表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第1話 [男なら、誰もがヒーローになりたいと思ったことあると思うけど、実際なったらなったで大変そうだよね。]
6/76

実際戦うってなると、結構怖いな。 ー潮田大翔ー

「ちょっとなにしてんの!? 早く……!!」


「これって、横常さんのやつだよな……」


 ノゲムがこちらに近づいてくる。それでも俺の意識は、今目の前にある物体に集中していた。


 俺は最悪なことを考えてしまう。

 もしかして、横常さんは……


「ちょっとあなたたち! 何をしてるんですか! ノゲムがあなたたちを襲おうとしてるんですよ!? 逃げてください!」


 いきなり、スーツ姿の女の人が駆け寄ってきた。

 なるほど、会社勤務のOLさんがわざわざ俺たちを助けに来てくれたのか。早く逃げないと、この人の命も危ない……

 

 俺は立ち上がった。しかし女性はそのまま思いがけないことを言ってきた。


「もしくは、戦ってください!」


 驚いている俺をよそに、女性はキャリーケースから何か装置のようなものを取り出し、俺に突きつけた。麗華(れいか)も横で驚いている。


「あ、は、はい!? ちょ、何言ってんすか!? てゆうかあなたなにもn……」


「説明はあとです!! 早くこれを使ってゲットリッダーになってください!」


 女性は俺の腰に装置を押し付けた。瞬間、その装置からベルトの帯が出てきて、俺の腰に巻き付く。


 やっとわかった。これはゲットリッダーに変身するための装置だ。なぜこの人が装置を持っているのか、なぜ俺に渡してくれるのかは分からないが……なるほど、今更逃げるという選択肢はないらしい。


 自分でも驚くほど、自然と目の前の状況を捉えることができている。しかし戸惑う時間があるわけでもない。

 今この状況で俺がとることのできる選択肢は2つだけ。今すぐこの場から走り去り、ノゲムの襲撃から逃げ惑うか、ゲットリッダーとなって自分の身を、延いては麗華や他の逃げ惑う人々を守り抜くかである。

 そして俺は後者を選ぶ。


 驚くほど普通に生きてきた俺が"ヒーロー"になれる。その事実は俺に複雑な感情を与えた。皆が憧れる特別な存在になれるうれしさ、人の命を守らなければいけないという大きな使命を背負う責任。様々な思いが俺に乗っかってくるが、今はそんなことを考えている時間はない。

 俺が今戦わなくちゃ、麗華やこの女性だけじゃなく、この公園にいる人たちの命が危うい。


「早く……!」


 女性の焦る声とともに右手の中にあるこの“鍵”も俺を急かしているような気がした。

 俺は怪物と戦う。幸い、テレビの特集や、動画サイト等でたまに観ていたので、この装置の使い方、戦い方はだいたい分かっている。


「お……おいっ、怪物……! 今から、俺が……お、お前を、た、倒してやるっ!!」


 半ば、びびりながらもチェンジャーを起動。ノートパソコンの起動音のような短い音が鳴る。鍵をチェンジャー上部の鍵穴に入れると「待機音」が鳴った。毎日うざったい、スマホの目覚まし音のような、気味の悪い音が鳴る。

 キーを右に回したとたん、俺の目の前に人と同じぐらい大きいドアが出現し開き、そこからラッコに似た怪物が出てきた。青と水色の体色のその怪物は、両手に貝のような物体を大事そうに持っている。


 俺は、俺の周囲を泳ぐように舞うノゲムに少しびびって硬直してしまう。


「『get rid』って叫んでください! 音声認識で変身できます!」


 そうだ、そうだった、変身しなくちゃ……


「ゲットリッド!」


 片言ではあるが、認識できたらしい。チェンジャーからの『change』という音声とともに俺の体に紺のスーツがぴったりと張りついた。それからノゲムが粉々に粉砕したかと思うと、十数個ものパーツになり、たちまちスーツにくっついていく。仕上げに俺の顔の周りを仮面のようなものが覆った。一瞬目の前が真っ暗になったが、すぐに視界がクリアになる。

 俺は紺のボディーに水色や青のパーツがところどころに纏ったゲットリッダーになった。たぶん横常さんのやつのアンダースーツ違いなのだろう。


「よぉーし! 今から俺が、ここにいる人々を守ってやる!」


 直後、ノゲムがこっちに向かって走ってきた。俺は右腰のホルダーから武器がデザインされているキーを取り出し、チェンジャーの左部に挿した。


weapon(ウェポン) 転送 Hotablade(ホタブレード)


 ベルトからシステム音が鳴り、目の前に鍔がホタテの形をした剣が転送されてきた。


「えぇ、いやホタテって……」


「グァァァァァァ……!」


「うぉっ! おりゃぁぁ!」


ピシャン!


 俺は戸惑いつつも、向かってきたノゲムをホタブレードで斬りつけた。すると予想以上にダメージを与えられたようで、ノゲムは数メートル先へ吹き飛んだ。


「おお……これがゲットリッダーの力か……!」


「グァァァ……」


 自分の力に少し驚いていると、ノゲムはすぐに起き上がり、こちらへまた走ってくる。


「油断しないでください! ファイブホーンクリサリスヒューm……いや、そのノゲムは防御力が比較的高いです。何度も攻撃してダメージを与えてください!」


 女性はノゲムの名前を途中で言うのをやめ、的確なアドバイスをしてくれる。

 俺は慣れない手付きで剣をふるった。幸い、ノゲムの動きが鈍いのか、攻撃されるよりも先に斬りつけることができた。


「おりゃっ!」


『グァァァ……!』


 俺はそのまま何度も斬りつけた。次々と攻撃していくうちにノゲムの動きはより一層鈍くなり、やがて倒れてからすぐに立ち上がることはなくなった。


「今です! スキルキーを使って技を繰り出してください!」


「あ……は、はい! えぇっとー……これか?」


 俺はホルダーからスキルキー、「スワローファイトリバーサルキー」を取り出し、ドライバーの右部に挿入、回した。


attack(アタック) skill(スキル) 発動 Swallow(スワロー) fight(ファイト) reversal(リバーサル)


 俺の持ってるホタブレードが鋭利な翼の形状に変化した。俺の頭には強制的に技のイメージが思い浮かぶ。


「グァァ……グァァ……」


 ノゲムがこちらへ走り出すのとは対照的に、俺は一歩も動かず、剣を左脇に構え、ノゲムを待ち続ける。


「グァァァ!」


 目の前に迫ってきたノゲムに、俺は「ホタブレード」で左下から斬り上げた。ノゲムの苦しそうな声が聞こえながらも、剣をゆっくりと下ろし、刃先を反転させ、右下からまた斬り上げる。


「グァ……ガグァゲグァァァ……」


ドーン……


 たちまちノゲムは呻き声を上げる。ノゲムの体は爆発し、細かく赤い肉片がバラバラと散らばった。

 

 俺はグロいものが苦手だ。ドラマや映画の血のりにすら抵抗を感じる。しかし何故だろうか、今は俺の中にそういった恐怖のような感情はなく、一種の高揚感のような、言葉では言い表せないような何かが俺を持ち上げてくれるような、そんな感覚が確かにあった。


 俺は少し怖くなる。すぐにチェンジャーからキーをはずし、変身を解除した。


「大翔……」


 後ろを振り返ると、戦いを見ていた麗華のただ唖然とした表情が見える。


 スーツの女性は落ち着いた表情のまま、俺のもとへゆっくり歩いてくると、一枚の紙を俺に差し出した。


『ゲットリッダー最終試験のご案内』


「あなたは今日、偶然にもゲットリッダーとなりましたが、ご存知の通り、本来ゲットリッダーになるには厳正な審査が必要であり……」


 俺は女性の淡々とした説明を聞きながらも、この数分で起こった出来事に実感を持てず、ただただ一点を見続けることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ