一緒に戦わないとな。 ー潮田大翔ー
「いやだぁぁぁぁ!!! いやだいやだいやだぁぁぁぁ!!!」
たつやが事務所から出ようとする。「イージスを殺すんだ」と言って、俺たちの言うことを聞かない。俺と旬が必死に止めているが、6才とは思えない強い力で、押さえるだけでもかなり疲れる。
「やめろ竜也! お前が今行ってもイージスにやられるだけなんだよッ!」
「いやだぁぁぁ! あいつをころす!!」
金房さんと渡辺先生はもしものために、出入口の前で両手を広げて構えている。愛生ちゃんはさっきまで宿題をしていたらしいが、騒ぎを聞いたのか、ドアの隙間から顔を出し、様子を見ている。
「大翔くん! どうしましょうこれ!?」
旬が困惑している。だが、それは俺も同じだ。もう、この先なにをすればいいのか分からない。
しかし、そんな心配もすぐに消えた。竜也は騒ぎ疲れ、しくしくと泣きながらその場に座り込んだ。
「あいつが……くっんっ……とーちゃんを、ころしたんだ……おれは……あいつをころすために……んっんっ……ゲットリッダーになったのに……」
竜也が下を向きながら大量の涙を流した。涙と一緒に鼻水も垂れている。
「たつやくんが……ゲットリッダー?」
しまった。渡辺先生に聞かれた。まあこの際いいだろう。とりあえず今は竜也のことだ。
俺は近くにあったボックスティッシュを取り、竜也の涙と鼻水を拭く。
竜也がゲットリッダーになった理由。それは、父の仇を取るためだった。竜也にとってゲットリッダーの力は、父を殺したやつに復讐をするための力であるというのだ。
俺は赤西竜也という人間を少し下に見ていたのかもしれない。子どもだからといって、嘗めていたのかもしれない。
可哀想とは思っていた。ただ、この可哀想という感情はあくまで客観的に見たものだ。俺がたつやのように、父親を誰かに殺されていたら? すぐに母親が死んでいたら? おそらくだけど、竜也のように復讐を試みたかもしれない。6才という、まだ自分の気持ちも整理できない年齢で、どのような行動を取ってしまうだろうか。
いずれにしても、今まで何事もなくのうのうと生きていた俺には分からない。分かることができない。
「竜也くん……」
金房さんが竜也に歩み寄り、しゃがみこんで、竜也の顔に目線を合わせる。
「君は父親の仇を取るためだけに……」
「うるさいっ!! それの何が悪いっ!!」
竜也が金房さんの話を遮る。
竜也の叫びが響き渡り、事務所中が静まり返る。渡辺先生は思い詰めたような表情をしている。旬は愛生ちゃんを部屋の奥へと押し込んだ。
しばらくの長い長い静寂の中、竜也のすすり泣く音だけが聞こえる。
金房さんはそんな竜也を見て、うつむき、そして両手を強く握りながら、細かく震えている。静まり返った室内で、金房さんはいつになく黙っている。
わずか数秒間震えていた金房さんは、突如として顔を勢いよく上げ、竜也の顔をガシッと掴んだ。
「いい加減にしなさいっ!!」
金房さんは俺たちが見たことない表情で、聞いたことのない声で叫んだ。俺はもちろん、旬や渡辺先生も驚く。
「“とーちゃん”は、君にそうあって欲しいと言ったのか!? 深いことを知ろうともせず、勢いだけで行動しろと言ったのか!?」
金房さんは竜也の目の奥を見て、強く訴えるように、それでいて竜也にも分かるような言葉を使って話す。
「とーちゃんはゲットリッダーだったんだろ? とーちゃんは誰かを殺すためにゲットリッダーになったのか!? ただノゲムを殺すためにゲットリッダーになったのかッ! 君はとーちゃんにそう教わったのかッ!」
竜也の目は大きく開かれ、涙がツーっと落ちた。
「君がどれだけの覚悟でゲットリッダーになったのか、どれだけ辛かったのか、それは私たちが想像できるものではないだろう…… しかし! 君に寄り添うことならできる! 思い悩む君を、支えようとする努力ならできる! だから君も! 頼る努力をしなさい!! 一人でなんとかしようとせず! ちゃんと私たちを見なさいッ!」
金房さんはひとしきり怒鳴った。そして、すぐに優しい笑顔に変わった。それは客へ向けたものではなく、子どもに向けての笑顔だった。
俺は、親を亡くした竜也に同情していただけだった。
竜也は父親が大好きだ。父親だけじゃない、母親も、竜也にとっては大切な人だったのだろう。そんな親が今この世にいないのなら、俺たちが親の代わりになってあげればいい。竜也を支えて、竜也と一緒に戦えばいい。
竜也だけでなく俺も、金房さんに何かを教わったような気がした。
「んぐっ、んぐっ……! ぶぇぇぇぇぇん! ぶぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
竜也は、金房さんのしっかりした丸い体に顔を埋め、泣いた。
「竜也、イージスを倒すために、色々調べよう。お前の父親が何をしていたのか、なんで殺されなくちゃいけなかったのか…… そのためにも、お前の協力が必要なんだ。一緒に俺たちと戦おうぜ……な?」
竜也は金房さんの体にうずくまったまま、小さくコクリと頷いた。




