撫子 ー大空心助ー
「ハッ! ハァッ! ハァーッ!」
夜の封鎖された商店街、俺は目の前のノゲムに向けて攻撃を仕掛けていた。80センチほどのノゲムで、手はマッチ棒のように細く、足はピンポン玉のように小さい。顔はまるでピエロのようであるが、小猿のような、見る者が見れば、可愛らしささえ感じてしまうような見た目だ。
こちらには一切攻撃をしてこない。しかし動きがすばしっこくて攻撃が命中しない。
どうしたことだ。いつもは小型のノゲムでも100%命中するのだが……
「ナナナッ! ナナナッ!」
ノゲムは街灯の上まで登り、右手を突き出すジェスチャーをし出す。
なんだ? もしかして俺の真似をしているのか?
「ナナナッ! ナナナッ!」
ノゲムはまた違う街灯に乗り移り、もう一度俺の真似をした。
こいつ、楽しんでいるのか? いや、ノゲムは所詮ノゲムだ。感情などはないはず。しかし、なぜか俺はこいつへの更なる攻撃を仕掛けることができなかった。ディスチャージでも当てれば、水圧で殺すことができるというのに。
突然、頭の中にあの子らの顔が浮かんだ。
あいつらはいつも俺のしゃべり方、俺の癖をおもしろおかしく真似をしていた。たまには本気でイラッときて、本気で怒ろうと思ったこともあったが、その怒る機会すら俺には与えられなかった。もうイライラすることもなく、順調に生きられるはずなのに、なぜかあいつらの姿を求めている自分が確かにいる。
これだから俺はダメなんだ。「ノゲムを全て殺す」と、10年も前に決めたはずなのに。
「クラウンノゲムー! 私と一緒に行きましょ?」
ノゲムをただ見ているだけの俺の隣に、突然一人のゲットリッダーが現れた。
ゲットリッダー・撫子。薄い桃色のアンダースーツに緑や濃いピンク色のアーマー。名の通り、“撫子”の花を思わせるような姿だ。
『attack skill 発動 poison』
撫子はゆっくりと右の手のひらを上に向け、錠剤ほどの大きさの、紫色の塊を発生させる。彼女はそれを街灯の上にいるノゲムめがけて優しく投げた。
「ナナ……! ナナナ……」
紫色の塊が当たると、ノゲムの顔色はたちまち悪くなり、徐々にまぶたは閉じてゆく。足元はふらつき、街灯から足を滑らせ、ノゲムは地に落ちてゆく。
「ッ……!」
撫子は落下点めがけて走ると、ノゲムを優しく受け止めた。
「ごめんね……すぐ治すから」
撫子はそうノゲムに呼び掛けると、小走りでこちらへとかけ寄ってくる。
俺は変身を解除した。
「ご協力、ありがとうございます」
撫子は変身を解除し、俺に深々とお礼をした。黒髪は肩ぐらいまで伸びている。彼女は紺のジャケットの下のロングスカートをひらひらと揺らした。
「協力した覚えはない」
「そんなぁ、謙遜しないでください。この子を攻撃せず、見守ってくれていたでしょう?」
彼女はまるで赤子を見せるように、眠るノゲムをこちらに寄せる。
「黙れ。こいつをどうするつもりだ?」
俺はノゲムを顎で差す。
「毒を処方し、ディメンションワールドに送って保護します。そして、ゲットリッダーが安全に使えるように適切な処置をします」
なるほど、こいつはWANONのゲットリッダーか。
「適切な処置か。処置をされたノゲムは安全であると?」
「はい。ノゲムの保護はきちんと世界的にも認められています」
「『世界的にも認められている』、便利な言葉だな。さすがは、処置の方法も公開してないような胡散臭い団体が言うことなだけはある」
俺は皮肉をこめて返す。
「分かりません。なぜ反対するのですか? あなたもゲットリッダーでしょう? ノゲムを使っているのに……なぜ?」
彼女は透き通った目で俺を見る。まるで悪意がない。
「こいつは俺の目的のために使っているだけだ。ノゲムを絶滅させたらこいつも殺す」
俺は自分が背負い続けている矛盾を誤魔化すように言った。
「なるほど、分かりました。時間もありませんので私はこれで」
彼女はこれ以上の話は無意味だと感じたのか、会話をいさぎよく諦め、軽く一礼すると、俺の横を通りすぎる。
「私の価値観とあなたの価値観は異なります。しかし、私はあなたの考えを否定しません。今度お会いしましたら、よろしくお願いします」
俺は彼女の顔を見ていない。彼女も俺の方を見ていないだろう。
「では」
彼女の足音が聞こえ、そして次第に小さくなる。
当然だ。ここで人と争っても意味はない。仮に争うなら、それは俺の戦いを邪魔したときだ。しかし俺は、殺すまでのことはしない。俺が殺すのはノゲムのみだ。
ノゲムを一匹残らず全て殺す。それが今の俺にできる、あいつらへの贖罪だ。
読んでいただき、ありがとうございます。これにて第8話完結です。
次回、心助の過去が明らかに!? ご期待ください!!




