なんで死ななくちゃいけないんだよ。 ー潮田大翔ー
《注意!!》
今回の話には少々グロテスクな描写があります。一応年齢制限をする必要はないと思いましたが、そのような描写が苦手な方はご了承ください。
「ハッハッハッハッハ...」
俺たちの目の前で、一人の少年は乾いた声で笑い続ける。
旬の推理ははずれた。犯人は谷山厚という男の子だった。
谷山は「事件は自分一人でやった」、「イージスも関係ない」と言う。ということは俺が現場にいたことを知っていた久住浩也くんがイージスか、もしくはバッド?
いや、この際どうでもいい。今は目の前の問題を……
「まあバレたら仕方ねぇな。ここでお前ら全員燃やしてー、全員殺す」
谷山がキーと装置を取り出した。
「お前ら離れろ! あの装置はノゲムを呼び出す装置だ!」
大空さんは叫び、生徒らが一斉に教室を飛び出す。
「麗華も逃げろ! 金房さんたちも早く! 中野さんは誘導をお願いします!」
「は、はい!」
麗華や金房さん、愛生ちゃんと旬も一緒に逃げる。
ガシャンッ!
谷山は装置にキーを入れ、回した。
谷山の横に扉が出現し、マグマノゲムが現れる。それは俺たちがノゲムを召還する方法と似たものであった。
「さあ、マグマノゲム!! こいつらを焼き殺せ!」
谷山がノゲムに指示を出す。
「ッ!」
俺たちは瞬時にチェンジャーを構えるが、何か様子がおかしい。
「グァァ……」
ノゲムは谷山の指示には聴く耳を持たず、ゆっくりと谷山のほうへと向いた。
「おいなんだよ……早くあいつらをやれよ!」
谷山が俺らを指差すが、ノゲムはびくともしない。
「おいお前! 早く逃げろ!」
大空さんがなにかを察したが、もう遅かった。
「マガァァァ!!」
プシューッ……!
ノゲムは口からマグマを、谷山めがけて発射した。
「おい! ふざけるな! お前ぇ! 何をぉぉ!!!」
「get rid!!」
俺は咄嗟に変身し、谷山を助けようとしたが、ノゲムが噴射したマグマは洋くんを襲った炎とはまるで別物のようだった。
「ぁぁ…… ぁ……」
谷山の叫び声はすぐに途絶え、谷山の顔や体は黒くなり、やがて炭のような、真っ黒な骨の破片だけとなってしまった。
たつやの目を咄嗟に隠す大空さんが横目に見える。
「嘘だろ……こんなこと……」
目の前の景色はとても思いがけないものであった。
もう二度と死なせないと思ったのに、ゲットリッダーとして、人間を守ると決意してたのに、また人が死んだ。それが例え、ノゲムを使って事件を起こしていた張本人だとしても同じだ。
「ハハッ……こいつ、燃えて死にやがった……」
未だ教室に残っていた久住くんが笑った。
教室にはノゲムと、俺と、大空さんとたつや、そして久住くんがいる。
「おい、お前! 何している! 早く逃げろ!」
大空さんの忠告を久住くんは聞いていなかった。
「うるせェ! 俺はゲットリッダーだ。俺はこいつを……倒す」
久住くんはチェンジャーとキーを取り出した。キーには「ネイビーバットノゲム」の絵が見える。
「get rid……」
『change Getrider Bad Union Navybat』
久住の目の前でドアが開き、コウモリ型ノゲム、ネイビーバットノゲムが出現し、ゲットリッダー・バッドのアーマーに変化した。
その姿は、俺が昨日高架下で見たものであった。
「やっぱりお前が……」
「うぉりゃァァァァ!」
『weapon 転送 Bat-wing-dagger』
バッドは2つのダガーを召還し、ノゲムに襲いかかる。
『change Getrider Rorufe Union Shootomanaihina』
「おいっ、何をしている! ノゲムは俺に任せて、お前はバッドを止めろ!」
目の前の惨状に気を取られて、大空さんがロウルフに変身していたことすら気づかなかった。
たつやは谷山の死に方を見て、衝撃を受けたのか、いつもの暴君ぷりが嘘のように呆然と立ち尽くしている。
「はい、分かりました!」
俺は走り出し、バッドの体を抑える。
「おい、バッド! お前もゲットリッダーなら、俺たちと協力してノゲムを倒すんだ!」
「ふざけるなッ! もともとこのノゲムは俺が目を付けてたんだ! 俺だけで倒す!」
ヒュンッ
「うあぁぁ!」
俺の体がバッドのダガーで切り付けられる。
なぜ協力ができないんだ……俺たちはゲットリッダーなのに……同じ“ノゲムから人を守る者”として一緒に戦わなきゃいけないのに……
「くそッ!」
カンッ カンッ カンッ……!
俺は立ち上がり、バッドと激しく斬りあった。
バッドの繰り出す二刀のダガーをそれぞれホタブレード、ホ盾で受け止めているが、向こうの方が遥かに動きが速い。
パァァァァン……
俺とバッドが戦うなか、ロウルフは教室の窓を割り、広いベランダにて距離を取りながらマグマノゲムと戦っていた。
『attack skill 発動 discharge』
「ハァァァァァ……!」
ロウルフさんが、とてつもなく膨大な量の水流を流し続ける。
時間はかなりかかるし、エネルギーも大量に消耗する。しかし、それでもマグマノゲムには効果覿面のはずだ。
「よそ見してんじゃねぇよ!!」
「うぁッ!」
一瞬目を反らした隙にバッドのダガーがホタブレードの刃を滑らせ、俺の腹を切りつけた。
「くッ……! なんで……なんでそうどいつもこいつも……!!」
うつ伏せに倒れ、動けないまま前を見る。バッドはそのままロウルフに向かって走った。
「邪魔だァ!」
「ぐッ!」
バッドはロウルフの背中を斬りつける。ロウルフは倒れ、それを横目に、バッドはチェンジャーにキーを挿入した。
『final! big tornado attack』
バッドは目にも止まらぬ速さで高速回転、まるで大きな竜巻となり、そのままノゲムの方へと突進していった。
「マガァァァー!!」
ロウルフのディスチャージで弱っていたのもあってか、マグマノゲムはその大きな竜巻に巻き込まれ、溶岩の体は散り散りになり、跡形もなく消えていった。
竜巻は上に跳ねると、すぐにバッドの姿に戻り、着地した。
「よぉ~し」
バッドは両手をブラブラと振りながら、立っていた。
「お前……いい加減にしろよ……」
倒れていたロウルフが、ディスチャージで消耗した残り少ない力を振り絞り、立ち上がった。
「ん? なにぃ? お前も俺に殺されたいのか?」
バッドが不適な笑い声を上げながらロウルフに近づく。
「大空さん大丈夫ですか……? 俺も……戦います……こいつを……放っておくわけにはいかない」
オレンジ色の空が広がるなか、俺とロウルフは肩を支え合いながら立ち上がった。
教室には田上さんと中野さんが来ていた。たつやを守るように手を広げている。
「フンッ、あっそ。じゃあお前らも殺しちゃうね」
「その前にさぁー……僕と遊ぼうよぉ~……」
突然、聞き覚えのある、加工した掠れた声が聞こえる。
「あぁん?」
バッドが後ろを振り向くと、そこにはイージスがいた。黒いフードを被り、白い仮面を着けた、気味の悪い姿だ。
「あんたを今から拘束する。なんでかは分かるよね? 大人しくチェンジャーを寄越せば、手荒な真似はしないよ?」
「ざけんじゃねぇよ……俺に何度も付きまといやがって……今日こそは殺してやるぜェ?」
バッドはイージスに向かって走り出す。
「ふぅーん……やっぱ無理かぁー」
イージスはそう呟くと、チェンジャーとキーを取り出した。
「get rid♪」
『change Getrider Aegis Union Swordshield』
ボディに盾を装備し、頭が剣のようにとがった奇怪な形をしたノゲムがイージスに融合する。
「うぉぉぉ!」
変身中であることもお構いなしにバッドは斬りかかるも、イージスの変身は直前に完了し、バッドの攻撃を真正面から受ける。
今のイージスは防御に特化した、ディフェンススタイルだ。普通の攻撃じゃあ効くわけがない。
案の定、攻撃は確実に命中したが、キィンという高い金属音が鳴るだけで、イージスはびくともしない。
「オラッ! オラッ」
対するバッドは気にせず、連続で攻撃を当てるが、依然としてイージスは余裕の態度だ。
「ほらさ、あんた僕に勝てるわけないんだからー、大人しくしなよ」
「黙れぇ! 誰がこの力を渡すかッ!」
バッドは攻撃を加速させる。
キンキンキン、と耳障りな金属音が甲高く聞こえる中、イージスはため息を吐いた。
「はぁ……じゃー、仕方ないか」
イージスはチェンジャーにキーを挿入する。
『attack skill 発動 Style change』
イージスの形態が変わり、一つ目の不気味な姿になる。
俺はこの姿を見たことがある。
「バッド逃げろ!」
俺は咄嗟に叫んだが、遅かった。
「よいしょッ よいしょッ よいしょッ!」
イージスは素早くバッドに膝蹴りを連発し、バッドの肩を持ったまま回って俺たちに背を向け、バッドを後方に蹴り飛ばした。
「うぁぁぁぁ!」
バッドは苦しそうな声を上げながら、まるで人形のように軽く吹き飛んだ。
俺の前にはイージスを挟んで、バッドのボロボロな姿が見える。
『weapon 転送 Largesworshield』
イージスは自らの身長ほどはある大剣を召還し、バッドに近づく。
「うぅ……」
バッドはボロボロになりながらも後退りをする。
「じゃあ今から死んでもらうねー」
イージスは剣を引きずりながら、まるで作業のように言う。
「い、嫌だ…… わ、分かった! チェンジャーはやるよっ! 俺も大人しくする……だからっ!」
「えーーーー? もー遅いよぉ~…… うーん……いや、大丈夫! 意外とそんなに痛くないから!」
イージスはおちょくるように言うと、バッドの首を強く掴み、頭上に上げた。
「ぐっ……!」
バッドは苦しそうにじたばたするが、イージスは手を緩めない。
「ぅぅ……た、たすけてっ…… 俺はまだ、死にたくないっ……!」
声を聞いただけでも、バッドが泣いているのが分かる。
「もう止めろ! そいつはもう抵抗していない!」
ロウルフが声を上げる。
「じゃましないでよ」
『support 発動 Minislave』
ロウルフの忠告も軽くあしらい、イージスは十数体の小さなロボットを召還。たちまちそのロボットがイージスとバッドを大きく囲い、ドーム状のバリアを貼った。
「くそッ……!」
ガァァン……
ロウルフはソードフィッシュホーンでバリアを突くが、簡単に弾かれる。
田上さんと中野さんも教室から駆け寄ろうとするが、やはりバリアは破れない。
やばい、このままではあいつが……
『final! Pick to hell』
イージスがファイナルスキルを発動した。イージスの体中からどす黒いオーラが浮かび上がり、そのオーラは徐々にバッドの体に乗り移っていく。
バッドの背後にはブラックホールのような、黒く大きな穴が出現した。
「うぁぁッ! うぁぁッ! うぁぁぁぁぁぁッ!!」
「大丈夫だよぉ~~、一瞬で楽になれるからねぇー!」
バッドは一定のリズムで激しい痙攣を繰り返し、やがて力尽き、手足がプランと垂れ下がった。
「あんたの地獄、ここに決ぃ~めたッ!」
イージスは持っている大剣を振り上げた。
「止めろぉぉぉぉ!」
俺は叫んだ。目の前で淡々と殺人を犯そうとするゲットリッダーに激しく怒りをぶつけながらも、俺は絶叫することしかできない。
俺の目の前で、バッドは解体されるように、手足、首をイージスに斬り落とされる。ほんの数秒の出来事であったが、俺にとってそれはとても長く、地獄のような時間だった。
宙にバッドの首、足、腕、胴体がバラバラに舞い、一瞬にしてブラックホールに吸い込まれた。
赤く黒い血が大量に飛び、地面、教室の窓、イージスを囲む薄いバリアに飛び散った。
その瞬間を、俺たちはただただ見ることしかできなかった。地獄を目の前に、何もできなかった。
やがてブラックホールは徐々に小さくなり、すぐに消えた。
バリアも消え、小さなロボットの集団はイージスの周りに集まる。
「よし、じゃああんたたちは窓。それとあんたたちは地面でー、あんたとあんたは僕の体を拭くように」
イージスはロボットたちに小さい布を渡しながら淡々と指示し周りに散らばる血痕を掃除させた。
「おい……お前、なにやってる……」
バリアが消え、ベランダに駆けつけた田上さんが歯を食い縛り、イージスに問いかける。
「ん? 何ってー……掃除だけど? ほら、良く言うじゃん? 来たときよりも美しくって」
「そういうことじゃねぇよ! 何平然と人殺してんだつってんだよ!!」
田上さんは顔に血管が浮き出るぐらいの怒りを見せる。
「あのねぇー、僕だって好きでやってる訳じゃないんだよー? 本来の仕事とは違うし、人斬る感触はとーっても気持ち悪いし、こうして掃除もしないといけないし」
「なんで殺すんだよッ! アイツを拘束すればいい話だっただろうがッ!!」
「ん……? あそっか! 言ってなかったっけ? アイツ、ゲットリッダーの力を使って野良犬や野良猫の首斬って殺してたんだよ。警察が認知してるだけでも4件あるけどー、もしかしたらもっとしてるかも」
「あの……斬首事件が……?」
中野さんが呟く。
田上さんたちからは聞いていた。火事の他にも動物が殺される事件があったと。
「だからって、まだ人を殺しちゃいねぇだろ! そいつは俺たち警察が逮捕すれば...」
「プハッ! えっ、うそ…… 警察が? 逮捕? ゲットリッダーを? そんなのできるわけなくない?」
イージスがケタケタと、田上さんを嘲笑う。
「なにィ?」
「あのねおじさん、僕たちゲットリッダーは大きな力をもってるよね? その力はこの地球で生きる人間をノゲムから守るためにある。でもそんなゲットリッダー自身が、力の使い方を間違え、この世界に生きる命を消しているのなら直ちに止めさせなくちゃいけないでしょ? あいつはまだ動物しか殺してなかったけど、その行為がいずれエスカレートしたら、そりぁーもういつ人間を殺し始めるか分からないわけ。あんたらと違って何か起こってから行動するわけにはいかないんだよね」
イージスは笑いながら答える。
「それと、おまけにこっちが二度忠告しても聞かない。二度もだよ? そんなヤツ殺すしかないっしょ?」
イージスが軽い調子で淡々と話す。
田上さんはイージスの奇怪さに唖然としている。
こいつは完全におかしい。どんな理由があっても人を、しかもあんな残酷な方法で殺すなんて……絶対許さない……
俺の頭には怒りしか湧いてこなかった。
「ふざけるなァ! どんなに御託を並べたって、人を殺していい理由なんてないッ! お前なんてもう人間じゃないッ!」
俺は叫んだ。涙を流しながら、喉が枯れるほど。
「フッ、別に僕も今更人間であろうだなんて思ってないよ。僕はただ、普通にノゲムを倒して人を守るゲットリッダーがいればいいなって思ってるだけだよ?」
ロボットの清掃が終わり、イージスは俺たちから背を向けて歩き出す。
「ごめんだけど、そろそろ時間だからこの辺で失礼するよ? また今度会ったらよろしくね~ あ、くれぐれも僕の邪魔はしないように……邪魔したらぁー……」
イージスは振り向き、親指で首を切る仕草をする。
「これだから♪ んじゃあよろしくっ!」
フゥッ……
イージスはベランダから飛び降りた。
田上さんと中野さんは走り出し、地面を覗きにいくが、イージスはいなかったのか、二人は地面を見たまま呆然と立ち尽くしていた。
俺たちは何もすることができなかった。
何もできないまま、2人の人間を救えなかった。
俺にはとっくに立ち上がれる力があったが、足がひどく震えて、そのまま立つことさえできなかった。




