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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第1話 [男なら、誰もがヒーローになりたいと思ったことあると思うけど、実際なったらなったで大変そうだよね。]
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非常事態 ー若美佑月ー

ガラガラガラ……


 私の引く大きなキャリーバッグは、でこぼことしたアスファルトの上、前後上下に激しく揺れながら大きく騒がしい音を立てている。

 このキャリーバッグの中身には1機の「ゲットリッドチェンジャー」がある。ゲットリッドチェンジャーとはすなわち、ゲットリッダーに変身するための装置である。装着者はこれを腰に付け、“キー”を挿入、回すことでゲットリッダーへの変身を可能にする。

 私は先程まで、これを取引先に運ぶつもりで歩いていた。


「ノゲムだぁーー!! みんなにげろぉーー!」

「ほらっ、早くいくよっ!」

「一番近い避難所はあっちだっ!!」


 しかしそんな中、付近の公園にて、ノゲムは突然現れた。公園に沿った歩道を逃げる、溢れるほど多くの人々を私は掻き分けながら、社長に電話をおかけする。


『もしもし、若美くん、どうしたのかね?』


「申し訳ありません、社長。目的地への道中付近でノゲムが出現しまして、少々遅れてしまいます」


『いいんだ若美くん、安全第一で来たまえ。ところで、その現場はどこかね?』


「うぇぇぇんっ……!」

「大丈夫! すぐ治るからっ、早く逃げるよ!」


 すぐそばには、膝を擦りむいて泣いている少女が(うずくま)っている。母親だろうか。成人女性が少女の体を持ち上げようとしている。


世田輪(せたがわ)区の詞日都公園です。もう既に怪我人がいるようですが、付近のゲットリッダーはいつ……」


『あっ、そこってさー「シーシャイン」ってやつが失踪したところだよねぇー?』


 社長とは別の、憎たらしく生意気な人間の声が聞こえる。普段、会社に呼んでも来ないような彼が、こういうときに限って社長のもとにいるのは極めて不愉快だ。

 私は彼の存在を嫌々思いながらも仕方なく問いに答えた。


「はい、そうです……」


『若美くん、今確認したところ、少なくとも5分はかかるらしい』


 社長が私の問いに答えた。


「ですが……それではとても間に合いません」


 現在でもけが人が多数いるとみられ、現場は混乱状態だ。5分も経過しないうちに、死人がでるのは確実である。


『じゃあそん中から新しいゲットリッダー選んじゃえば? あんた、変身装置の一式持ってんでしょ?』


 思いがけない言葉が生意気な彼から聞こえた。そんなことは絶対にできない。

 通常、ゲットリッダーになる者は筆記テストや実技試験など、厳正な判断の上で決めなくてはいけない。試験をせずにいきなり現場でゲットリッダーが戦闘をするなど、過去に一例しかない。その一例もかなり特殊な例であり、今の状況にこの方法が最適であるとはどうしても思えない。


「何を言っているのですかっ!? そんな非常識なこと……」


『いや、それは良いアイデアかもしれない! テストをせずに選ぶのは危険であるが、時間稼ぎにはなるだろう。それに、自らゲットリッダーを志願していない者が突然力を与えられたらどうなるか、単純に興味がある。若美くん! テレビ通話にしてくれ!』


 いつにない、社長の興奮を隠せないような声が聞こえる。


「っ……! わ、分かりました……」


 社長のお言葉に驚きを隠せないが、社長がおっしゃるのなら仕方がない。


 私は端末をビデオ通話に切り替えながらも、現場へと走った。そこにはうつぶせで倒れている男性と、その腕を引っ張って避難しようとしている女性が見える。


『あ、その人にしようよ! なんかキー持ってるし』


 相変わらず生意気な声が、生意気にも私に指示を出した。

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