なぜイージスはたつやの父を殺したのだろうか。 ー潮田大翔ー
俺は竜也を追って、大きなデパートの立体駐車場に来ていた。辺りはなぜか水浸しで、その中にゲットリッダー・イージスがいた。
「ノゲムなら倒しておいたから。急いで来てくれたところ悪いけどー、もう帰っていいよ~」
まるで2週間前のことが無かったかのように、イージスは平然とのたまう。戦う気がないのか、イージスは持っていた大きな盾を投げ捨てた。
「おまえがとーちゃんをころしたことはわかってんだ!」
竜也は息を荒くし、イージスを見ている。俺からは竜也の後ろ姿しか見えていない。それでも詰まるような声から考えて、泣いているだろうことは分かる。
「だからっ……! おれはおまえをころす! げっとりっど!」
竜也は叫び、チェンジャーを操作した。
『change Getrider Tyranno Union Earthrex』
竜也はゲットリッダー・ティラノに変身し、走り出した。
このままじゃいけない。俺が止めないと……
俺も変身しようとした。しかしなぜだろうか、足がなかなか動かない。精一杯動かそうとしているのに、まるで意志があるように、俺の足は一向に動いてくれない。
『weapon 転送 Rexfang』
ティラノは右手にレックスファングを装備した。
「はぁー、めんどくさいなぁー……」
イージスはそうため息をついた。抵抗しない合図か、イージスはゆっくり両腕を横に広げて見せた。
ガキィン……
ティラノはイージスのボディを傷つけようと、鋭い牙をぶつける。しかし辺りに鈍い金属音が鳴るだけで、無抵抗であるイージスの体にはひび一つ入らない。
「グルァァァー!」
ガン! ガン! ガン!
ティラノは唸り声を上げながら、何度もレックスファングをぶつけた。しかし依然として、イージスには全く効いていない。
「はぁー……」
イージスはその場から微動だにせず、こちらを見る。
「ねぇちょっとー、あんた保護者なんでしょー? こいつなんとかしてよー」
イージスはティラノを指差しながら、まるで子どもと遊んでいるかのように、余裕のある声で言う。
「ふ……ふざけるなッ! 竜也はお前が父親を殺したって言ってるんだ! それは本当なのか!?」
俺は精一杯声を出した。声が震えているのは自分でも分かる。
「はぁー……」
イージスは顔を上に向かせ、再度ため息をつく。
「あのさぁー、僕が何人の野蛮なゲットリッダーを殺したと思ってんの? アイツら、顔や年齢は違っていても、みーんな根本は同じ。ゲットリッダーとして人を守る志がない状態で強い力を手に入れ、案の定その弱さのせいで、力に呑まれる」
「うぐっ……!」
イージスは悠長に話しながら、ティラノの頭を掴んだ。
「そんな“弱虫たち”のことなんて、僕が全員覚えてるわけないじゃん……? よいしょっ!」
そのまま、イージスはティラノを投げる。
「うわァァァ!!」
ゴトッ ゴトゴト……
ティラノの体はアスファルトの上を転がり、俺の側まで来た。
「竜也ッ!」
俺の足はやっと動いた。俺はティラノのもとへ行き、チェンジャーからキーを外して、変身を解除させる。
「お前……」
俺はイージスを睨んだ。2週間前の、アイツに対しての怒りが徐々に甦ってくる。今更恐がっている暇はない。
「お前、人の命をなんだと思ってんだ!」
「だからぁー…… その『人の命』ってやつを脅かす存在だから、処分してるんじゃん?」
イージスは気だるそうにしながら、首に手を当てた。
今俺の目の前にいるコイツは、たくさんの人を殺している。力に呑まれていようが、悪人だろうが、それは一つの命に他ならない。
「お前が言うようにッ! 俺たちは人を守るために戦っている……だからこそ、どんな悪人でも殺しちゃいけない! 人を殺すゲットリッダーなんていちゃいけない!」
「フフッ、出たそれ。生憎だけどー、そういうの聞き飽きてるんだよねー……」
イージスはフッと笑った。
「はぁ?」
「考えてみなよ? 僕たち、普段何をしているわけ? 人を守るために、ノゲムを殺してるんでしょ? それはなんで? ノゲムが人の命を脅かし、それでいて対話もできない怪物だからだよねぇ? ……それだよ。人の命を脅かし、それを止めるよう忠告しても聞く耳を持たない人間。そいつら、見た目が人間なだけで、本質はノゲムと一緒なんだよ。だから殺す。自らが人に与えてきた恐怖を感じながら、最期を遂げる。これ以上適切な罰はないでしょ」
「とーちゃんはそんなやつじゃないッ!」
突然たつやが叫んだ。涙も涎もグチャグチャに混じり合う表情、これ以上ないほどの憎しみの眼光でイージスを睨んでいる。
たつやの言うことが正しければ、イージスはなんの罪もない人間を殺したということになるはずだ。
「あぁそうそう、その話でねー……」
イージスが思い出したかのように話し始める。
「アンタ6才でしょ? どうやってチェンジャーを手に入れたの? 一体、誰にもらったの?」
イージスが、これまでの取り繕ったような声から一転、トーンの落ち着いた、どこか真面目な雰囲気でたつやに問いかけた。
「うるさいッ! まずはおれのしつもんにこたえろ! オラァァァ!」
「竜也やめろッ!」
竜也は再びイージスに襲いかかろうとするが、俺は必死で止める。竜也の気持ちも分かるが、今イージスと戦っても勝ち目はない。抵抗を続ければ、俺たちは命を落としかねない。悔しいけど、今は……
「はいはい、わかったわかった。もういいよ」
イージスは右腰のホルダーからキーを取り出した。
『attack skill 発動 Shadow bullet』
イージスは右手にシャドーバレットを出現させた。
「んじゃ、僕はおいとまいたしま~す」
イージスは左手を振りながら、シャドーバレットを地面に向けて発射した。
ボォォォン……
球が破裂し、紫色のもやで視界が覆われる。辺りに響く轟音で、他のどんな音も聴こえない。
「くそッ……!」
俺は目を閉じながら、竜也の視界を手で覆った。
やがて轟音は鳴り止んだ。俺が目を開けると、既にイージスはいなかった。
「ぐぁぁぁ! うぁぁぁ!」
たつやが獣のように、虚空に向かって叫び続ける。俺は暴れるたつやを必死に押さえつけることしかできない。
結局、竜也の父親の情報は得られなかった。しかし、イージスの発言にも気になるものはあった。
確かに、竜也はどうやってチェンジャーを手に入れたのか。俺もそれは気になっていた。正陰コーポレーションも、こんな幼い子どもがゲットリッダーになることなんて許さないだろうし、どこかから拾ったということも考えにくい。
たつやに直接聞けば済む話ではあるが、なにせこいつはこの調子だ。冷静に話すこともできない。
たつやは暴れ続けて疲れたのか、膝から崩れ落ちた。
「大翔くーん!」
後ろから俺を呼ぶ声がする。振り向くと、そこには旬がいた。走ってきたのか、膝に両手をつき、息を切らせている。
「ハァ、ハァ…… 僕、ここで愛生と買い物してたんですけど……この辺りで、ノゲムが出たって聞いて…… イージスは……いませんでしたか……? ていうかノゲムは……?」
「ああ、いや、俺たちが来たときにはもうイージスがいて、既にノゲムを倒していたみたいなんだけど、イージスは今さっき逃げて……」
「そう……ですか……」
旬は残念そうに顔をしかめた。
「とりあえず事務所に帰ろう。たつやの父親のこととか、イージスについても話し合いたいし」
「はい、分かりました……」




