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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第8話 [男にとって、父親の存在ってやっぱでかいよな。]
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6才で引きこもりとはな。 ー潮田大翔ー

 あの岩本中学校の戦いから、実に2週間は経った。あの夜、金房さんたちとはゆっくり調査しようと話していたが、ゆっくりどころじゃなく、そりゃ全くと言っていいほど、イージスについての調査は進んでいなかった。というのも俺自身、ここ2週間はほぼ休みがなかった。岩本中学校での件について、警察からの事情聴取やマスコミからの取材と、そしてなによりもノゲムとの戦いがあったからだ。

 今まで、この辺りでのノゲム出現は月に2,3回あるかないかだった。あっても別のゲットリッダーが倒したりで、結果俺が戦いに出るのは月に1度ぐらいだ。しかし、最近のノゲム出現率は異様なまでに上がってきている。原因は分かってる。隼瀬(はやせ)や谷山が持っていた、ノゲムを使役する装置だ。行方知らずの隼瀬がばら蒔いているのか、それとも別の何かが動いているのか、真相は分からないが、ここ2週間で俺が戦ったノゲムは5体。いずれも人とノゲムが融合した怪物、「ヒューマンノゲム」ではなかったため、ときに他のゲットリッダーと協力しながらも、簡単に倒せてはいたが、ヒューマンノゲム相手だったらどんな大きな怪我を負っていたか分からない。それほどまでに戦いは激化している。

 事態の沈静化には、装置の流通を止めることが必要だが、現状はなかなか厳しい。これは田上さんたちから聞いた話だが、この2週間、ノゲムを使役した者、ノゲムと融合した者はいずれも失踪、もしくは既に死亡した状態で発見されていて、裏で動いている者についてはまだ見当もついていないという。不幸中の幸いか、日本国内のゲットリッダーは少なくなく、ノゲムの被害による死亡者は未だ出ていないらしいが、連日ワイドショーではノゲムについての報道ばかりしていて、このような事態となった原因と見られる、正陰コーポレーションのキー紛失事件や、ノゲム使役装置の全貌など、未だ真相を掴めていない警察に、国民の批判は集中している。またこの情報社会の中、ノゲムに関する不確かな情報が錯綜していることもあり、日本中は大混乱で、一部では「第二次ノゲムショック」とも呼ばれているほど、一連の騒動は社会問題になっていた。


『僕が思うにねぇ? このまま使役装置の流通が止まらないなら、ノゲムによる被害は大きくなる一方ですよ? 『鋭意捜査中』とは言いますが、警察はまともに動いてるんでしょうかねぇ? この10年間、ノゲム討伐に警察は関わっていない状況ですけども、これからは警察と正陰コーポレーションが連携して動かないと、装置はどんどん広がり、日本中……いや、世界中が、10年前のそれよりも何倍もひどい状態になりますよぉ?』


 俺はまたサンビレッジに来ている。テレビでは、今まさにワイドショーが流れていて、中途半端に知識のある芸人がやいのやいの言っている。その正陰コーポレーションが胡散臭いからこうなっているというのに、何も分かっていないんだこの芸人は。深いことを知らないくせに、安全圏から好き勝手言ってるその態度が、正直見ていてイライラする。


「そうですか、まだたつやくんは……」


 俺と金房さんが座る正面、渡辺(わたなべ)陽子(ようこ)さんは心配そうな顔をする。渡辺先生は竜也が通ってる幼稚園の担任の先生で、以前俺と麗華が参加したふれあい会でお世話になった人だ。

 竜也は、あの日あそこに引きこもって以来、養護施設や幼稚園にも顔を出していない。担任である渡辺先生はそんな竜也を心配し、わざわざ日曜に時間をとってくれたのだが、そんな渡辺先生の気持ちも知らず、竜也は依然として部屋に引きこもっている。

 この恩知らずが……いっそのこと無理やりにでも引っ張り出してやりたい。まあ、父親を殺した犯人が目の前に現れ、また人を殺すなんて光景を目にすれば、こうなるのも仕方はないのだろうけど……


「そうですねー……もう2週間にもなりますが、食事とトイレ以外は私の部屋にずっと引きこもっておりまして、おかげで私は毎晩このソファで寝ております。いやぁ、参っちゃいますよほんと。アハハハハハ……」


 金房さんが誤魔化すように笑うが、ちっとも空気は良くならない。


「それでも、たつやくんにとってここは『引きこもれる場所』なんですよね。正直、担任の私でもたつやくんの心を開かせることができていないものですから、尊敬しちゃいます。どうやってたつやくんと仲良くなれたんですか?」


 渡辺先生の、外れているような、的を射ているような発言が俺たちを攻撃した。

 竜也はちっとも俺たちに心を開いていない。あの“悪ガキ”は俺の言うことなんてちっとも聞かない。ではなぜここに引きこもっているのかというと、竜也がゲットリッダーであるからとしか言いようがない。アイツがゲットリッダーだから、俺たちはアイツを気にかけているし、アイツがゲットリッダーだから、今ここにいる。本当なら、竜也が引きこもってる経緯ぐらい教えてあげたいが、一から説明するなら、竜也がゲットリッダーであることも説明しないといけない。しかし、6歳の子どもがゲットリッダーだなんて、とても公表できない。それは例え担任の先生でも同じだ。


「そ、そそそ、それはですね、えっとー……」


 嘘をつかなければ。どうにかして辻褄の合う理由を付けて、例え嘘でも、渡辺先生を安心させてあげたい……

 俺は頭をフル回転した。しかしその瞬間に、金房さんが口を開く。


「いやぁ、それが私たちにも分からないんですよぉ。まあ竜也くんも、私たちに心を開いているわけではないと思うんですけどねぇ」


 金房さんが助けてくれた。そうか、下手に嘘はつかず、分からないと言ってしまえばいいのか。

 俺は一つ、ごまかし方を学んだ。


「あぁ、そうなんですね それでも、やっぱり潮田さんや金房さんにはとても感謝しております。おそらくあのふれあい会が、たつやくんにとって何か大切なものになったんでしょうね~」


 さすがは幼稚園の先生だ。とても柔らかい声で褒めてくれるもんだから、思わず笑みがこぼれてしまう。まあ、言ってることは間違いなんだけども。







 そこからは、「たつやくんの様子はどうですか?」とか、「最近ノゲム大変ですよねー」とか、「探偵さんってどんな仕事してるんですか?」とか、しばらく当たり障りのない雑談が続き、時間が過ぎていった。


「あっ、すいません。すっかり長居してしまいました…… わざわざお時間を割いていただきありがとうございます」


 渡辺先生が立ち上がる。


「いえいえ……」


 渡辺先生はカバンを持ち、金房さんの部屋の方へと向かった。


「たつやくーん? 先生もう失礼するから、気が向いたらまたいつでも来てね、またねー」


 渡辺先生はドアの向こうにいる竜也へ声をかけるが、やはり中から応答はない。


「ではまた…… たつやくんをよろしくお願いしま……」


ピーピーピー……!


 渡辺先生が事務所を出ようとしたとき、俺の右腕の探知機が鳴った。


「えっ……!」


 渡辺先生は口を手で抑え、ひどく驚いた。

 竜也の探知機も鳴っているのか、ドアの向こうからもかすかに音が聞こえるが、それが俺のセンサー音に被り、渡辺先生は気付いていない。


 俺は探知機の画面を見た。

 センサーには地図が表示されている。近くのショッピングモールにノゲムを表した赤いマークがあった。既にゲットリッダーはいるようで、近くに青いマークもあるが、そこにある文字は見覚えのあるものだった。


Aegis(イージス)


 青いマークの上にはそう表記されていた。


バタンッ!


 俺がそれに気付くのもすぐに、勢いよく部屋のドアが開いた。黄色いリュックを持った竜也が勢いよく飛び出し、風を切りながら全速力で走り、そのまますぐに事務所を出ていってしまった。


「わぁたつやくんすごい! 外に出れましたね! あっ! でもノゲムが……!」


 渡辺先生は緊迫した表情から一転、金房さんの顔を見ながら手を叩き、嬉しそうに驚くが、またすぐに張りつめた顔に戻る。この状況はとても喜ぶべきことではない。

 あいつ、イージスと戦う気だ……


「俺行ってきます!」


 俺は竜也に続いて事務所を出た。

 渡辺先生のことは金房さんに任せて、今は竜也をなんとかしないと……




「はぁっはぁっはぁっはぁっ……」


「おい竜也……! 竜也ァー!」


 綺麗に舗装された歩道を、息を切らしながら走る竜也。それを追う俺。幼稚園児の走力だとなめていたが、たつやの足はとても速く、なかなか差を縮めることができなかった。

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