僕の仕事 ーイージスー
岩本中学校から数百メートル離れた路地裏。既に日も暮れ、明かり一つもなく、人気も一切ない暗がり。ここにいると、まるで闇に引き込まれてしまうような感覚になる。
付近は空き家だらけで、雑音一つない場所。僕は仕事の連絡をするとき、いつもここで電話をする。遠くでパトカーや救急車のサイレンが鳴る中、気にせず僕は電話をかける。
「もしもし」
『やぁ、イージスくん。仕事はそろそろ終わったかな?』
紳士くさい口調でしゃべるこの男は、正陰コーポレーション社長、陽園真道。
僕はこの男の声を聞くと、思わず顔をしかめてしまう。世界で一番嫌いといっても過言ではない。と言っても、僕にはそれほど知り合いもいないし、嫌いになるほど接点のある人もいないから、やっぱり「世界で唯一嫌いな人間」に訂正しておく。
「終わったよ。完璧に殺れた、証拠もぜんぶ消した」
『目撃者は? 誰にも見られずにできたかい?』
「当然、誰にも見られていないよ」
僕は嘘をついた。
『そうか。では報酬の相談といきたいがー……希望はあるかい?』
あいつが僕に仕事を頼むとき、報酬はいつも僕が請求する額で決まる。
「うーん、じゃあ今回はー……5000万かな!」
思いきって今までで一番高い金額を請求してみる。この金も、僕の目的のためには必要不可欠だ。
そんなことを考えていると、ふと気がついた。
僕はいまだにゲットリッダーとしての姿のままだった。グレーのアンダースーツに、金と銀のカラーが入り乱れるアーマーを纏った姿。こんな吐き気のする姿のまま、のんきに電話をしていたとは、僕も汚れてしまったのか。
まあもともと汚れているのだけれども。
僕はチェンジャーからキーを抜き、変身を解除した。白い仮面を外し、暑苦しいパーカーも脱ぎ、さっきまで着ていた私服に着替える。
『5000万!? ふざけないで! あなたここのところ報酬をどんどん高くしてるじゃない!』
電話の先では、社長秘書の若美佑月が値段について口を挟む。が、適当にあしらいつつ、僕は鞄からいつも使っている方のスマホを手に取った。スマホの画面にはいくつもの通知がならんでいる。
愛生からだ。教室から出るときに黙って抜け出したからか、『どうしたの?』、『どこにいるの?』というメッセージとともに、不在着信が100件近くある。
めんどくさいな。どう言い訳をしようか。
「まあいいじゃん? 今日は結構大変だったんだからさ」
『そうは言っても5000万は……』
『まあまあいいじゃないか。5000万だね? 分かった。今週中に振り込んでおくよ』
「おっけー じゃあ切るね」
適当に値段交渉をしていたが、どうやら5000万でオッケーらしい。僕は電話を切り、目の前の問題に集中する。
僕は少しの間考えて、メッセージを送った。
『今イージスを調査してるから、帰るのは遅れる。今日は先に食べてていいよ』
送信してからまた少し考え、僕は鞄からサバイバルナイフを取り出し、自分の右肩を薄く切った。
服は破れ、肩からは血が出ている。僕はポケットからハンカチを取り出し、傷痕の部分をきつくしめる。
「あ、と、は……」
僕は建物に隠れた狭い隙間を見つけ、そこに入りスマホのカメラを起動。斜めに大きく振りながら、シャッターを切る。
「よし、これでいいかな」
僕は作業を終え、路地裏を抜けた。
あ、そういえば、あれ聞くの忘れてた…… ま、いっか。後で聞こっと。
僕は一度立ち止まり、また歩き始めた。
僕の名前は炭岡旬。岩本中学校3年2組、現在は探偵の助手? として、その探偵金房佑樹、幼なじみの愛生とともに暮らしている。
帰った後どんなことを言おうか。金房佑樹、愛生はどのようなことを聞いてくるのか。いくつもの場合を考え、脳内でシミュレーションしながら、ここから5キロほど離れた探偵事務所サンビレッジへと、僕は歩いて向かった。
第7話、これにて完結です。イージスの……いや炭岡旬の目的はなんなのか。
次回第8話、明らかとなる赤西竜也の過去とゲットリッダーとして戦う理由。旬の更なる暗躍。
ご期待ください!!




