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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第7話 [クズは死なないと治らないのかな。]
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燃やしてやる

 俺は両親に虐待されていた。

 理由は分からない。顔が良くないからか? 頭が悪いからか? 人間としての良いところが何もないからか? やっぱり分からない。心当たりがありすぎてどれが理由か分からない。いや、その全てが理由なのだろう。


 1日中飯が出ないなんてことは当たり前だった。ひたすら食器洗い、洗濯、風呂洗い、掃除などをさせられていた。まるで奴隷のような扱いだった。

 虐待が始まったのは小学生になり始めた頃だった。俺が二つ上の兄に反して落ちこぼれであることが判明し初めてから、家族の俺への態度が徐々に人に対する扱いではなくなっていった。

 初めの頃は逃げようと思っていた。担任の教師にも話したし、当時の友達にも話した。しかし、そんな行動が無駄であったということはすぐに分かった。


 俺の父は日本で有名な国会議員だ。この地域では有名な人格者ということになっている。当然大人は俺の言うことを信じることはなく、なんなら俺を嘘つき呼ばわりし、自分の子供を俺に近づかせなかったり、まるでもともと子どもが兄1人しかいなかったかのように、俺を除け者にした。両親からの俺の扱いも年々悪化していった。


 やがて家にペットが来た。当時兄が欲しがり、親がプレゼントしたものだ。片手で持てるほどの小ささで、キレイな黄金色の毛並みをした犬だ。兄はもちろん、両親もそいつを可愛がった。

 この犬が現れて、もともと低かった俺の地位がより低くなった。俺はこの犬を憎んだ。

 もしかしたら、こいつが死ねば、家族は俺に目を向けてくれるかもしれない。いつしかそう思うようになった。


 そんな日常が続き、俺が15歳、普通で言うと中学3年生の頃であるが、俺は学校に行くことすら許されなくなっていた。そんなとき、()()()がやって来た。


「これを使って、君の恨むやつらを焼き殺しなよ」


 あいつはそう言った。

 もちろん俺は今まで、何度もあの犬を殺そうと考えた。家族を殺そうとも。

 しかしそんな考えが出てきても、それはすぐに消えていた。失敗したら確実に刑務所行きだし、例えバレずに家族を殺しても、俺を大切にしてくれる人はいない。状況は何も良くならない。

 だがこの力を使えばどうだ。自分の手を汚さずとも、やり様によっては、俺は確実に奴隷から普通の人間へと戻ることができる。


 俺はこのノゲムの力を使って、まずは家を焼き、犬だけを殺した。それでも家族は殺さなかった。むしろ、俺が助けてみせた。

 家族が寝ていたところに、ノゲムを使って火をつけた。次に、燃え広がり方から救出時間を考え、まずは親を、次に兄を救出した。バレないように、俺は死なない程度に煙を吸って、自分も被害者であると思わせた。

 計画はおもしろいぐらいに、完璧に成功した。俺は家族を救った英雄として、世間から認められるようになり、学校にも行けるようになった。もちろんそれでも家族からの俺の態度は変わらなかったが、それでもよかった。


 次に俺は家族を焼き殺した。兄の誕生日、父親は定時で帰り、兄も部活を休んで家にいた。俺は学校に残って勉強している間、ノゲムを使役し、家を燃やした。

 ノゲムの炎は、犬を燃やしたそれよりも強力にした。火は急速に燃え広がり、家族全員逃げきれなかったようだ。


 後日、俺は親戚と共に葬儀に参列した。ちゃんと涙を流せるか不安であったが、不思議とすぐに涙は流れた。自然と、面白いぐらい大量に涙がでた。




 参列者はみな、口を揃えて言っていた。

 「お父さん、お母さん、お兄さんのためにも、あなたは生きていくのよ」と。

 そのとき、俺は泣きながら、心のなかではとても嬉しかった。誰かに褒めてもらえるなんていつぶりだろうか。俺もガキのころは親に褒められていたのだろうか……と。

 いや、そんなことはどうでもいい。家族はもういない。そして俺にはこの力がある。命を一瞬にして消せるこの力が。


 その後、俺は少しの間大人しくしていたが、次第に我慢することに耐えられなくなっていった。

 せっかく力があるんだ。使わなければ勿体ない。


 そこで俺は最初に殺した犬のように、人が愛する動物を殺すようになった。理由は自分でも分からない。町でペットといる人間を見ると、無性にそれを壊したくなるんだ。

 次第に事件は大きく扱われるようになっていった。俺と同じように、ヤツから力を授かったのか、ソイツが起こした誘拐事件が明るみになったせいで、俺もゲットリッダーから目をつけられるようになった。

 それでも俺は焦ってない。なんなら高揚感すらあった。


 お前らにこの俺が捕まえられるか。俺を止めることができるか。


 どんどん気分が乗り、俺は犯行予告をし、人間を焼いた。もうちょっとで殺せるところであったが、十分満足だった。







トントントン……


「来たぞ」


 教室には30代ぐらいの男と、5歳か6歳ぐらいの小さいガキが来た。


「犯人はどいつだ、教えろ」


「それなんですけど、旬が全然教えてくれなくて……」


「大空さん、たつやくん、来てくれてありがとうございます」


 炭岡旬が男とガキに礼を言う。


「では早速…… みなさん、今回この地域でペット焼死事件を繰り返し、そして今日、洋くんを殺そうとした犯人が、たった今分かりました。」


 炭岡は咳払いし、そう言った。

 俺の心臓の鼓動が速くなるのが分かる。こいつらに分かってたまるか。ここで止まるわけにはいかない。


「犯人は……あなたです! 久住浩也くん!」


 炭岡が指を指した。

 俺の顔が熱くなる。


「は……? なんで俺なんだよ! ふざけんな! どんな根拠があって……」


「浩也くん、さっき大翔くんに言ったよね? 『あんたがノゲムを逃がしたからこんなことになったんだ』って。それってどこで知ったんだっけ?」


 炭岡が余裕そうな顔で聞く。次第に怒りが溢れてくる。


「だからニュースだって! 朝やってただろ?」


「おかしいですねー…… 確かに昨日、50代女性の飼い犬がノゲムに焼かれたとの報道はありましたが……」


「あぁ、だからそれで……」


「『そこにゲットリッダー・ノーマがいた』なんてことは報道されてないんですよ」


 炭岡が硬い目をする。


「前から『ノゲムが逃亡した』なんていう報道は度々ありますが、普通はその現場にいたゲットリッダーが誰かなんてことは公表されないんです。当たり前ですよね? ノゲムを逃がした人の名前が公表なんてされてしまえば、その人への批判や誹謗中傷が殺到してしまう。ゲットリッダーの名誉のため、報道では名前の特定ができないようになっているんです」


 炭岡は見透かしたような目をする。

 なんだこいつは…… 俺をなめているのか……? ふざけるな……


「そんな情報を知っているのは大翔くんと、大翔くんから話を聞いていた僕たち捜査協力者と、マグマノゲムを使役した犯人……そう、イージスだけなんです!」


 炭岡が得意気な顔で話し続ける。

 俺のこいつに対する怒りのボルテージは、今にも頂点に達してしまいそうになる。


「浩也くんは……いやイージスは、今まで正陰コーポレーションからキーを奪い、次々と事件を起こしていた。おそらく先日のヒューマンノゲムの事件で隼瀬にキーを提供したのもあなたでしょう。まあ目的は分かりませんが、昨日、ノゲムを倒そうとする大翔くんを邪魔したのが、動かぬ証拠です。そしてあなたは……」


「炭岡くん」


 さっきから後ろで黙っている小太りの男が口を開いた。


「あ、はい、なんでしょう?」


「黙って聞いていれば炭岡くん、君は見当違いの推理をしている」


「え?」


「潮田くんも言っていたじゃないか。あの現場にいたのは潮田くんとイージスだけではない」


 潮田とかいう男が何かに気づいたようだった。


「そうだ、あのバッドとかいうやつだ!」


 やっと気づいたか。

 さっきの怒りから一転、俺は思わず出る笑みを手で一生懸命隠していた。


「え……でもだとしたら、バッドの変身者とイージスがこのクラスにいるってことに……」


「グフッ……」


 ダメだ。笑いが抑えられない……


「ウァッハッハッハッ! クッフッフッフッ……」


 俺が笑う姿を教室にいる全員が凍りつくように見ている。


「ちょっと谷山(たにやま)くん……いきなり何を笑って……」


 クラスの女子が俺を止めようとするが、もう遅い。


「ゲットリッダーも警察も探偵も炭岡旬も! 対したことねぇなぁ……」


 俺は久住を指差す。


「こんな平気でボロを出すようなヤツが! あんな完璧な放火、できるわけないだろぉ!」


「まさか、(あつし)くん……あなたが……」


「黙れヘボくそ人間! ……あぁ? イージスってやつがなんだって? ふざけるなァ! 今までの放火事件は全部ッ! 俺がァ! 俺のノゲムを使ってやったことだ!」


 俺の叫びにみんなが凍りつく。鳩が豆鉄砲を食ったような顔がとても愉快に思えてくる。

 そうだ。俺はこの顔が見たかった。俺はバレることを恐れていなかったんだ。俺は俺をバカにしてきた人間のこの愚かな表情を見るのが楽しみだったんだ。


 やっと気づけた。こんな感情初めてだ。

 

 そろそろ夕日が見え始める。

 この興奮がいつまでも続けばと、俺は俺を救ってくれたあの炎を思い浮かべ、夕日をそれに重ねながらぼんやりと考えていた。

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