女子中学生と話すのって気まずいな。 ー潮田大翔ー
「大翔くん見てください! これ!」
俺の目の前には、旬の運転免許証が見える。旬はとてもうれしそうな笑顔を浮かべ、得意気な顔をしている。
「すごいなー! いつの間に取ってたんだよ~」
「はいっ! 通信教育でがんばりましたっ!」
2030年にもなると、運転免許の取得にも色々と便利なものがある。教官とネットで通話しながら、VRで講習を受けることができ、以前より手軽に取得できるようになった。また、最近になって運転免許取得の年齢も2歳引き下がり、普通二輪は14歳以上が取得できるようになった。旬は15歳。年齢の引き下げのおかげで、旬はバイクに乗れるようになったというわけだ。
「じゃあ早速行ってきますね!」
旬はバイクの鍵を持って出ていった。一人で何をしに行くのだろうか……
俺はソファに座った。旬が出ていったことにより、探偵事務所サンビレッジには俺一人が取り残された。壁時計のカチカチという音だけが聞こえる。
最近までここに引きこもっていた竜也も、今は養護施設に戻っており、麗華も今日はチアリーディングの大会があって忙しい。麗華の大会を観に行ってあげたい気持ちは山々だが、俺にはそうはいかない事情があった。
それはここの店番だ。この探偵事務所のオーナーである金房さんは、現在とある大富豪の依頼で飼い亀の捜索をしているらしく、俺は金房さんに懇願され、この事務所にやってきた。正直俺は留守番というのをしたくなく、さっきも言ったように、麗華の応援に行きたいのが本音だが、大会の日程を知るよりも先にこの留守番の件を頼まれてしまい、どうしても断りきれなかった。幸い、今日の大会はまだ地区大会で、麗華たちのチームの勝負どころではないらしいし、ノゲムが出ない限りゲットリッダーとしての活動もないから、別に店番ぐらいどうってこともないのだが、俺はてっきり旬や愛生ちゃんがいるものだと思っていた。
俺がここへ来て早々、旬は免許を自慢し、足早に出ていった。愛生ちゃんはどうしているのだろうか。まあ女子中学生ともなれば休日ぐらいは友達と出かけているか。
ガチャ……
「ふわぁ~…… しゅんくんおはよ……って、大翔さん?」
奥の扉が開いて、寝間着姿の愛生ちゃんがあくびをしながら現れた。
ピンクの半袖に、太ももまで見える短い裾のパンツ。まるでアイドルの部屋着姿のようだ。
そんな彼女は、寝ぐせや寝間着姿を俺に見られているにも関わらず慌てた様子もなく、「おはようございます」と一礼だけして奥にある洗面所の方へと向かっていった。なんだかこっちが恥ずかしい気持ちになる。まだ中学生なので、こちらとしては別にどうってことないのだが、向こうは俺に見られてどうとも思ってないのだろうか。少しは警戒した方が良いと思うが……
時計は午前11時を示している。今起きたのか。にしてはちょっと遅すぎないか? もしかして意外と夜更かしとかするタイプなのか? それとも単純に睡眠時間が長いとか?
まあそんなことはどうでもいい。どうでもいいんだが、正直この状況は少し気まずい。
二十歳の大学生が、ほとんど一軒家のようなところに寝間着姿の女子中学生と二人きり。なぜか俺は罪悪感を感じている。どうすればいいのだろうか。無言なのも、それはそれで気持ち悪いし、何か話すか。でも何を話せばいい? 年頃の女の子はどんな話に興味をもつのだろうか……
ていうか、旬はどこに行ったんだ? 彼女に何も言わず外出するなんて、ちょっとひどすぎないか……
「すみません、旬くんがどこに行ったかって分かりますか?」
そうこうしてるうちに愛生ちゃんが帰ってきた。寝間着姿から、白い半袖パーカーに短パンの姿で、寝ぐせもちゃんと直っている。
「いや、よく分かんないけど、バイクでどっか行ったよ?」
「あ、そうなんですか……どこに行ったんだろう」
彼女は眠気眼で少し狭いキッチンへと歩き、ゴソゴソと食パンを袋から取り出す。
「大翔さんは朝ごはん食べました?」
「あ、うん。食べてきたから大丈夫だよ」
「そうなんですね、分かりました」
彼女はパンを一枚、トースターに入れる。
チンと鳴ったあと、パンを皿に移し、それをテーブルに運ぶと、そのままソファにちょこんと座った。
「すいません。じゃあ、いただきます」
「あ、うん、どうぞ」
愛生ちゃんは、俺の目の前で恥ずかしい様子も見せずにイチゴジャムを付けたトーストを食べる。
俺は気まずくなり、テレビをつけた。この時間帯は、いつも情報バラエティ番組が放送されている。今は映画ランキングのコーナーだ。
思い出したかのように愛生ちゃんが話し出した。
「大翔さん、今日はどうして……?」
「あれ、金房さんから聞いてない? 今日1日中いないってことで店番を頼まれたんだけど……」
俺が話している間に彼女はパンを口にする。
「あ、ほぉなんでふか、ほれはほんとにありがとうごふぁいまふ」
愛生ちゃんは口いっぱいに頬張りながら俺に頭を下げた。
今どきの子はこんな感じなのだろうか。前からちょっと思っていたが……なんというか、少し変わっているように思える。
「旬はいつも一人で出かけたりするの?」
「いや、そんなわけではないんですけど……でも基本、そんなに自分のことは話さないんで笑」
「なるほどねー、旬とはいつからの知り合いなんだっけ?」
愛生ちゃんは最後の一口を飲み込む。
「幼稚園のときからですね」
「へぇ~、それで? いつから付き合ってるの?」
「へ?」
彼女は目を丸くしている。
「あれ、付き合ってるんじゃないんだっけ?」
徐々に彼女の顔が赤くなっていく。
「つっ……付き合ってないですよ! もぉ!」
彼女は照れ笑いをし、火照らせた顔を隠しながら、そそくさと皿を片付けにいってしまった。
俺は思わずニヤニヤしてしまう。そんな顔を想像すると、自分で自分を気持ち悪く感じ、その顔を彼女に見せぬよう、すぐさまテレビに顔を向けた。
まるで恋愛ドラマを観ているような気分だ。といっても、イケメンが無条件に愛されるような、そこら辺のドラマではなく、俺が心の底から応援するキャラの恋模様を描くようなドラマだ。
つまり、俺は旬と、その旬のことが好きな愛生ちゃんという人間のことが好きなのだろう。
ピーピーピー……
物思いに更けていると、突然腕から無機質な音が響いてきた。
「大翔さん……」
またノゲムか。やっと気まずい雰囲気から脱したと思ったのに。
俺は勢いよく立ち上がり、すぐにノゲム駆除の用意をした。鞄にチェンジャーと、数本のキー。旬のようにバイクの免許は持っていないので、現場には走って向かう。
俺は、端末の画面に写っている地図を見た。ノゲムの位置的に、おそらく10分ほどで着くだろう。
俺はなにやら落ち着かない様子の愛生ちゃんに顔を向ける。
「ごめん! ちょっと行ってくる! 鍵は閉めといていいから!」
彼女の返事を待たぬまま、俺は事務所を後にした。




