業、正陰コーポレーション。その社長の正陰(しょういん)昌景(まさかげ)と、その息子の、次期社長であり研究者でもあった正陰(しょういん)貴臣(たかおみ)が、ノゲムの力を使いノゲムと戦うシステムである『ゲットリッドシステム』、ノゲムを収容する亜空間である『ディメンションワールド』の開発に成功しました」


 今俺たちが使っている最新のゲットリッドチェンジャーの左には今まで開発された4種類のチェンジャーも並んでいた。七花ちゃんは一番奥にあった、黒く薄汚れた装置の前に止まった。


「これが一番最初に作られたゲットリッドチェンジャーです。通称、『ゲットリッドチェンジャーZERO』。当時の社長秘書であり、現社長の陽園(ひぞの)真道(まさみち)が最初の装着者です。この技術は瞬く間に世界へ広がり、『ゲットリッダー』は人々を守るヒーローのような存在となったわけですが、そのおよそ3ヶ月後、開発者である社長と息子夫婦が火事で死亡。一部報道によると、当時のチェンジャーには不具合があり、その責任を追及された社長らによる一家心中であるとされていますが、この話は真偽不明なので、割愛させていただきます」


「あ、うん」


 もちろんこの話は知っている。その火事で生き残ったのが、正陰昌景の孫娘である愛生(まき)ちゃんだ。彼女の言うとおり、真偽の程は定かではないが、知り合いに被害者がいるからか、この話を聞くと嫌でも耳を塞ぎたくなる。割愛してくれてありがたい。


「そんな事件がありつつも、ゲットリッドシステムは進化をし続け、ディメンションワールド設備の安全性も高まっていきました」


「そのディメンションワールドにノゲムを送るのが、WANONの仕事だよね?」


「そうです。さきほど、ノゲムは人々の脅威となったと言いましたが、ノゲム全てがその対象に当てはまるとは限りません。こちらから攻撃しなければ危害を加えない、大人しいノゲムだっています」


「でも、ノゲムは俺たち人間や動物とは違う。明確な習性や生態系も明らかにされてなければ、どんな能力を秘めているのかについてのデータも多くない」


「はい。だからこそ、私たちWANONはノゲムを保護、研究し、その能力をデータにして、ゲットリッドシステムに活用させているんです」


「でも、保護ばかりに集中してノゲムによる被害の拡大を許してしまえば意味がないでしょ。さっきの戦いも、俺一人だったらすぐにノゲムを倒すしか選択肢はなかったと思うよ? 竜也が来なくとも、俺がファイナルスキルの発動を渋っていたら、ノゲムによる街破壊の規模はどんどん大きくなっていただろうし、保護対象のノゲムに攻撃するゲットリッダーを止めるために、一時的とはいえそのゲットリッダーを攻撃するなんて、そんなにしてまでノゲムの保護をする必要はないんじゃないかと俺は思う。それに竜也はまだ6歳だ。体質によっては今頃死んでる可能性だってある」


「は、はい……そう、ですよね……」


 つい怒りに身を任せて詰めてしまった。七花ちゃんは明らかに落ち込んだ顔をすると、ゆっくり顔をうつむかせた。


「今回のことは、全て私の判断力と技術力不足が招いてしまったことです。改めて謝罪させてください。申し訳ありませんでした……」


 彼女はそのまま俺に向かって深く頭を下げた。ここまでされてしまえば、俺も申し訳なくなってくる。


「私はまだWANONに入ったばかりの未熟者です。私以外のメンバーは作業をする上であんなにも苦労することはありません。もし保護が難しければ、予想される被害の状況を考え、駆除の判断もできるはずです。ですのでどうか、WANONの活動を容認していただけませんでしょうか……」


「えーっと……わ、分かったよ。分かったから、頭上げて……?」


 少しズレてる人なのかなと思ったけど、どうやらそこまででもないようだ。これ以上彼女を責めても仕方がない。


「ご迷惑をおかけしてしまったのに、ご理解いただき本当にありがとうございます」


 彼女は一旦顔を上げ、また頭を下げる。


「いやいや、全然大丈夫。俺が今日戦いに使ったホタブレードも、ノゲムを高確率で駆除できるファイナルスキルも、こういった研究のおかげなんだって改めて分かったし」


「は、はい……!」


 彼女は笑顔を見せながらも、まだ少し落ち込んでいる様子だった。

 俺たちの周りには少しどんよりとした空気が流れる。俺はその重い空気を晴らすために無理やり口を開いた。


「そっ、それにしても不思議だよね~。このチェンジャーでディメンションワールドからノゲムを呼び出し、ましてやそのノゲムを直接体に纏って戦うなんて、細胞分裂がどうこうという話らしいけど、正直仕組みは殆ど分かんないよ」


「そうですよね。確かに、超常的な技術といっても過言ではないです…… そうだ!、もしよければ、その仕組みを詳しく知っている職員から話を聞いてみませんか? おそらく()()()なら今いらっしゃるとは思うんですけども……」


 七花ちゃんはそう言うと、また歩き始めた。


「あ、う、うん……」


 今日は金房さんの事務所で留守番をする予定だったが、さっき連絡したところ「仕方がない。今日は休業日にするよ、お大事にしたまえ」と言われてしまった。よって、今日は一日中暇ということになり、つまり俺には七花の誘いを断る理由がない。


「では今からWANON研究室の所長である、小高根(こたかね)賀利(かとし)さんのところへ行きましょう! 面白い方ですし、ゲットリッダーについて色々知れますよっ?」


 七花ちゃんは徐々に走り出し、エレベーターの前まで行くと、タンッとボタンを押した。

 こっちこっちと笑顔で手招きをする彼女に、俺はほんの少し引きながらもエレベーターに乗った。七花ちゃんは6階のボタンを押した。

 



 あ、そうだ。()()忘れてた……まぁ、いっか。


 今更ながら、キッズスペースに置いてきたままの竜也を思い出した。が、もう少し放っておくことにした。俺に攻撃を当てた罰だ。あいつには俺が受けた全身の打撲よりもよっぽど辛い、待つという苦痛を味あわせてあげよう。

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