防御が必要だな。 ー潮田大翔ー
俺は走っていた。無我夢中で、余計なことは考えずに。
大学の正門が見えた。多くの職員らが一心不乱にノゲムから逃げ、正門から出ていく。
数羽の鷲型ノゲムが既に正門付近まで来ているのが、ここからも見える。
「大学から出すわけにはいかない……早くしないと…… get rid!」
俺は『ゲットリッダー・ノーマ』に変身した。
さすがはゲットリッダーのスーツ。変身前より足が2倍近く速くなった気がする。
スパン……! ボトッボトッ……
俺は正門に入ると同時にホタブレードを召喚、ノゲム2匹を斬る。2匹はそれぞれ分断され、道に落ちた。
俺の前には5階ほどある1号館があり、その奥からバタバタと騒がしい音が聞こえる。
「奥が現場か……! 早く行かないと!」
焦りながら走り出すもまたノゲムが、今度は1号館の横から、上からと湧いてくる。
「ハァッ!」
スパンッ!
俺は数匹のノゲムを斬る。がしかし、ノゲムは次々と湧き出てくる。
「何匹いるんだよ……! これじゃあ……」
諦めそうになりながら、迫ってくるノゲムを次々と倒していると背後からパタパタという音が聞こえてきた。ノゲムの羽音だ。
「ッ……!」
俺は後ろを振り向くが、既にノゲムの嘴は目の前に迫っていた。
『attack skill 発動 Shadow bullet』
ボンッ!
手遅れかと思ったそのとき、突然ノゲムが塵となって消滅した。
「救世主たんじょ~…… あ、おはよっ」
塵の奥から、ゲットリッダーの姿が見えた。昨日のアイツ、『ゲットリッダー・イージス』だ。
「お前……」
「しゃべってる暇ないんじゃない? ここは僕がちゃちゃっとやっちゃうからさ、早く奥行けば?」
イージスは正門に立ち、手で首を掻きながら言う。
「お前には聞きたいことがあるんだよっ! なんでこの事件を知っ……」
『attack skill 発動 Shadow bullet』
「うッ……!」
イージスが紫色の球体を俺に向かって出した。俺は反射的にしゃがむ。
ボンッ
後ろで爆発音が鳴った。見ると、さっきと同じように塵が舞っている。どうやらイージスは、俺の後ろにいたノゲムに攻撃したようだった。
「あとで答えてあげるからさ、早くいきな?」
イージスは首を曲げ、しっしっと手を払った。
「……チッ! ……言ったな! 教えろよ? 絶対だからな!」
仕方なく俺は方向転換し、奥の方へと走る。
バタバタバタバタバタッ……
1号館を抜けると、そこには数えきれないほどのノゲムが飛び回っていた。
「ガルァァ! ガルァァ!」
右にはティラノが、空を飛ぶノゲムを、乗り継ぎながら次々と倒している。
左の方を見ると、ロウルフが数人の盾となって、襲いかかるノゲムを次々と突き刺している。
まずは人命救助だ。俺はロウルフの方へ走った。
「大空さん! 遅くなりました!」
「しゃべってる暇はない! 手伝え!」
ロウルフが守っている人たちを見る。職員だろうか、血を流している女性がいた。ノゲムにつつかれたのか、スーツの上からところどころにその傷痕が見える。
「ハァッ!」
俺はロウルフさんと一緒に、向かってくるノゲムを倒していった。
「おらッ!」
スパン……!
ノゲムが俺達の間を抜けて女性職員の方へ行かないよう、無我夢中で俺は剣を振るった。
2人で対処したおかげか、少し経つと、襲ってくるノゲムも減ってきたように思える。
「もうそろそろ俺だけで充分そうだ。お前はあそこのヒューマンノゲムを何とかしろ!」
ロウルフは戦いながら、左の方を指差す。
見ると、鷲の人型のノゲムが数羽のノゲムと戦っていた。
「なぜこうなるッ……! どいつもこいつも……何故私の邪魔をォォォ!!」
ヒューマンノゲムが言う。
声だけでは分からないが、こいつが隼瀬であることはなんとなく分かった。
隼瀬が変貌したヒューマンノゲムの体はボロボロだった。もう既にノゲムに襲撃されていたのか、今にも死んでしまいなほど傷だらけだ。
「あいつが今ここで死ぬと、事件の詳細が分からなくなる! 死んで当然とは思うが、死なせて当然とは思えないッ……!」
「はい……! 分かりました!」
しょうがない。今は助けるしかない。
「クワァァァ!!」
俺はヒューマンノゲムに向かって走り出そうとした。しかしそこへ進むにもまた数羽のノゲムが目の前に出現する。
「くッ……!」
焦りながらも倒していくが、ノゲムもこちらに攻撃してくる。一つ一つの攻撃は大したダメージにはならないが、地味に蓄積されて、身体中が痛い。
そんな攻撃を受けつつもノゲムを斬っているとき、突然またあの加工したような声が聞こえた。
「おーーーい、ノーマーーー!」
声のするほうを見ると、白い不気味な仮面を付け、黒いパーカー姿の人物が1号館の屋上に立っていた。変身を解いたイージスだ。
なんで変身を解いてる? まさかもうノゲムを倒し終わったのか? あの量のノゲムを1人で、しかもこんな短時間で……?
「あんたさー、ポイント貯まってるんじゃなーい?」
その言葉を聞いて、はっとした。
そうだ、すっかり忘れていた。ノゲムを倒せば、ゲットリッダーにポイントが貯まっていく。そのポイントがスキルキーやウェポンキーと交換できることを、俺はもう既に知っている。
俺はゲットリッダーを始めて以来、そこそこの量のノゲムを倒してきた。そろそろ新しいキーを入手できるかもしれない。
「大空さん! ちょっとこいつらも対処してもらっていいですか!?」
「あぁ……? まあいい、早くしろ!」
俺は女性職員たちと同じようにロウルフの体を盾にして小さくしゃがみ、右腕のノゲム探知機のパネルをタップ、ポイントメニューを開いた。
この端末は、ノゲム探知機としてはもちろん、キーを転送する機能もある。
ピッピッ
今の俺のポイントは26だ。画面にはたくさんのキーがあるが……
「そうか……!」
どんなキーを使おうか悩んでいるとき、ふと昨日のことを思い出した。
ノゲムが出す強烈な炎の連撃を、イージスは盾を使って防いでいた。盾があれば、迫り来るノゲムを効率的に払い除けることができるだろう。
ピッ
あるキーを選択し、掌にキーが転送される。俺はそのキーをチェンジャーに挿した。
『weapon 転送 Hotate(ホ盾)』
すると、左手にまんまホタテの形をした、少し大きな皿ぐらいの大きさの盾、『ホ盾』が転送される。
「ほ、ホ盾…… まあいい……!」
そのネーミングセンスに疑問を持ちながら、俺はヒューマンノゲムの元へと走り出した。
「クワァァァ!!」
「ハァッ」
カァァァン! スパン!
俺は襲いかかるノゲムの攻撃を盾で防ぎながら、斬り続ける。
盾1つあるだけでも全然違う。ノゲムによる襲撃の中、俺はスムーズに進むことができた。
俺はヒューマンノゲムの側まで走り、それに群がるノゲムを斬って倒した。
「ハッ!」
ヒューマンノゲムの前に立ち、向かい来るノゲムを斬り続ける。
俺は、ノゲムの血で汚れた剣の力を感じながら、一心不乱に振り続けた。
「勝手なことを! 君が邪魔しなければ! こんなことにはならなかったんだっ!!」
ノゲムの攻撃が収まってきたとき、突然後ろから声がした。俺は振り向く。
ビュンッ
目の前には、ヒューマンノゲムの拳があった。しかしそのスピードは遅く、すぐに防御の姿勢をとることができた。
カァン……
俺はヒューマンノゲムのパンチを盾で防ぐ。力は弱く、ノゲムの攻撃なんかよりも衝撃が小さい。
ヒューマンノゲムの腕には羽があったのだろうか、ノゲムに襲われたせいかその身体はボロボロで、周囲には羽が散らばっていた。
『attack skill 発動 Swallow fight reversal』
「ハッ!」
この人に何を言っても意味がない。俺はつばめ返しでその身体を斬った。
「グァァァァァ……!!」
まだ完全に融合していなかったのか、ヒューマンノゲムは隼瀬の、人間の姿に戻り、そのまま気を失った。
「よかった…… あなたはここで死んじゃいけない……生きて、横常さんたち被害者の家族が……納得のいくような罰を受けてください」
俺は目の前で眠る犯罪者に語りかけた。
『attack skill 発動 Iron head butt』
「ガルァァァ!」
ふと振り返ると、ティラノが鉄のように固くなった頭で次々とノゲムに頭突きし、倒していた。
いつの間にか、辺りを飛ぶノゲムは見られなくなっている。今ティラノが倒したノゲムが、最後の一体だったようだ。
床には大量のノゲムの死骸が落ちていた。無我夢中で戦っていたから意識しなかったものの、その景色はなかなか残酷なもので、俺は思わず目を背けた。
「他に怪我しているところはないか?」
大空さんはノゲムに襲われた人達の手当てをしていて、女性職員の出血箇所を布で抑えていた。
「ッ……!」
俺は1号館の屋上を見る。イージスはいつの間にかいなくなっていた。アイツは何者なのか、なぜこの事件を知っていたのか。結局アイツは何も話さなかった。
その後、正陰コーボレーションの清掃班が到着し、その人達が戦いの後処理をしてくれた。
隼瀬は警察病院に連れていかれた。「怪我の状態が良くなり次第、聴取が行われる」と、現場に来た刑事さんは言っていた。
事件は解決した。いや、そんな言葉で片付けていいのか。
「一件落着、あぁ良かった」と、言えるわけがなかった。横常さんをはじめとした、“無理やりノゲムにされて亡くなっていった人たち”のことを考えれば、なんだか心のどこかがキリキリと痛むような、やるせない気持ちになった。
ゲットリッダーはただノゲムを倒すことしかできない。一度失われた命は、誰にも、どうすることもできない。それでも戦うしかない。自らの身をけずり、誰かが傷つかないようにノゲムを倒し続ける。それがヒーローというものなのだろう。それが「ゲットリッダーになる」ということなんだ。
俺は自ら進んだ道の役目を、より一層確かなものとして、自らの心に刻んだ。




