あいつ何者なんだよ。 ー潮田大翔ー
●あらすじ
連続放火事件を発生させていたのは岩本中学校3年2組の少年、谷山厚であり、ゲットリッダー・バッドの正体は同じくクラスメイトの久住浩也という少年であった。谷山厚は大翔たちを殺すため、マグマノゲムを召還するが、ノゲムのマグマを浴び、死んでしまう。そんな悲劇をも気にせず、久住はバッドに変身し、ノゲムを撃破した。
ゲットリッダー同士共に戦うよう促す大翔に逆上し、襲ってくるバッドであったが、そこにイージスが乱入。バッドを圧倒し、遂にはバラバラにして殺してしまう。
イージスの目的は、力を間違った方向に使うゲットリッダーを処分することであり、ゲットリッダー・バッドこと、久住浩也は野生の犬や猫を、力を使って殺していたという。目の前の惨状をただ見ることしかできなかった大翔は絶望し、イージスはその場から姿を消した。
路地裏で電話をするイージスは仮面を脱ぐ。そこにいたのは灰東愛生の幼なじみであり、大翔の協力者として行動していた少年、炭岡旬であった。
●登場人物
・潮田 大翔 ♂
ゲットリッダー・ノーマの変身者。大学3年生。才色兼備の彼女はいるが、本人はいたって普通の、どこにでもいる大学生。ある日偶然にもゲットリッダーになり、自分の不甲斐なさと葛藤しながらも、ゲットリッダーとして日々ノゲムと戦っている。
・安城 麗華 ♀️
大翔と同じく帝頂辺天大学3年生で、大翔の恋人。容姿端麗でみんなの憧れの存在。
・大空 心助 ♂
ゲットリッダー・ロウルフの変身者。35歳。寡黙でゲットリッダー同士のつながりを好まない。
・赤西 竜也 ♂
ゲットリッダー・ティラノの変身者。志治乃木幼稚園ばら組の園児、6才。生意気な性格で、他の園児と遊ぶことは少ない。両親を1年前に亡くしており、養護施設にて暮らしている。
・炭岡 旬/イージス ♂
ゲットリッダー・イージスの変身者。中学3年生、15歳。成績優秀で、頭が良い。その頭脳を金房に買われ、探偵の助手として、探偵事務所サンビレッジに幼なじみの愛生とともに居候している。世間では社交性のある、優等生キャラを演じているが、一方でイージスとして、数々の不穏な行動をし、大翔たちを翻弄している。力を間違った方向に使うゲットリッダーを処分する殺し屋としても活動しているが……
・金房 佑樹 ♂
探偵事務所サンビレッジの私立探偵で、元警視庁捜査一課の刑事。40代、小太りで、夏でもトレンチコートにハットを着用している。紳士口調で話し、誰にでも気さくな性格。
・灰東 愛生 ♀️
炭岡旬の幼なじみ。14歳、中学2年生。天真爛漫な性格であり、かなりの天然。現在は探偵事務所サンビレッジにて金房、旬とともに暮らしている。
・渡辺 陽子 ♀️
志治乃木幼稚園に勤めていて、赤西竜也のいるばら組の教諭。穏やかで心配性な性格で、何かと竜也を気にかけている。
「二人の話を総合すると……」
金房さんが、まるで捜査会議のようにホワイトボードに情報を書き込んでいる。
「イージスは今回の放火事件には一切関わっておらず、ゲットリッダーの力を使って野生動物を殺していたゲットリッダー・バッド、久住浩也をずっと狙っていた。潮田くんが高架下にてノゲムと戦っていたときも、バッドを殺すため待ち伏せしていたということか」
「そして今日、岩本中学校にて俺たちの前でバッドを殺した……と」
大空さんが呟いた。
俺たちは金房さんの事務所にいる。
あの戦いの後、すぐに警察が来た。ノゲムが倒されていたこともあり、事情聴取は明日に持ち越しとなった。
今は俺と大空さんと金房さんで事件の情報を整理している。麗華には家に帰ってもらって、田上さんと中野さんは警視庁に戻った。たつやは事務所のソファに座り、黙ったまま。愛生ちゃんは風呂に入っている。
そして、旬はまだ帰ってきていない。愛生ちゃんによると、連絡はできているとのことだが……
「大空さん、やっぱりこれ、公表すべきですって」
俺はイージスのことを公表すべきだと思っていた。てっきり大空さんもこの提案に乗るはずだろうと思っていたし、警察が来たときも、俺は全部説明しようとしていた。しかし、なぜか大空さんや田上さんはそのことを隠した。麗華や愛生ちゃんには何も言わず、警察にはただ「放火事件の犯人は死亡し、ゲットリッダーがノゲムを倒したがそのゲットリッダーは逃げた」とだけ言った。
「やめておけ。自分の命が惜しかったら……公表するな」
「そうだね。今はやめておこう」
「なんでですか!」
大空さんだけじゃなく、金房さんも俺の意見に反対を示した。
「お前も見ただろ、あいつは強い。殺し方から見るに、あいつは何度もああいった、ゲットリッダーの“処罰”をずっとやってきたのだろう」
「だから!」
「黙って話を聞け。ヤツの行動に関して、ネットには一切情報がない。ということは今まで完璧に、誰にも見られずにやってきたか、もしくは大きな組織、例えば正陰コーポレーションが協力して情報を隠蔽している可能性がある。それだけ秘密にしていたのにもかかわらず、殺すところを堂々と俺たちに見せてきた。その目的は分からないが、俺たちに邪魔をされてもどうにかなる自信があるってことだろう。今ここで俺たちが公開しても、無駄になるだろうし、最悪俺たちがヤツに殺されるかもしれない」
「でも、大空さんがいれば……!」
「無理だな。悔しいが、今の俺じゃヤツに勝てない」
「じゃあ、もっと多くのゲットリッダーを呼んで……」
「確かにそれなら勝てるかもしれない。ただ勝てたとしても、犠牲者が一人もでないという保証はない。そんな条件で手を貸すゲットリッダーがいると思うか?」
「それじゃあ……」
「潮田くん、まだ戦うときではない。君も大空くんも、あいつに勝てるほど十分強くなったときに行動するべきだ」
俺は何も言い返せなかった。悔しいけど、二人の言うとおりだ。
「このことは、安城くんたちには話さず、私たちだけの秘密とするんだ。秘密のまま、もっとイージスについて調べ、時が来るまで待つんだ」
確かに、それが一番かもしれない。もし話したら、麗華たちがイージスに狙われるかもしれない。旬や愛生ちゃんにいたってはまだ中学生だ。色々協力してくれているとはいえ、無関係な人を危険に晒すわけにはいかない。
「はい……分かりました」
「そんなことできない!」
突然甲高い声が事務所に響いた。さっきまでずっと静かにしていたはずのたつやがいきなり叫んだのだ。
「たつや……お前の気持ちも分かる。あんな光景見させられて黙って見過ごすわけにはいかないよな。でも……」
「そんなんじゃないっ!」
たつやが俺の言葉を遮る。
「あいつは……あいつは……!」
たつやの声が小さくなる。
「とーちゃんをころしたんだ……」
たつやの口からは思ってもいない言葉が聞こえた。
イージスが……たつやの父親を?
「なっ、なんだって?」
金房さんが驚きのあまり、目を丸くしている。大空さんも普段見せない表情でたつやを見ている。
「お前の父親って……ゲットリッダーの?」
「おい、どういうことだ?」
大空さんが俺に聞く。
「あ、はい。えっと、たつやの親は二人とも亡くなっていて、父親はゲットリッダーだったらしいんですけど……」
「なるほどな。そいつもバッドみたいに力に溺れて……」
「ちょっと大空さん……」
「とーちゃんはそんなやつじゃない!」
再びたつやが叫んだ。
「とーちゃんはあいつみたいに、あばれるやつじゃない! おれはみたんだ! あいつがとーちゃんをころしたんだ!」
たつやはひととおり叫んだあと、大泣きし始めた。
「ちょ、おいたつや、落ち着いて」
俺がたつやを止めようとするよりも先に、大空さんが動いた。
「おい小僧。泣きたい気持ちは分かるが、今泣いていても仕方がない。とりあえず今は俺にチェンジャーを渡せ。今のお前にはイージスはおろか、ノゲムとすらまともに戦えない」
「うるさいっ! だまれ!」
大空さんがたつやの肩を持って訴えるが、たつやはその言葉を聞き入れなかった。
たつやは走り出し、奥の扉を閉め、引きこもってしまった。
金房さんが前に言っていたが、この事務所はもともと住宅を改装したもので、奥のドアを開けると、廊下と階段があり、そこを挟んだところにまたドアがあって、その奥は金房さんの部屋らしい。
たつやがドアを閉め、俺たちの前から姿を消して間もなく、またドアを閉める音がしたので、恐らく金房さんの部屋に入ったのだろう。
「あいつ……もうすぐ施設の人が来るってのに……」
たつやの暮らす養護施設の人が迎えに来るまで、俺はたつやをここにいさせていたのだが、こうなってしまえばかなりの時間がかかるだろう。
いや、そんなことを考えてる場合ではない。たつやの言ったことはとんでもないことだ。この状況でこれまた重い話を聞いて、頭で処理しようにもしきれない。
「仕方がないさ。実の親を殺したやつが、また目の前に現れたんだ。6才に背負えるものじゃないよ」
「でも、どういうことなんでしょう? あいつの言ってることが正しければ、イージスは暴走もしていないゲットリッダーを殺したことに」
「そんなのどっちでもいい。今はあの小僧をなんとかして施設に帰すだけだ」
大空さんがたつやが引きこもった方へと歩いていく。
「ちょ~いちょい大空くん、無理に言っても彼は聞かないよ? 今はそっとしておくのが一番だ」
金房さんが大空さんの肩を抑える。大空さんは顔をしかめるが、潔く歩みを止める。
「仕方ない。今日は彼を泊めることにしよう。潮田くん、施設の人に連絡してくれないか?」
「あっ、はい、分かりました……」
俺はスマホを取り出し、施設の人にメッセージを送った。
「さっ、みんな今日は疲れたろう。ぐっすり寝れる状況ではないと思うが、そろそろ帰りたまえ」
「そうはいってもあと一人、まだ戻ってきてないが?」
大空さんの言葉で、今忘れかけていたことを思い出した。
そうだ旬だ。あんな事件のあとに、一人で何をしているんだろうか。
「しゅんくんならたぶん大丈夫ですよ」
突然、愛生ちゃんが奥の扉から出てきた。
風呂から出たばかりなのか、濡れた髪をタオルで拭きながらスマホを持っている。
金房さんは慌ててホワイトボードをひっくり返す。
「もうすぐ着くって言ってます」
愛生ちゃんがスマホを見せてくれる。そこにはかなりの数のメッセージが見える。
ガチャッ
「ただいま帰りました……って、いっぱいいますね……」
旬が苦笑いしながら入ってきた。
「しゅんくん遅いよぉ! もうおなかペコペコ!」
愛生ちゃんは旬の顔を見た途端、すぐに駆け寄った。眉をハの字にしている。
「先に食べててって言ったじゃん」
そっけない態度をとる旬を、愛生ちゃんが少しムスっとした表情で見る。
教室にいたころと同じ服装で、変わらない笑顔でいる旬。それでも何か違和感があった。
「炭岡くん、その肩……」
金房さんが旬の肩を指差す。見ると、黒いハンカチが巻かれていて、赤い楕円形のシミがうっすらと見える。
「あ、そのことでちょっと話があって」
旬は俺たちにスマホを見せた。写真のようだ。暗く、ブレていて、何を写しているのか全く分からない。
「イージスが仮面を脱ごうとしたところを撮影しようとしたんですけど、気づかれてしまって…… これ、やっぱり写ってないですかね……」
「は……は?」
いきなりの突飛な発言でまるで処理が追い付かない。
イージスの後をつけてたってことか? なんで? なんでそんな無茶なことをするんだ?
「ちょっと待ってくれ、炭岡くん、君は何を……」
金房さんと大空さんも同じく戸惑っていた。愛生ちゃんにいたってはイージスという単語すら理解していない。
いや、そんなことよりも旬の肩だ。
「おい、まさかそれ……」
「えっ……あ、はい、イージスに気づかれてしまって、肩をちょっと」
旬はキュッと顔をゆがめた。
「えっ!?」
愛生ちゃんが血相を変えて、旬に肩に顔を近づける。ハンカチをほどき、傷を見る。
「だ、大丈夫なのかよ……」
傷口は薄いが、その傷は何か刃物がかすったようなモノだった。
俺は途端に旬のことが心配になった。これがあと何センチか違っていたら……
「そんな、かすり傷なんで大丈夫ですよ?」
旬は苦笑いをする。
「待て、ケガもそうだが、お前はなんでそこにいたんだ」
大空さんが旬に訊ねる。
それも大事なことだ。旬がどうやってイージスに近づけたのか。まずはそこからか。
「はい。えっと、マグマノゲムが出現したとき、みんなで教室から逃げたじゃないですか。その途中で白い仮面の男を目撃しまして、もしかしてイージスかなって。それで後をつけたんです。僕、そのときからずっと彼を見ていて……あのベランダでの戦いも。その後もずっとつけてたんですけど……」
「え、てことは」
「はい……イージスがバッドを……」
「ん゛、ん゛っ! 灰東くん、すまないが二階にある救急箱を持ってきてくれないか?」
「……はいっ、分かりました!」
金房さんが慌ててごまかした。愛生ちゃんも疑う様子を見せず、奥へ走っていった。
「ど、どういうことですか?」
旬は訳が分からない様子で金房さんを見る。
「あのことは秘密にしておくってことになったんだ。まさか旬があれを見ていたなんて……」
代わりに俺が答えた。さっき旬にも隠そうと話していたばかりだったのに……
「あのことを口外したら、イージスに狙われるかもしれない。これは俺たちだけの秘密だ。誰にも教えるな」
大空さんが静かに低い声で言い聞かせた。
「なるほど、分かりました」
旬も小さい声で応えた。
しかし、少し不思議だ。あの惨状を見て、俺や大空さんまでもがショックを受けていたのに、旬の表情からはまるでそんな様子は見られない。もちろん暗い顔はしているが、やはりどこか落ち着いている雰囲気だ。
これは若いからこその冷静さなのか。俺も中学のときは、俗に言うスプラッター映画を平気で観れていたが、今は少し苦手だ。それと似たような感じなのだろうか。若いからこそ、残虐な光景への苦手意識が薄いのか……
「この写真のことだが、残念ながらめぼしいものは写ってないね」
金房さんがスマホを前後しながら、目を細めて言う。
「やっぱりそうですか。今度からはもっと慎重に調査しないと……」
「それはだめだ、炭岡くん。さっきも言っただろう? 迂闊に手を出すと、命が危ないんだ。今後の調査はゲットリッダーである潮田くんと大空くん、そして探偵の私に託したまえ。君はあくまで、私のサポートに徹するんだ。いいね?」
旬は納得しきってない表情だが、一応頷く。
またしばらく静かな時間が流れる。
重い空気をただ感じていると、ドアが開き、愛生ちゃんが救急箱を持って走ってきた。
「持ってきたよ!」
慌てた様子でカチャカチャと救急箱の中身を探っている。
「これで話は終わりだ。俺は帰る」
大空さんはこちらをちらっと見ると、ドアを開けて出ていってしまった。
「え……このタイミングで帰る? 普通」
「彼も彼なりに何か思うことがあるのだろう。そっとしておこう」
金房さんは俺の肩に手を置いた。
「潮田くんもそろそろ帰りなさい。たつやくんは私が面倒を見ておく」
「でも……」
「いいから。早く帰って、傷ついた体を休ませなさい」
金房さんは優しく俺を促した。
「……分かりました。たつやのことでなんか困ったら遠慮なく連絡してくださいね」
「ああ、承知したよ」
俺は金房さんの言葉に甘えることにした。事務所のドアを開け、また中に目をやり、一礼した。金房さんと旬もこちらに一礼した。愛生ちゃんは旬の傷の手当てに集中していてそれどころではないようだった。
とりあえず、放火事件は終わった。だがしかし、また新たな死者も出て、謎も増えた。
イージスの目的は少しばかり判明したが、その裏にいると思われる正陰コーポレーション、イージスを倒す方法、イージスの正体は未だに分からない。
それだけじゃない。隼瀬の行方や、谷山の犯行の経緯、たつやの父親についても、分かっていない。正直、様子を伺いながらゆっくり行動なんてしている暇はない。
俺はイージスを許さない。どんな理由であれ、やっぱり人を殺すなんて間違っている。
絶対にあいつを止める。
俺は幾つもある課題に悩みながらも、イージスを止めるという新たな決意を固めた。
第8話、始まりました。
たつやの父親がイージスに殺されていたという真実が明らかに。果たしてたつやは因縁の相手にどう立ち向かうのか。




