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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第8話 [男にとって、父親の存在ってやっぱでかいよな。]
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僕のじゃまもの ー炭岡旬ー

「あ、ほら! これとかしゅんくんに合うんじゃない?」


 愛生がオレンジ色のパーカーを手に持ち、こっちに寄ってくる。

 僕たちが現在居候している「探偵事務所サンビレッジ」の近く、大きな百貨店の中のとある服屋。僕は休日、度々この百貨店へ()()()()()()()


「うーん……いいかなー」


 僕はしばらく悩んだふりをし、結局遠慮した。

 僕はファッションにまったく興味が無い。今目の前にあるパーカーがおしゃれなのかダサいのか、僕には全く分からない。ていうか、この服がおしゃれだろうがなんだろうが、お金をかけて買うほどの価値はないと思っている。


「あー、しゅんくんまたテキトーに考えてるー ま、いいけど~」


 愛生はわざとらしく唇を尖らせ、ふてくされたフリをする。端から買う気がないのはバレていたらしい。まあ、今さらそんなことバレたってどうってことないし、そもそも悩むフリをして気を遣う必要もなかったと言えばなかった。

 愛生は店内にある鏡を向き、持ってるオレンジのパーカーを顔のそばにあてる。


「じゃあこれ私が買うよ。しゅんくんも着てみたくなったら言ってね? 私貸すから」


 なるほど。確かに愛生なら、この明るい色が似合うかもしれない。

 僕は鏡に映る愛生を見ながらぼんやりと考えた。


 日曜の昼時という時間帯もあってか、客は家族連れやカップルで溢れていて、店内は賑やかだ。正直こういう賑やかな場所はあまり好きではないが、愛生と一緒にいると、こういうところばかり連れられるので、もうすっかり慣れてしまった。

 何度も言うようだが、僕は服というものにこだわりがない。学校なら制服で十分だし、私服や部屋着なら少しの量で済むと思っている。しかし愛生は、そんな僕の服に対する無頓着さになにやら危機感を抱いているのか、休日にこうして僕を外に連れ出し、買い物をする。まあ、愛生自身が買い物好きなだけというのも、あるのだとは思う。

 何はともあれ、今の僕には服なんて必要ない。それにこうやって、僕が買わずとも結局愛生が買って、後々半ば強引に貸してくるので、やはり僕にとってはこんな時間、無駄でしかない。


 愛生は嬉しそうな顔を浮かべながら、何着かの服を会計に持っていく。その間僕はこの服屋を出て、通路で愛生を待つ。

 何度も来ているおかげでもはや顔馴染みとなっているようで、愛生はひとしきりレジの店員と楽しげに話すと、2つの袋を両手に持って一礼し、僕を向いて駆け寄ってくる。


「お待たせっ!」


「うん」


 僕は愛生の持っていた袋を1つだけ持ち、さりげなく出口の方へ歩きだした。


「次どこ行こっか!」


 早く帰りたい僕の考えも露知らず、愛生は僕の後を付いてきながら、元気な顔で聞いてくる。

 まだ続くのか。正直もう帰りたいのだがー……仕方ない、もう少し付き合ってあげようか……

 ……いや、ダメだ。大事なことを思い出した。


「僕は別にいいけど、愛生は大丈夫なの?」


「へ? なにが?」


 愛生は何も理解していないようで、ひたすら目を丸くする。


「宿題、終わってるの?」


「あっ……」


 僕の言葉を聞き、愛生は小さくそう言うと、さっきまでの晴れやかな笑顔は消え、たちまち顔色が悪くなる。どうやら忘れていたようだ。


「やっぱり忘れてたんだ。昨日、宿題をやってる様子は見えなかったからね。どうせ今日やればいいやと思ってて、そのまま忘れてたんでしょ?」


「う、うん……」


 眉がハの字に下がり、目が赤くなり始めた。ダメだ、こっちが予想してる以上に落ち込んでいる。


「まっ、愛生……泣かないで? わかった、僕が教えてあげるから、すぐに帰って終わらせよう? ね?」


 涙こそ零れていないものの、愛生は今にも泣き出してしまいそうな顔をする。どうしてこれだけのことで泣きそうになってしまうのだろうか。買い物なんて、後でいくらでもできるだろうに。


「うん、分かった…… ごめんね旬くん、もっと買い物したかったよね……」


 そんなわけがない。買い物したかったのはあんたの方だろう。

 こんなことを思ったが、もちろん口には出さなかった。これ以上落ち込んだら、周りにどんな目で見られるか……


「よし、じゃあ早く帰ろう。涙拭きな? 袋は僕が持つからさ」


 僕は愛生の持つもう片方の袋も持った。愛生はポケットからハンカチをとり、涙を拭いた。







 僕たちはそのまま1階まで降り、このデパートを出て、探偵事務所に向かって歩き始めた。


「最近ゆみちゃんがね、しょうきくんに告白したんだって! そしたら成功して! ゆみちゃん今、しょうきくんと“ファンパ”でデートしてるんだって!」


 5分も経っていないのに、愛生の目からは涙が消え、すっかり笑顔になり、いつのまにか友達の恋愛話をしている。いったいこの人の精神構造はどうなっているのか、知り合って10年になるが、僕には理解不能だ。

 ちなみに愛生の言う「ファンパ」とは、国内最大級の遊園地「ファンタジックパーク」の略である。数々の有名なアニメ映画のアトラクションや施設が園内にたくさんあり、老若男女問わず大人気の遊園地である。


「へぇー、良かったじゃん」


「でしょ? でね、提案なんだけどさ、次の日曜、私たちも“ファンパ”行かない? なんかゆみちゃんが楽しみにしてるの見てたらさ、私も行きたくなっちゃって!」


「ふーん、まあよく分かんないけど、愛生が行きたいなら行ってもいいよ?」


「やったっ! 決まり! じゃあ忘れないでね! 次の日曜だからね! 来週だからね!」


 愛生は飛び跳ねながら、子どものように喜ぶ。目を大きくして、僕を何度も見てくる。顔が近い。


「わかったわかった、じゃあ前日までには宿題終わらせないとだね」


「あっ、そっか……」


 愛生の顔がほんの少しだけ曇る。まったく、忙しい人だ。


ブルルッ…… ブルルッ……


 愛生に呆れていると、突然僕のスマートフォンが振動した。またか……

 僕はスマホを取り出し、立ち上げた。


「ん? どうしたの?」


 愛生が覗こうとするが、僕は端末を傾かせ、画面を見せないようにする。端末には、ノゲム出現の通知が来ていた。位置はこのデパートの立体駐車場3階だ。


 僕のスマホにはノゲム探知機の機能が備わっている。本来、ゲットリッダーのノゲム探知機は専用の腕時計型の端末であるが、僕のような、身分を隠しているゲットリッダーには、アプリとして探知機を装備することが特別に認められている。


「急用ができた。ごめんだけど、先帰っててくれる?」


「え、えぇ!?」


「ごめんっ」


 僕は2つの袋を愛生に渡した。


「ちょっと旬くん!?」


 愛生はひどく戸惑っているが、今上手い嘘を考える時間はない。


「ごめん! 理由は後で説明する。すぐ済ませるから、事務所で待ってて!」


「えーっ!?」


 僕は踵を返して、ノゲムのいるデパートの立体駐車場に向かった。申し訳ないけど、仕方がない。袋は少し重いけど、ここから事務所まで歩いて10分くらいだ。そんなに疲れることはないし、心配ないだろう。








タンッ……


 僕は現場に着いた。辺りはまるで真冬のように寒い。9月とは思えないほどだ。


「フォォォォ……」


 広い駐車場、僕の目の前には既にノゲムがいる。そいつは宙を浮きながら、僕をじっと見ている。

 白い着物を着たような体で、雪女のような姿。しかし足は見えず、手かと思われる部位の指も、2本しか見えない。


 僕は周りを見渡す。車や柱は真っ白に凍っていて、ところどころには大小の雪の塊が見える。おそらく買い物客だろう。大人や子どもの大きさほどあるその塊は、ピクピクと僅かに動いている。

 なるほど、コイツは“ユキオンナノゲム”だ。見たところヒューマンノゲムではなさそうなので、苦戦しないで済むだろう。

 

 僕は目の前にいるノゲムについて考察しながらも、周囲の防犯カメラを見る。不幸中の幸いか、どこのカメラにも霜が降りていて、こちらをはっきりと見えないようになっている。辺りにも人はいなさそうだし、ここで変身しても大丈夫そうだ。他のゲットリッダーが来ないうちにでも早く倒して、愛生の宿題を手伝わなければいけない。


get(ゲット) rid(リッド)


 僕はチェンジャーにキーを挿し、回す。


change(チェンジ) Getrider(ゲットリッダー) Aegis(イージス) Union(ユニオン) Swordshield(ソードシールド)


 僕はゲットリッダー・イージスに変身した。剣と盾のノゲム、ソードシールドノゲムの身体は、鋼のように固くて重い。僕の体にズッシリと乗るそのアーマーも同様で、とてつもなく重いはずなのに、その重さはあまり感じとれない。

 僕は……ゲットリッダー・イージスは、アタックスタイルとディフェンススタイルの2形態を使い分けることができる。しかし、変身した瞬間の姿はディフェンススタイルで固定だ。変身完了直後はスキルの発動も難しく、攻撃を受けてしまえば意味がない。そう()が判断したんだろう。


「フォォォォッ!!」


 僕が変身を終えた瞬間、ノゲムは紫色の小さい口から超低温度の冷風を僕に向けて放射した。


weapon(ウェポン) 転送 Largesworshield(ラージソーシールド)


 僕はラージソーシールドを召還した。これは、並のゲットリッダーが発動するファイナルスキルほどの威力なら一度は容易に防げるような、僕の身長ぐらいはある、とても大きい盾だ。


「フッ!」


 僕はラージソーシールドでノゲムの冷風を防ぐ。ノゲムの冷風は超低温だ。普通の盾なら、凍って脆くなるだろう。しかし、僕の盾は違う。相手の攻撃に合わせて自動で適切なコーティングを纒い、余程特殊な攻撃じゃない限り対処することができる。水の攻撃には撥水性のコーティング、炎の攻撃には水のコーティング、そして氷の攻撃には高熱のコーティング。これがノゲムの冷風を瞬時に溶かす。

 盾から零が垂れるのが見える。想定通り、冷風が溶けているのだろう。


「ハッ!」


タッタッタッタッ……


 僕は冷風を防ぎながら、ノゲムに向かって全速力で走る。


attack(アタック) skill(スキル) 発動 Iron(アイアン) attack(アタック)


 僕はスキルキーを挿した。僕の持つ盾は、“iron”、固い鉄のコーティングを何層も纒う。「アイアンアタック」は、鉄のコーティングを纏った盾を敵にぶつける技だ。

 普通、このディフェンススタイルでのアタックスキルには、ノゲムを一撃で倒すほどの威力がない。ディフェンススタイルは、受けたダメージを最小限に減らす反面、攻撃力に乏しい。並のゲットリッダーが発動するファイナルスキルぐらい防げるとは言ったが、逆にこの形態では並のノゲムに致命傷を負わせることは難しく、この「アイアンアタック」も、通常は相手との間合いを広げ、アタックスタイルにスタイルチェンジするための時間を稼ぐときにしか使わない。しかし、このユキオンナノゲムに対しては違う。この技でも十分致命傷を与えられだろうことは明らかだ。僕にはその確証がある。


 ノゲムの側まで来た。僕は盾をノゲムの体にぶつける。


ガァン……!


「フォォ…… フォォォォッ!」


パァァァン……


 金属音が辺りに鳴り響く。ノゲムの体全体にはひびが入り、氷が砕かれたように体が粉々に割れた。破片は宙を舞い、パラパラと地面に落ちる。

 コンクリートに散らばり落ちた氷はすぐに解け、水滴に変わった。


 氷は弱い衝撃でも簡単に壊れる。そしてユキオンナノゲムは氷の特性を持っていた。ノゲムの体内には自身の身体を冷やす、冷却構造のようなものがあり、その構造が自身の体を脆くしている。そんな脆い体には、ディフェンススタイルでの攻撃でも十分なダメージを与えられる。

 やはり()と知り合っていて良かった。彼のおかげでノゲムやゲットリッダーに関する知識が増え、戦いを有利に進めることができる。


 僕は地面に広がる液体を見る。ノゲムとは不可解な生物だ。通常なら液体になって死ぬ生き物なんていない。というか、いてはいけない。なぜこのような生物がいるのか……ノゲム体内にある、ありゆる臓器が氷でできていると考えるのが自然だが、やっぱりそのような体内構造を持てる原因が分からない。どういった生物がどういった進化過程でこうなるのか、今の発展した科学でも、到底解明できないことだ。


 バラバラになったノゲムの体が溶けるのとほぼ同時に、周りの凍っていた車や柱、そして人も元通りになった。気温約35度のこんな猛暑日でも、これほどまで急速に解けるわけがない。ノゲムが死んだから、ノゲムの攻撃による影響が消えたと考えるのが普通だろう。やはりノゲムとは不可解な生き物で、この世に生きてちゃいけない生き物だ。


「おい、あれゲットリッダーじゃないか?」


「あの人が私たちを守ってくれたんだよ!」


「あ、あぁっ……ありがとうございます!」


 さっきまで凍っていた人たちが次々と僕に感謝のお礼を言ってくる。スーツを来た人、大学生と思われる女の人たちや、子連れの母親など、色んな人たちが僕に頭を下げ、足早にその場を去っていった。

 僕はそのお礼には応えなかった。僕は人に感謝されるために戦っているわけじゃないし、感謝されても微塵も嬉しくない。




 周りは誰もいなくなり、この場には僕しか残っていない。当然、辺りの防犯カメラを覆っていた霜も溶けていて、このまま変身を解くわけにはいかない。

 どこか人気(ひとけ)のないところに行こうか。


「……ん?」


 僕は後ろを向き、歩きだそうとした。しかし、その目の前には小さい子どもが立っている。鋭い目をして僕を睨んでいるその子どもは……“赤西竜也”だ。

 赤西竜也の眼光は僕の心を焼こうとする。

 めんどくさい。頭が痛い。気分が悪い。とても嫌な気分だ。僕はこの先ずっと、こうして誰かに恨まれ、死ぬまで追いかけられるのだろうか……

 すごく嫌だ。すごく嫌なんだけど、でも仕方がない。


「おい竜也ッ、待て……! って、イージス!」


 赤西竜也の後に続き、潮田大翔も来た。


 どうしよう、逃げようか。しかし、ここで赤西竜也の相手をすれば、少しでも()()の正体を明かす手がかりを掴めるかもしれない。それに、ずっと聞きたかったこともある。


「フフッ……」


ガコン……


 僕は、持っていた盾をその場に投げ捨てる。この二人を相手にすると決めた。


 愛生、ごめん。もう少しだけ待ってて。

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