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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第6話 [動物は大切にしないとな。]
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嫌い

 俺は中学生が嫌いだ。

 小学生の頃のかわいさがなく、高校生のような落ち着きがない。

 中途半端な下ネタでガハガハ笑い合う男、中途半端な芸能評論に花を咲かせる女。

 みんな嫌いだ。


 岩本(いわもと)中学校。特にここはそういうバカが多い学校だ。ここにいる全員が短絡的なやつばかり。

 悪いのは生徒だけじゃない。学校自体がクソだ。夏休みだというのに、補講という悪しき習慣によって学校に行かされる。これじゃあ普通の平日ではないか。本当に気持ちが悪い。


 廊下を走り回るバカ、教室の地べたに座り、人の歩行を邪魔するバカ、耳障りな高い声でギャーギャー騒ぐバカ。

 この教室、いや、この学校の人間全員を、今すぐ俺の力で壊したい。そんな衝動が俺に降りかかる。


「ねぇねぇ…… あ、ごめん! 今日もぉ……席譲ってくれるかな?」


 俺の肩を叩き、ブッサイクな女が席を譲れと言う。息がとてつもなく臭い。


「あぁ、ごめん」


 俺は、机にあった教科書、ノート、ワークをしまい、弁当を持ち上げ、席を離れる。

 女は「ありがとう」とだけ言い、近くの女子3人と机をくっつけて喋りだした。

 俺は、どこで弁当を食べようかと考えるが、嫌でもそいつらの話が耳に入る。


「ねぇねぇ真弓(まゆみ)、今日さぁ、()()()()()スミちゃん休みじゃん? 休みの理由って分かる?」


「え? あー、スミちゃん成績良いから、特別に補講免除になってるんだって。ほんとは1、2年のときから免除されててー、それでも出席はしてたんだけどねー。今日はー……んー、なんか予定あんじゃない?」


「へぇー……なんかさぁ、スミちゃんいないとさぁ、ちょっとっていうか、だいぶさみしいよねー」


「分かるー、いつも騒ぐ男子たちをまとめて静かにしてくれるもんねー」


「ねぇー、ほんと寂しい~」


 女子達が、このクラスのまとめ役的な存在、炭岡旬の話をする。

 確かに、あいつは他のやつらと違って、周りを気にせず騒ぐことはしないし、バカとも上手く話せるから、めんどくさいトラブルもあまり起こさない。この学校の生徒にしてはまだマシなほうだ。しかし、そんなやつでも、俺にとって嫌いな人間の一人であることは間違いない。


 俺はとりあえずこの騒がしい場から離れようと、教室の出入り口へと向かう。

 ドアを開け、教室を出ようとすると、穏やかな匂いが漂い、俺の鼻を通る。なんというか、キレイな花の匂いというか、いつまでも嗅いでいたい匂いである。俺はこのいい匂いが誰のものなのかを知っている。


「あ、あの、炭岡旬くんいますか?」


 目の前にはこの学校の2年生、灰東愛生がいた。

 匂いと同様、いつまでも聞いていたい優しく気持ちの良い声が俺に話しかける。まだ成長しきっていないような、純粋であどけない顔と澄んだ声に、まるで時が止まったような感覚に陥る。


 俺は高まる気持ちを表へ出さぬよう、ゆっくりと息を整える。

 灰東はカラフルな色をした巾着袋を持っている。おそらく弁当箱が入っているのだろう。


「……?」


 灰東は目を丸くして俺の返答を待っている。

 「炭岡旬なら今日は休みだ」……このたった一言だ。これだけを言えば良いんだ。俺は言える。早く言わなければ……


「あぁー! 愛生ちゃん!」


 クラスの女子一人が灰東愛生に気づき、甲高い声を上げた。


「あ、こんにちは!」


()()()()今日いないけどさー、どうしたのぉー?」


 女はいきなり訳の分からないことを言う。灰東愛生に彼氏? なんのことだ? まさか……


「あー、やっぱりいないんですねー。朝起きたら、朝ごはんが置いてあるだけで、旬くんいなくって。一人で学校に来たんですけどー……って、旬くんは彼氏なんかじゃないですよー!」

 

 ん? 朝起きたらいなくて? どういうことだ? まるで一緒に住んでいるような言い方だが……


「もー……」


 灰東の眉は垂れ下がり、頬は赤い。少し困ったような顔だが……なぜだろうか、少し笑みが(こぼ)れている気がする。


「いやいや、一緒に住んでる時点で、もうそれ彼氏じゃん!」


「ち、違いますよっ! これにはわけがあって!」


「わーかったわかった、詳しい事情を聞くから、こっち来て私達と一緒に食べよ?」


「え、いいんですか? じゃあ……そうします……」


 灰東が女の誘いを受け入れる。

 女は、こっちこっちと灰東を手招きし、席の方へと歩く。


「あ、すみません。ありがとうございました」


 灰東は一瞬、女子のほうへ行きかけたが足を止め、こちらを振り返り、礼を言った。


 やはり灰東は違う。そこらの人間とは違う。俺にもちゃんと接してくれる。俺を毛嫌いする連中とは全く違う。

 俺は、クラスの女と親しげに話す灰東の笑顔を見ながら、それと同時に、炭岡旬に対しての嫌悪感を抱く。


 あの男、あんな好青年のふりして、灰東と一緒に住んでいるのか。

 なぜあいつが、、、?

 チビなのに。イケメンでもないのに。俺よりも()()のに……


 屈辱で、俺の顔が熱くなるのが分かる。


 俺はこの真っ赤な顔を周りに悟られぬよう、小走りでトイレへと向かった。




 いざとなれば、俺はあいつを殺せるんだ。あいつを殺せば、灰東は……

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