緊急事態のときは頭が回らないものだな。 ー潮田大翔ー
「だからぁ~、令状がなくっちゃ行動することはできませんって~」
「近頃ここらへんで放火事件が起きてるんです。この学校の生徒が焼け死んでもいいんですか?」
「そう言われましてもー、3年生は今受験を控えていて、大事な時期なんです。これでイタズラだったら、どう責任をとってくれるんですか?」
「はァ? ここにきて受験勉強だとォ? 勉強なんて後でいくらでもできるだろうが! 今何かあってからじゃ遅いんだよ!」
岩本中学の職員室にて、校長先生と田上さんが言い合いをしている。
他の教師たちはその様子を不思議そうに見ている。
「大翔! あれ!」
麗華が俺に話しかけ、室内にあるテレビの方向を指差す。
『昨夜未明、警察病院にて治療を受けていた隼瀬慎也容疑者が失踪しました。隼瀬容疑者は詩日都公園連続拉致殺人事件の被疑者であり……』
「はぁ? 隼瀬が失踪? どういうことだよ……」
もうめちゃくちゃだ。隼瀬はどうやって脱け出せたんだ? 警察病院なら警備も厳重なはずなのに……
いや、今はそっちを考えても仕方がない。これから起きるかもしれない放火事件を解決しないと……
「SNSでのたった一つの投稿だけで、数百人の生徒を混乱させるわけにはいかないでしょう!」
「うるせぇなァッ! 警察の俺が避難させろっつってんだから避難させろやァッ!!」
「田上さんッ!」
依然として、校長と田上さんは言い争っている。荒ぶる田上さんを中野さんが必死に止めていた。
これじゃあ埒が明かない。今、こうしているときにも犯人が……
「校長先生! 3年2組の中本の体が燃えているとの連絡が!!」
内線電話の受話器を持った女性教師が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「なっ!?」
校長先生は目を大きく見開き、戸惑う。田上さんは中野さんの制止を振りほどき、校長先生の胸ぐらを掴む。
「言わんこっちゃない!」
田上さんは校長先生を突き飛ばし、すぐに職員室を飛び出した。
俺たちも後を追おうとする。
「大空さん、たつやくん、あなたたちはとりあえずこの職員室にいてください。これがおとりだった場合を考えて、念のためここで!」
旬が指示を出す。
「そうだな、分かった」
「ふざけるな! おれもいく!」
走ろうとするたつやを掴む大空さんを背に、俺たちは教室に向かって走り出した。
階段を駆け上がり、3階に着く。野次馬のように集まっている大勢の生徒の波を掻き分け、俺たちは進んでいった。
「うわぁぁぁぁぁ!! 助けてぇっ! 助けてぇぇぇぇ!!」
教室に着くと、炎の塊が室内を動き回っていて、周りの生徒はそんな塊から逃げ回っていた。
その塊が燃えている生徒であることに気付いた俺は、チェンジャーとキーを取り出す。
「get rid!!」
『change Getrider Norma Union Scallopsracco』
室内を見渡すが、昨日のノゲムは見当たらない。
田上さんたちが生徒たちを教室の端に寄せる。
俺は生徒らの前に立ち、スキルキーを発動させた。
『attack skill 発動 Play the water』
俺が手をかざすと、男の子の体にはシャワーのように水が被せられる。
「うぁぁぁ! うぁぁ、うぁぁ……」
火はすぐに小さくなり、やがて完全に消えた。途端、男の子は意識を失い倒れた。
男の子の服はボロボロで、火傷の跡は全身のいたるところに残っている。
「中野! 救急車を呼べ!」
「は、はい!」
田上さんが中野さんに指示する。
保健室の先生たちだろうか、白衣を着た2人の人が担架を持って入ってきて、倒れている男の子の容態を確認している。幸い息はしているようで、男の子の胸はわずかだが上下に動いている。
2人は厚い手袋をはめた後、男の子の体を担架に乗せた。2人は担架を持ち上げ、教室を出ようとする。
が、なんだろう、何か分からないが、俺は目の前の光景に強い違和感を感じた。
「行きましょう!」
2人が教室を出ようとする。中野さんがドアに駆け寄り、閉まっているドアを開けようとするが、様子がおかしい。
「ドアが開きません!」
「なにィ? どういうことだッ!?」
田上さんが慌て始める。
「ドアの鍵がかかっていて、内側からのレバーも削られてます! これじゃあ出ることができません!」
「ふざけるな! そんなことあるはずが……」
田上さんがドアに近づく。俺たちも駆け寄り、ドアの鍵を見る。
が、状態は中野さんの言う通りであった。
鍵はかかっており、内側から解除するレバーの部分が丸々破損している。
反対側のドアも見たが同じだった。
そうか、さっきから感じていた違和感がなんなのか、やっと分かった。
教室のドアだ。俺たちが来たときにはドアは閉まっていなかった。よく見ていなかったが、この緊急事態に保健室の先生たちが教室に入ってからドアを閉めるなんてことはしないはず。いずれ出るからだ。それなのにドアは閉まっている。鍵が壊れている。
なぜこんなことが起きている? 俺たちは、2人が男の子を担架に乗せることに注目しすぎて、誰かがドアに細工するのに気づけなかった? そんなことがあるのか? でもそうだとしたら、ドアを閉め、レバーを破損させたのは……
「よし……こうなったら、ガラスを割るしかない!」
田上さんは近くのイスを持ち上げ、ドアの小窓を叩き割った。そのまま黒板の横にかけてある鍵を取り、割れた小窓から手を回してドアを開ける。
ドアが開き、そのまま男の子は運ばれていった。田上さんもその後に続く。
なんとか最悪の事態は免れたようだった。一難去って安堵したのか、教室中はより一層騒がしくなった。泣いている子もいる。
「えー、ではー! みなさんは、直ちにここを出て、事情をうかがいますのでー! 僕の指示に従ってくださーいっ!」
中野さんは騒がしい声に負けぬよう、大きな声で指示を出す。
「ちょっと待ってくださいっ!!」
が、そのとき、旬がより大きい声で中野さんの指示を遮った。その声に生徒たちは驚いたのか、室内は急激に静まりかえった。
少し間が空いた後、旬は落ち着いた声で話し始めた。
「このドアのレバーを壊した人が放火事件の犯人として……だとすれば、犯人はまだこの中にいます。ここのみんなを教室から出させるのはやめたほうがいいかと……僕は思います……」
また少し、教室が騒がしくなった。
「この混乱の中です。誰が今この教室にいたか、誰がどんなことをしたか……すぐに話を聴かないと、情報があやふやになってしまう……」
「いやでも……」
「それに、まだここを包囲しきってない状態だと、事情聴取までの間に犯人が逃げ出してしまう可能性がある……」
そうか……確かに、旬の言う通りだ。しかし、だとすると……
「ちょっとスミちゃん! 私たちの中に犯人がいるって……!」
一人の女子生徒の声を初め、騒がしい声がたちまち大きくなっていく。
「旬くん……」
この混乱の中気づかなかったが、よく見ると教室の端に愛生ちゃんがいた。多くの生徒の反感を買う旬の姿を見て悲しんでいる様子だ。
「おい旬! 俺はずっとここにいたから何もしていないぞ!」
「気づいたら中本が燃えていたんだ!」
「いいから早くここから出してよっ!」
反発の声はますます大きくなり、騒がしくなる。
「お願いだから僕に従ってくださいっ!!」
旬の叫び声で、騒がしい声がまた止んだ。
「これはノゲムによる事件の可能性が高いんですっ! ここで犯人を逃したら、また被害者が出てくるかもしれないっ……! みんなのためにも! 今この瞬間に、犯人を突き止めなきゃいけないんですっ!」
旬は息を荒げながらも、大声でゆっくりと、みんなに訴えかけた。
犯人が、この中にいる? だとしたら、犯人は中学生? 今回の事件の犯人がイージスだとしたら、イージスがこの中に?
今事情聴取をして、本当に犯人が分かるのか? 事件を解決できるのか?
俺には分からない。でも旬ならきっと犯人を、イージスの正体を、突き止められるのかもしれない。
俺は旬の判断を信じることにした。
かくして旬の提案をきっかけに、俺たちによる、“犯人探し”が始まった。
今は、今だけは……旬を信じるしかない。
ー続ー
読んでいただき、ありがとうございます。
果たして、連続放火事件の犯人は誰なのか? 物語第7話に続きます。
次回、旬がイージスの正体を暴く!?
ご期待ください!!




