無茶ぶりが過ぎるな。 ー潮田大翔ー
「ハァッ……ハァ、ッハッ……」
俺は一定の速度で、それでいてできるだけの全力で、そしてまっすぐに、目標を目指し走っていた。もう5キロは走っただろう。だが日頃のランニングのおかげか、ひどい息切れもせず、過度な疲れも感じられない。
現場まであと少し。当然ここまで来るとノゲムから逃げる人の数は多くなる。群衆が人二人ギリギリ通れるぐらいの歩道を走り続けるので、あまりスムーズに通ることができない。それは向こうからしても同じだが、「自分達とは逆方向に走るこの男は、恐らくゲットリッダーであろう」という認識は当然しているようで、「がんばってください」とか「任せたよ」という声が俺を鼓舞し、脇に寄って道を譲ってくれたりもするので、俺はそんな人々に会釈をしながらも前を向いて走り続ける。
すぐに立ち入り禁止のテープが見えた。テープの外側を自衛隊の人たちが囲んでおり、ライフルや防弾の盾を装備して、ノゲムを警戒している。T字路の交差点を大きく囲むように貼られた黄色いテープの中央には、赤くて、比較的サイズも大きいノゲムが、まるで体育座りをしているかのように寂しい様子でうずくまっている。人が入っている着ぐるみかと錯覚するような、妙な哀愁が漂っているが、折り畳んでいる2本の足と、それを抑える2本のハサミの形をした腕の間に、もう2本何もしてないだらんとした細く小さい“足”がある。そんな6本足の付け根はまるでフィギュアのようで……えっと、ボールジョイントだったか。そんな形状をしている。
「あなたもゲットリッダーですか?」
「うわぁっ」
突然耳元で話しかけられ、俺は驚いた。
振り向くと、そこには一人の女性がいた。雰囲気は清楚な感じで、上品な白いロングスカートを履いていて、とてもノゲムが現れている場所にいる人の格好ではない。
「すみません! 驚かせてしまって」
「いえいえっ! こちらこそすみません!」
俺はわりと深く頭を下げた。
「それより、あなた“も”ってことは……」
「あ、はい。私、舞原七花と申します。ゲットリッダーです」
まさかとは思ったが、この女性もゲットリッダーらしい。見るからに華奢な感じで、戦えるような人には見えないが本当にこの人はゲットリッダーなのか。本当にノゲムと戦えるのか。ゲットリッダー歴3カ月の俺からしても少し心配だ。
「あ、俺は潮田大翔です。ゲットリッダー・ノーマとして活動してます」
「え! あなたがゲットリッダー・ノーマさん!?」
クリッとしている彼女の目がより大きくなる。
「え……?」
「あなた、結構有名なんですよ? 試験もなしにぶっつけ本番で戦って、その上勝ったゲットリッダーだって」
そうか……俺って有名なのか……
謎に高揚感がする。
「あ、ごめんなさい。そんなことよりも今はあの子をなんとかしましょう」
「あ、あの子……」
ノゲムを「あの子」呼びする人は初めて見た。
ノゲムを生き物として見て戦えば、ノゲムに感情移入をしてしまい、攻撃に集中することができない。よって、ノゲムを命あるものとして認識しないことがゲットリッダーとして大切なことであると、教習所では教わったのだが……
舞原さんは自衛隊に会釈し、テープをくぐった。ノゲムがこちらに気付かず背を向けているとはいえ、物怖じもせず戦闘態勢もとらない。俺も慌てて彼女に続く。
「あのカニムシノゲムは私たちWANONによる、ディメンションワールドへの護送中に逃亡してしまったノゲムなんです。」
舞原さんはノゲムをじっと見ながら言う。
WANON。これも教わったことがある。人を襲ったことのないノゲムを保護し、ゲットリッダーが使えるような安全なノゲムにする団体。正陰コーポレーション公式の団体であるが、その正陰コーポレーションこそ、俺にとっては疑わしい会社だ。よって、正直WANONという団体も信頼はしていない。
「get rid」
『change Getrider Nadeshiko(撫子) Union Nadeshiko』
舞原さんは透き通るような、それでいて確固たる意志を感じるような声を発し、変身した。
淡い桃色のアンダースーツに、緑色と濃いピンク色のアーマーを纏ったその姿は、まるで花びらが一枚一枚重なった服を着た、華麗な妖精を思わせる。
『attack skill 発動 poison』
ゲットリッダー・撫子は優しく弧を描くように手を動かすと、テニスボールほどの紫色の球体を出現させる。ポイズンという技の名前からして、これは毒の塊なのだろう。
その塊はノゲムの方へと漂い、ノゲムの体にじっくりと染み込む……かと思いきや、塊は表皮に当たると同時に水風船のように弾けた。
「やっぱりだめですか……」
カニムシノゲムは背中に何かが当たった感触を感じたのか、こちらを振り向く。
「へぇ!? だ、ダメってどういうことですか!?」
ノゲムは少し興奮している様子だ。良く見ると、そこそこ凶悪な顔をしている。
思わず声が震えてしまう。
「大体のノゲムには効くんですけどね……この子の表皮は厚く……私の毒では簡単に弾かれてしまうみたいですっ!」
ノゲムはむくっと起き上がり、両腕のハサミをぶら下げながらスタスタと迫ってくる。
撫子は最後だけ早口で説明をすると、途端にノゲムから逃げ出した。
「えっ! ちょっ! ちょっと!!」
俺は撫子の後を追う。
黄色いテープを破り捨て、俺たちは走った。取り囲んでいた自衛隊もいつのまにかそそくさと逃げていた。
……ん? そういえば俺たちなんで逃げてんだ? 俺は咄嗟に足を止め、チェンジャーとキーを取り出した。
「get rid!」
『change Getrider Norma Union Scallopsracco』
俺はゲットリッダー・ノーマに変身した。
何を逃げているのだろうか。こうやって変身して戦えばいいのだろうに。
ていうか、生身だった俺はともかく、なぜ彼女も逃げているのだろうか。
「ハァァァアアッ!!」
俺が変身して間もなく、カニムシノゲムは右のハサミを勢いよく振り下ろす。
俺は目の前に現れた赤いハサミを避け、建物の影に身を隠しているゲットリッダーを見る。
「ちょっと舞原さん! いつの間に隠れてんすか! 早く俺に協力してくださいっ!」
「ハァァ! ハァァ!」
もちろんノゲムの攻撃は、彼女の返答を待つことなく俺を襲う。
『weapon 転送 Hotate(ホ盾)』
「おらっ!」
シャキィィィン……
俺は、素早く繰り出されるハサミの攻撃から身を守ろうとホ盾を召還するが、そんな盾もすぐに真っ二つになる。
今俺のいる状況がかなり危機的な状況であると、徐々に実感してきた。
「ごめんなさ~い、私サポート系のスキルしか使えなくて~!」
こんな状況に似合わず、彼女は頭を抑えて大袈裟に照れる。
「あ、でも、その子は予定どおり保護するので、どうか倒さずに、ギリギリまで弱らせてくださいっ! 表皮が一瞬でも脆くなれば、私の毒も効くようになると思うので!」
「え!? そんな無茶な……」
ガチィィン......!
ハサミが地面に当たり、軽くめり込む。
危ない。あと少しで諸に食らうところだった。
どうすればいい……
俺は頭をフル回転しながら、自らを襲い続けるノゲムの攻撃を避け続けた。
第10話に続く!
大翔はカニムシノゲムとの戦いに勝てることができるのか!?
次回、ゲットリッダーシステムの最高責任者が、大翔の前に現れる!? そして同じ頃、大会で奮闘中の安城麗華にも新たな謎とノゲムの危機が!? 第10話ご期待ください!!




