突然 ー大空心助ー
●あらすじ
イージスに父親を殺されたという竜也。大翔はそんな竜也に手を焼いていたが、金房の説教により、皆で協力して真相を突き止めることになった。一方夜の商店街、身軽なノゲムに苦戦する大空心助のもとにゲットリッダー・撫子が姿を現した。
●登場人物
・潮田 大翔 ♂
ゲットリッダー・ノーマの変身者。大学3年生。才色兼備の彼女はいるが、本人はいたって普通のどこにでもいる大学生。ある日偶然にもゲットリッダーになり、自分の不甲斐なさと葛藤しながらも、ゲットリッダーとして日々ノゲムと戦っている。
・大空 心助 ♂
ゲットリッダー・ロウルフの変身者。35歳。寡黙で、ゲットリッダー同士のつながりを好まないことから、周りからは一匹狼と呼ばれている。しかしこんな性格にはある過去が影響していて……?
・赤西 竜也 ♂
ゲットリッダー・ティラノの変身者。志治乃木幼稚園ばら組の園児、6才。生意気な性格で、他の園児と遊ぶことは少ない。両親を1年前に亡くしており、養護施設にて暮らしている。
・炭岡 旬/イージス ♂
ゲットリッダー・イージスの変身者。中学3年生、15歳。成績優秀で、頭が良い。世間では社交性のある、優等生キャラを演じているが、一方でイージスとして、正体を隠しながら、大翔たちを翻弄している。間違った方向に力を使うゲットリッダーを処分する活動もしている。
・灰東 愛生 ♀️
14歳、中学2年生。天真爛漫な性格であり、かなりの天然。現在は探偵事務所サンビレッジにて探偵の金房、幼なじみの旬とともに暮らしている。
・二階堂 剣人 ♂
警視庁の、ノゲムの死体処理や被害の処理を行う部署、ノゲム対策課の課長。30歳、警部。冷淡な性格で、誰に対しても敬語を使う。
セミの鳴き声が聞こえる道。3歩歩く毎にセミの死骸を見つけてしまうようなこの道を、俺は歩いている。
まだ5月だというのに、セミの、それも死骸をこれだけ見るとは。この地球はどうなっているのだろうか。これも温暖化のせいなのか。毎年夏は暑くなるばかりであるが、それは今年、2020年も同じなのだろうか。
俺は勤務先の小学校まで歩いて向かっていた。俺はこう見えても理科の教師であり、中でも生物が専門である。
にも関わらず、俺は虫が嫌いだ。勿論生きている姿もそうだが、それよりも死んでいる姿がとても嫌いだ。6つの足を中央に寄せ、体を丸めて眠る姿。言ってしまえばただの生き物からただの物体に変わっただけなのだが、どうしてもその姿が嫌いなのだ。理由は説明できない。なぜかこの光景には嫌悪感を抱きかねない。
この道は俺の家から学校までの道の一つであり、このへんを通るのだけは少し嫌な気持ちになる。しかし違う道を通るには、どうしても2分ほど遅れてしまい、遠回りしてまでこの道を嫌うわけでもない。
人間は矛盾を抱えている生き物だ。口では綺麗事を言っても、心では人の不幸を好み、たまの瞬間そんな自分がいることに気付いては勝手に落ち込む。
俺も例外ではない。少し話が違うかもしれないが、セミの死骸が嫌いであると言っておきながら、この道を平然と無表情で歩いたり、周りには生徒のためを思っているフリをしていながら、心のどこかでは所詮他人だと諦めている部分もあったりする。
そんな俺は教師になりたくてなったわけではない。他になりたい職業が無かったから、消去法で選んだだけだ。
俺の親父は中学の教師だ。家に帰っては手のかかる生徒や、文句ばかり言う親の愚痴を言っているが、職場でもそのスタイルは隠さず、自分の意見を貫きながらも他人を考えながら行動している。親父はここらへんの教師の間では有名らしく、俺がこの小学校に勤めて以来、50代の同僚は親父の話題を話のタネにし、俺に話しかけてくる。
息子の俺が言うのもなんだが、親父は周りに尊敬されているらしかった。生徒のためにならない校則には意見を言って廃止にしたり、生徒一人一人のことを考え、不登校の生徒の家にも毎日訪れては話をし、おかげで生徒は学校に来れるようになったという話も度々聞く。
しかし、俺はそんな教師にはなれないだろう。親父の姿勢には関心するし、教育論的な意味でも親父の考え方や行動は、世の中にとっての理想なのであろうことは間違いない。
ただ俺には、その考えを行動に移すことができない。何かを行動に移すというのは莫大な勇気とエネルギーが必要だ。俺はそんなものを持っていない。余計なことをして、周りに嫌われたくない。
俺は弱い人間だ。
セミの死骸だらけの道を抜け、車の通りが多い交差点の歩道を渡り、学校の正門を抜ける。
一列になって挨拶運動をする実行委員に向けてテキトーに挨拶し、昇降口から入る。
「せんせーー! おはよー!」
靴をロッカーに仕舞っていると、俺が担任しているクラスの3人の女子生徒が走ってきた。
俺はスリッパに履き替え、子どもたちに目を合わせる。
「“おはようございます”、な。もう5年生なんだから、敬語ぐらい使えるようになりなさい」
俺は内に秘めているほんの少しの憎悪を表に出さぬよう、やや笑顔で注意する。
「先生、宿題なんだけどね、やったんだけど忘れちゃった!」
どうやら俺の話は聞いていないらしい。
1人の女子が、かわいいから許してと言わんばかりに、堂々と自分の落ち度を暴露する。
「やっててもやってなくても、忘れるなら同じことだぞ。休み時間にでもやって帰りの会までに提出しなさい」
俺はその女子の頭をポンと叩き、職員室に歩いていった。
後ろからは「え~」とか、「先生つめた~い」とかの声が聞こえるが、振り返らずに歩き続ける。
まったく、手のかかる子どもたちだ。
あいつは……えっと、名前はなんだったか、まあいい。あいつはいつも宿題を忘れるし、その隣のあいつは敬語が使えないし、そのまた隣のあいつは授業中いつも寝ているようなやつだ。
まあ、担任の子どもの名前も覚えていない俺が言えたことでもないか。
「おはようございます」
職員室のドアを開ける。俺は職員のなかでも出勤時間が遅いほうだ。既に出勤している職員たちが俺に気づき、笑顔で挨拶をする。
「おはようございます! 大空先生!」
席に着くと、遠くから相沢誠が駆け寄ってきた。明るく茶色い髪を巻き、濃いめの化粧で、膝上のスカートを履いている。
まるで大人しめの風俗嬢のような彼女は、何やら本を取り出した。
「すいません、私今日はじめて道徳の授業やるんですけど、なんか注意すべきことってありますかね?」
彼女は道徳の教科書をペラペラとめくり、指を差した。そこには『がっこうだいすき』というタイトルの、簡単な文章があった。
彼女は新規採用でこの学校に配属され、1年生の担任を任されている。彼女は平成30年度から新たに始まった道徳の教科化に戸惑っている様子だった。
「うーーん、どうだろ。俺、道徳はテキトーにやってるからなー……」
「えー!? だめですよテキトーにやっちゃ!」
相沢誠は3年先輩の俺に注意した。
彼女はこのなりで、かなり真面目な人間だ。 “誠” という名前のとおり、心に自分なりに強い志をもっているようで、正しいと思った意見なら、たとえ上司でも遠慮なく発言するし、いらないと思うルールは自ら破りにいく。この明るい髪と髪型、濃いめの化粧と短いスカートはその抵抗の表れなのだろう。
そんな性格からか、生徒には好かれているものの、教師からの好感度はあまりよくない。特に女性教師からは裏で陰口を言われてしまうほどだ。
それでも俺は、彼女をある程度評価している。彼女を見ているとどこか親父の姿が見え隠れして、嫌いというより、尊敬の感情が沸いてくる。
「だってこの教科書、エゴばっかなんだもん」
そして俺はそんな彼女だけには本音を吐くことができる。当然だ、いつでも素直な人間に、何を取り繕っても無意味なのだから。少しばかり汚い本音を言っても、俺が困ることはない。
「まあ、確かに分かりますよ? 基本、価値観の押し付けですしね。ここの、『いろんな人にお世話になっているんだね』ってところなんて、「お前らを世話してやってるんだから感謝しろ」って言ってるようなものですもん」
彼女は教科書を見ながら眉をひそめた。
「うん」
「それでも、全てが間違いってわけじゃないですよ? 部分部分には大切なことが書いてあるので、そこを重視して生徒に教えればいいと思うんです」
真剣な眼差しでこちらを見てくる。まるで親父に説教を受けている気分だ。
「注意すべきこと、分かってんじゃん」
俺は目を剃らし、朝の支度をする。
俺を注意するほどに道徳の教授法を知っている彼女に、俺から教えることは何もない。
「あ、たしかに」
相沢誠は一人で納得し、小さくうなずいた。
「はっ!」
彼女の顔は、何かに気づいたような表情に変わった。
「まさか、それを分からせるためにわざと!?」
そんなわけがない。
「そうそうそう、俺はお前を試していたんだよ……て、んなわけあるか」
俺は柄にもなくノリツッコミをした。どうも彼女といると、冗談も言えるぐらいには陽気になれるらしい。
「そんなこと言って~、私知ってるんですよ? 大空先生が爪を隠す能ある鷹だってこと」
まったく、こいつは口が上手い。マイナス思考の俺でも危うく調子に乗ってしまいそうになる。
「はいはい、嘘でもうれしいですよ。お、ほら、朝礼始まるぞ」
俺はおもむろに立ち上がった校長に目を向けた。
「あ、はいっ」
俺たちは校長の周りに集まった。
コピー機の周りにいた教師や、書類の整理をしている教師たちも、作業の手を止め、小走りで集まっていく。
白髪で薄毛の校長は軽く咳払いをした後、簡単な挨拶をして、今日の連絡事項を順に話していく。
「最近、付近で不審な事件が起きています。そこで本日からー……」
俺はこの教師という職業がいまいちピンと来ていない。何かもっと俺に合った職業はないものかと考えているうちに、教師生活も早3年目になってしまった。
そして今日も、いつものようにセミの死骸のある道を通りながら出勤し、いつものように生徒をいなし、いつものように相沢誠と話す。
その“いつも”が今日で終わるとも知らず、このときの俺はいつものように、退屈な校長の話を聞き流していた。
大空心助の過去。大翔とゲットリッダー・撫子の出会いと、旬の行動の裏。「過去の使命と新たな出会い」がゲットリッダーたちの運命を変えていく。




