あかるく ー灰東愛生ー
「しゅんくん、ほんとに大丈夫なの?」
二段ベッドの上の段から、私は旬くんを見下ろす。
「大丈夫って?」
旬くんはクローゼットから服を出している。
「肩のケガだよ! なんでそんな危険なことするかな~」
「あの時点なら、イージスもすぐに僕を殺すなんて行動には出ないだろうって……思っただけだよ」
旬くんは、いつもみんなの前で話すときとは違い、低く落ち着いた声で言う。
「今度からは金房さんたちにも相談しなよ?」
私は柵に寄っ掛かって、口うるさく言った。
「はいはい、わかったわかった」
「もう、すぐそうやってテキトーに流すんだから」
旬くんは私をチラッと見ると、フッと鼻で笑った。
「そうだ。しゅんくんさぁ、いつ素直になれるの?」
「なにそれ」
旬くんは顔をしかめた。
「学校の人たちには別に大丈夫だと思うけどさ? お世話になってる金房さんとか、大翔さんたちとかには素直になってもいいんじゃないかなーって…… もちろん、明るくて友達の多いしゅんくんも良いと思うけど、いつもの暗めで冷静なしゅんくんのほうが、私は好きだからさ?」
本当の旬くんはこういう感じ。いつも冷静で暗くて、それでも私と一緒におしゃべりしてくれたり、私に勉強を教えてくれたりする。幼稚園の頃から変わらない、気取らない旬くんの方が好きだし、旬くんにとっても素直でいられる方が楽で良いと思うんだけど……
「今更変えたって引かれるだけでしょ」
旬くんはイスに座ってスマホを見る。
「まあそうだけど……」
いつもこうだ。頭のいい旬くんに口で勝てたことがない。
少しだけ静かになる。私はまた話しかけてみる。
「それにしても、しゅんくんの推理がはずれるなんてね~、初めて見た!」
私は努めて明るく話した。
小学生の頃、クラスの子のえんぴつが失くなって、その子が私を疑ったとき、旬くんはわざわざ上の階から教室に来てくれて、えんぴつを見つけてくれた。結局は、失くしたって言ってた子本人がわざとやったみたいで、それを知ると旬くんはものすごく怒ったんだけど。
旬くんはすごく頭が良い。どんなに難しい問題も、どんなに難しい事件も、全部まるっと解決してくれる。
でも今日は違った。いつものように事件を解決したかと思ったら、本当は全然違ってて、金房さんにそこを指摘されていた。思い出すと、ちょっとかわいくて笑っちゃう。
「そんな無理して、明るく振る舞わなくていいよ」
旬くんはスマホを置いて、私をまっすぐに見た。旬くんの目は私の全てを分かっているような目だった。
旬くんの一言で私はハッとした。またやっちゃった。辛いときがあると、無理して明るくしようとしちゃう。「辛い」って素直に言えなくなっちゃう。
「今日は疲れたでしょ。僕はお風呂入ってくるからさ。先に寝てなよ」
旬くんはドアの前まで歩いて、たまに見せる優しい顔でこっちを振り返る。
「うん、わかった……おやすみ」
「おやすみ」
旬くんは部屋を出た。
私は電気を消して、布団に入った。
今日は怖かった。私は頭も良くないし、何がなんだかよく分からなかったけど、なんだか胸がキュッてなって、今すぐお母さんとお父さんに会いたくなってきてしまうぐらいに、寂しくて悲しい気持ちになる。
それでも今日は、大翔さんたちが私たちを守ってくれた。ほんとは大翔さんたちも、私たちよりずっとずーっと辛い思いをしているのだろうけど、私が大翔さんたちにできることはなにもない。
今はただ、みんながノゲムにおびえることなく、平和に暮らせるときが来ることを願うしかないんだと思う。
いや、私にも何かできることはあるはず。どれだけ小さなことでもいい。私なりに考えてみなくちゃ……




