退屈な日々に突然くる"特別"は必ずしも良いこととは限らないんだよね。 ー潮田大翔ー
「で? ここの穴埋めの答えってなんだっけ?」
麗華は頬杖をしながら、俺の目を見て問いかける。
大学から少し離れた場所、詩日都公園。俺と麗華は、いつもはしない勉強をしていた。今日は7月14日。前期のテスト期間まであと1週間であり、いつもまじめに授業を受けていない俺たちにとって、今最もしなくてはいけないことはテスト勉強であった。
しかし、俺にはこんなプリントの穴埋めなんかよりも考えていることがあった。
横常さんの行方だ。7月あたまの、女の子にキャーキャー言われてる姿以来、俺はおろか、大学構内の学生、職員、みんな先輩の姿を見ていない。最初は単に授業をさぼっているのだと噂になっていただけだったが、この前期が終わろうとしている頃になっても大学に来ないとは、明らかにおかしい。もちろん、このご時世だ、ノゲム関連の失踪であることも予想できるが、都内で一番大きい大学の構内一人気者であるゲットリッダーが行方不明であるというのに、報道は一切ない。やはり、ただの失踪なのだろうか……?
横常さんとはあまり話したことはない。今回の騒動も、本当なら気にも止めないのが普通だ。しかしなぜか、どうにも今回のことが気になって仕方がない。噂によると横常さんが最後に目撃された場所はこの「詩日都公園」であるというのだが……
「ねぇ、聞いてる? さすがにそろそろ勉強しないと……」
「あぁ、ごめんごめん。で? どこの話……?」
「「「キャーーーーー!!!」」」
「……っ!」
プリントの方に目を向けたそのとき、多くの人の悲鳴が奥から聞こえた。ひどく騒がしく、なにやら胸騒ぎを起こさせるような危機感のある悲鳴。何が起こったかは分からないが、ただ事ではないということだけは分かった。
「グルルルルルゥゥゥ……」
俺たちが悲鳴の聞こえる方向を向くと、100メートル程先の木の陰から怪物がゆっくりと姿を表した。頭に5本の角らしきものがあり、身体中が灰色の鎧で覆われているように見える。
俺は、ノゲムを生で見たことがない。テレビではさんざん見ていたし、話もたくさん聞いたことはある。それでもこの凶悪な、刺々しい怪物を目の前にした俺は、身動きすらとれず、硬直状態になってしまう。
「大翔なにしてるのっ!? 早く逃げるよ!!」
俺は硬直状態から急に手を引っ張られ、足をつまずき、派手にころんだ。
「痛って! ちょっ、急に引っ張るなよぉ!」
麗華は勉強道具などは置いたまま、スマホとバッグだけを持ちながら、今繰り広げられる状況に焦りの表情を浮かべていた。
「今文句言ってる場合!? 早く逃げないと! 死んじゃうよ!?」
麗華の聞いたことのないような緊迫した声を聞いて、俺はやっとその体が動いたような気がした。近づいてくるノゲムから立ち去ろうと腰を上げたそのとき、俺の目には、何か金属の塊のようなものが落ちているのが見えた。
このような状況で、そんなもの気にしている暇はないのだろう。一刻も早くこの場から逃げ出さなければ、俺たちの命は危うい。しかし、何か引き付けられるような、俺に何かを求めているような、とにかくそんな不思議な力を、俺は目の前の物体から感じずにはいられなかった。