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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第9話 [カニムシってなにww]
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僕の捜査 ー炭岡旬ー

「説明してもらおっか?」


 正陰(しょういん)コーポレーション社長室、高級でとても柔らかいソファにのけぞるように座る男。僕はその男、陽園(ひぞの)真道(まさみち)に、()()()について問いただしていた。


赤西(あかにし)竜也(たつや)。あいつの息子が、なんでゲットリッダーになってんの?」


 僕は赤西竜也の写真を陽園に突きつけた。赤西竜也は、僕が殺した赤西(あかにし)守竜(まもる)の息子だ。


「おやおや、優秀な殺し屋であるイージスくんのことだから、すべて知っていると思っていたが……」


「誰がチェンジャーを渡した? あんたか? それとも秘書か?」


 陽園は腰を伸ばし、コーヒーをゆっくりと一口飲んだ。こちらの問いかけには、なんら動揺した姿は見せない。


「いやぁ、それが分からないんだよね~ 今、若美(わかみ)くんに調べてもらっているんだが……」


「……しらじらしい」


 陽園はお得意の減らず口を叩く。まあ、簡単に口を割らないだろうことは分かっていた。


「そんなことよりも炭岡くん、君には他にやるべきお仕事があるだろう?」


「その“仕事”に支障が出てるから言ってるんだけど?」


 陽園はわざとらしく目を大きくし、わざとらしく眉を歪めた。


「あぁっ、それはすまない……! んまぁ、そう気を悪くしないでくれよ。必ず調査の結果は報告するから……ね?」


 陽園がソファから立ち上がって僕の両肩をポンと叩いた。

 この目の奥が黒くくすんでいる感じ、本当に不気味で気持ちが悪い。とてもではないが、「これ以上この男とは話したくない」という感情が沸き上がってくる。


「僕はあんたの思い通りにはならない。あんたが何を考えているのか、絶対に突き止めてみせるよ」


 僕は陽園のネクタイをぎゅっと掴み、その暗い瞳に対抗するように言った。











 僕は正陰コーポレーションのビルを出た。その立体駐車場に停めてあるバイクに跨がり、エンジンを掛け、出口を抜ける。

 このバイクは最近買ったものだ。というか、免許も最近とった。以前までは自らの足で行動していたが、移動手段がないと色々面倒であるということに、最近気がついた。


 約3キロ走り続け、目的の場所に着いた。全国チェーン店として様々な世代から人気のカフェ店。外からはスーツの男の姿が見える。

 僕はバイクを停め、ドアを開ける。


「いらっしゃいませ。一名様でよろしいでしょうか?」


「待ち合わせしてる人がいまして、あそこの二階堂(にかいどう)って人と」


「かしこまりました。ではどうぞ」


 僕は、落ち着いた雰囲気のある店内の窓側の席に座り、妙な清潔感を醸しながらコーヒーを飲む男、二階堂(にかいどう)剣人(けんと)の元へと歩いていく。


「お待たせいたしました。改めまして、探偵事務所サンビレッジの炭岡旬と申します。今日はお忙しい中、お時間をとっていただき本当にありがとうございます」


「遅いですよ。もう11時58分です」


 二階堂はそう言いながら、左腕にある高そうな腕時計をコツコツと指でつつく。こちらを下に見るような目をしている。


「約束は12時のはずでしたが……?」


 僕は目の前の男の意向に沿い、下から行く。


「そういう問題ではありません。私は既に11時50分にここへ来ている。明らかにあなたより目上の存在である私が10分前に来ているのだから、あなたはそれより前に来るのが当然でしょう」


「あ、はぁ……」


 二階堂はまるで筋の通らない話をする。


「集合時間が12時だろうがなんだろうが、目上の存在がそれより前に来ているのなら、それが集合時間なのです。それが大人のルールというものです。あなたが8分早く来ていれば、それだけ話も8分早く終わり、私はその余った8分を他の有意義なことに使えたのです」


 二階堂はこちらを一切見ずにグチグチと文句を垂れる。()()()から聞いてはいたが、予想以上にめんどくさい。僕の嫌いなタイプの人間だ。


「いずれにせよ、あなたから呼び出しておいて8分も待たせるなんて、勘弁してほしいものです。あなたが思っている何倍も、警察官という職業は忙しいのです」


 今すぐにでも帰りたい。「勘弁してほしい」はこっちのセリフだ。


「何を突っ立っているのです? 言ったでしょう、私は忙しいのです。早く本題に行ってください」


 二階堂は一時も僕の目を見ずに、癪に触る言葉を次々と言い放つ。

 自分よりも低能な人間に偉そうにされるのはイライラする。しかし、向こうが自らの立場を思い知るのも時間の問題だ。

 僕はゆっくりと席に座り、二階堂と向かい合った。


「はい、分かりました。では本題へ」


 二階堂はゆっくりとまばたきをし、コーヒーを口にする。


「二階堂さんは1年前の、据野(すえの)カメ横商店街にて起こったノゲム出現の騒ぎを知っていますか?」


 僕は今日、この件の情報を聞くためにここへ来た。そうじゃなければ、わざわざこんな神経質で嫌味ったらしくてどんな人間からも嫌われるような人間となんて会っていない。

 「据野カメ横商店街」という単語を聞いた瞬間、二階堂のスンとした目がたちまち動き始めた。


「さ、さぁー……知りませんねぇ……」


 明らかに顔色が変わった。予想以上に分かりやすい人間のようだ。


「知らないのですか? あの死者が複数出た事件を知らない?」


 二階堂の目は、これでもかと言うぐらいに泳ぎ回っている。


「当時のあなたは、警視庁ノゲム対策課の課長になったばかりですよね? 課長になって間もない事件を忘れているわけがないと思いますが?」


 思い切って、踏み込んでみた。僕の素顔を少々出しすぎてしまったかもしれない。

 二階堂は持っているコーヒーカップを、ガチャンと大きな音を立てて置いた。コーヒーが少し卓上に跳ねる。


「君は何者ですか? なぜそんなことを調べている?」


「今質問してるのは僕の方ですよ」


 二階堂のカップを持つ手が震えているのが分かる。完全に狼狽えている。“吐く”のは時間の問題か。


「な、なんですかいきなり! あなた、本当にムカつく人ですね! 私は何も知りませんし、知っていたところで、探偵ごときに捜査内容を話すわけないでしょう!」


 二階堂はそう言い放つと、まだ半分も残っていたコーヒーを飲み干し、慌てて去るように席を立つ。

 仕方ない。やはりアレをやるしかないようだ。

 僕はパーカーの腹ポケットに写真があるのを確認しつつも、恐怖から逃げる男の手を掴んだ。


「ちょっと待ってくだ……」


「うるさいっ!」


 二階堂は手を振りほどき、僕を押した。それほど力が強いわけでもなかったが、僕は派手に尻餅をつけてみせた。カフェ店内にいる客と店員、全ての人がこちらを見る。

 そして、床には一枚の写真が落ちた。ラブホテルから、女子高生と共に仲睦まじい様子で出ていく二階堂の姿を納めた写真である。3日間張っただけで撮れた写真だ。日常的に女性と遊んでいるのが見て取れる。


「あっ!」


 二階堂が目をいっぱいに見開く。彼が写真を取る前より早く、僕がそれを取る。


「な、なんだそれは……!」


 二階堂は驚きを隠せずに、しかし周りに悟られぬよう小声でそう呟いた。


「30歳にもなる大人が、それも警察のエリートが……女子高生とそんな関係だなんて……」


 僕はわざとらしく口を手で覆ってみせる。


「ぬ、ぬぁっ」


 二階堂は聞いたことのないような呻き声を上げる。


「あなた、警視庁刑事部長の娘である奥様と、幼いお子さんがいますよね? こんな写真が出回ればー……」


「いっ、いいっ……いくら出せばいい……!」


 食いぎみで応えた二階堂は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「お金なんていりません。僕の知りたいことを教えていただければ、こんな気色の悪い写真、すぐにあなたへお譲りしますよ」


 目の前にいる男は餌をお預けされた犬のように俯き、しばらくすると何かを決意した顔になった。


「わ、分かりましたよ……しかし、私もまだそれほど上の地位にはいません……私の知っている情報のみなら、お話しできますが……」


 僕と彼は席に座りなおし、周りの客も落ち着いた様子に戻った。


「大丈夫ですよ。あなたが知っている限りの情報を教えていただければ」


「では、その据野の……」


「あっ、その前に」


 僕は、なんだか遊んでみたくなった。


「な、なんですか……」


「謝ってくれませんか?」


「はっ、はぁ?」


 二階堂の顔はひきつっている。


「中学生と言えど、一人の人間をバカにしたこと、謝ってくれませんか?」


「はぁ? ふざけないでくだ……」


「はい」


 僕は再び彼の目の前に写真を上げた。

 二階堂はまたその顔を歪ませる。


「う、うぅ、ん……ご、ごめんなさい……」


「えぇ?」


 僕は耳を二階堂に向ける。


「ご、ごめんなさい」


「そうじゃないでしょ」


「も……申し訳ありません」


 見たくもない二階堂の頭頂部が見える。


「『大して偉くないのに偉そうにして申し訳ありません』、はい」


「た……大して偉くないのに……偉そうにして、申し訳ありません」


「『妻の親のおかげで出世しているだけなのに、調子に乗ってすみません』、はい」


「つっ……! 妻の親のおかげで、出世しているだけなのに……調子に乗って、すみません……」


「『結婚できただけでも奇跡なのに、あろうことか女子高生にまでモテると自惚れてしまい、申し訳ございません』、はい」


「けぇっ……! 結婚できただけでも……奇跡なのにぃ……あろうことか、女子高生にすらモテると……うぅ、自惚れてしまい……申し訳ございま、せん……」


「はい、よろしい」

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