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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第5話 [前だけ見て進むのも難しいよね。]
37/76

言葉では言い表せない感情がある。 ー潮田大翔ー

 俺は暗闇の中、必死にノゲムたちと戦っていた。

 

 灰色で固い皮膚をもつノゲム、花びらが体中にあるノゲム、緑色をした大型のノゲム、大きい羽を持ち火球を出すノゲム。

 様々なノゲムがいるが、共通しているのは“みんな人型で知能がある”ということだ。


「はぁッ! はぁ! はぁ、はぁッ……」


 もうやめてくれ。俺は戦いたくない。


attack(アタック) skill(スキル) 発動 Swallow(スワロー) fight(ファイト) reversal(リバーサル)


 俺は4体のノゲムをまとめて斬った。

 周囲にはノゲムの死体が転がる。


「やっと終わった……もう疲れた……早くっ……早く帰りたい」

 

 俺はすぐにこの場から立ち去りたかった。

 

 俺は一歩二歩と歩みを進めていく。しかし、なぜかだんだんと足が重くなっていく。


「うっ……なんで……!」


 恐怖の感情が俺の心を覆っていく。

 俺は足元を見ずに、前だけを見て歩き続ける。




 どれぐらい歩いただろうか、足の重みは以前にも増して感じとれるようになり、遂には一歩も動けなくなった。

 両足を交互に、力一杯前に出そうとするも、すぐにバランスが崩れ、俺は前に倒れた。


「やめてくれ……俺がなにしたってんだよ……! 俺は……守りたかっただけだ……! 俺は……俺は!!」


 涙が流れる。うつぶせのまま、足元を見ずに力を入れる。しかし、体はびくとも動かない。


「ふざけるな……お前が俺たちを殺したんだ…… そんなお前が、前に進めるわけがない…… 進ませない……」


 聞いたことのある声が聞こえた。

 

 その瞬間、俺は足元を見た。


 そこには数百人の血だらけの人間がいた。その中には……

 横常さんの顔も見えた。








「あぁぁぁ!! はぁ、はぁ、はぁ……」


 その瞬間、目が覚めた。額には大量の、大粒の汗が流れている。

 今のは夢だったのか。

 一瞬安心したが、すぐにその夢があながち間違いでもないことが分かった。そばにある座卓には、さっきの夢で血だらけだった人たちの顔写真があった。

 外はもう暗い。


ドタドタ……


 今の俺の叫び声が聞こえたのか、奥からなにやら急いでいる様子の物音がする。


「どうしたッ!」


 大空さんだった。大空さんは目を大きくして、俺を見ている。どうやらここは大空さんの部屋らしい。

 だけど、何かがおかしい。なんだ……この違和感は……


「……」


 俺は部屋を見渡す。何というか、なんとなくだが、とても誰かが暮らしているとは思えないような部屋だ。

 人一人が住むにしても結構な狭さ。右も左も白い壁、すぐ後ろにはベランダの窓。こちらを見る大空さんの奥には、銀色の蛇口と一つのコンロ、白いまな板が見える。

 

「目が覚めただけか」


 最初は焦りの表情をしていた大空さんだったが、俺の顔を見てすぐに察したのか、いつも通りの冷静な顔になり、また奥の台所に戻っていった。


「すまない。現場に駆けつけたときにはお前が倒れていたからな、勝手に運ばせてもらった。テレビもなにもないが、ゆっくりしてろ」


 そうだ。ここの部屋にはなにもない。俺の横には小さな座卓、部屋の端には小さな木製のタンス、ベランダには洗濯機のようなモノ、今大空さんがいる狭い台所には電子レンジ、コンロの下には小さな冷蔵庫……生活するのに必要最低限の電化製品や家具こそあるが、テレビ、置物や本など、ありとあらゆる娯楽商品が何もない。


「あ、はい……」


 俺は部屋の様子に戸惑いながらも、相づちを打った。


「ちょっと待ってろ。少し質素だが、雑炊を作っている。これを食べたら、出ていくなりまた寝るなり好きにしていい」


 少し冷たいながらも、優しさのある声が狭い部屋に響く。

 ふと俺の体を見ると、体中には包帯や湿布が貼られていた。今思えば、起きたときに身体中が痛かった気がする。

 

 俺は、火を操るノゲムとの戦いで深い傷を負った。

 そして、あの“謎のゲットリッダー”に事件の真相を聞いた。俺は、知らないうちに3人の人を殺していたようだ。


 俺は強く拳を握りしめた。

 最初から何も変わっていない。自分の犯した罪も知らず、不穏なノゲムが出現しても自分から進んで調べもせず。いや分かっていたのかもしれない。分かっていながらも真実を知ることを恐れ、のうのうと生きていたんだ。


 絶望の淵に落ちたような気持ちになりながらも、ふと1つの疑問が思い浮かんだ。


「あの、大空さん……俺に聞かないんですか? なんであの場で倒れていたのかとか、現場で何が起こったのかとか、この写真は何なのかとか……」

 

 俺は、テーブルの上にある写真を指差しながら、台所に向けて問いかけた。

 茶碗1つとスプーンを持った大空さんがやってくる。


「もちろん最初は聞きたかったがー……お前の、目覚めた瞬間の叫び声を聞いたとき、無理に話を聞くのもどうかと思った…… はい、雑炊だ」


 大空さんはテーブルの上の写真を手に取り、その代わりに雑炊をおく。俺は布団から起きると、そのまま座卓の前に座り、大空さんは座卓から少し離れた壁にもたれて座る。 


「じゃあ聞く。なぜお前はあの場にいた? おそらくノゲムと戦っていたんだろうが、そのノゲムはどうなった? お前が倒したのか? それとも他のゲットリッダーが来て……」


「あ、ちょ、ちょ……ちょっと待ってください。その……1つずつ説明しますので」


「ああ、そうか。冷めないうちに雑炊でも食いながら話せ」


「は、はい……」


 俺は話した。最初に倒したノゲムが、行方不明とされていた横常さんであったこと。このまえ大空さんや竜也(たつや)と協力して倒したノゲムも、今日出会った2体のノゲムも、元は人間であったこと。それら全ての事件を仕組んだのが、俺の通う大学に勤めている教授、隼瀬慎也であったこと。そしてその情報を、“あのゲットリッダー”が持っていたこと。


 なにもかも話したあと、俺の目からは自然と涙がこぼれていた。


「なるほどな。そうなると、こないだのあのー……お前たちと戦ったときのノゲムは、俺を狙っていたということか」


「え……?」


 俺は涙をすすった。


「あの花のノゲム、俺が歩いていたところを急に襲ってきたんだ。もしかしたらその隼瀬ってやつは、俺のことを殺そうとしていたのかもな」


 あのとき俺が現場に到着した頃には、既に竜也と大空さんが戦っていた。まさかノゲムの方から大空さんに仕掛けていたとは……


「それ以前も人型のノゲムとは何度か戦っていた。確かに、そいつらは公園に集中して出現していて、俺はその公園を定期的に監視していた」


 大空さんは淡々と言う。


「なるほど……」


 これで、今日俺がノゲムに狙われていた原因が分かった。隼瀬は何らかの理由で人をノゲムにしていて、そのノゲムを倒す俺たちゲットリッダーを狙っているということか。


カチャ……


 いつの間にか俺は雑炊を食べきっていていた。あっさりとした味わいで、このなかなか食欲が湧かない状況でもしっかり平らげることができた。


「ん……?」


 ふと、大空さんの方を見る。またまた一つ、疑問が湧いてきた。


「あ、あの……大空さんは、夕飯食べないんですか? もしかしてもう食べたとか?」


 大空さんは何かを食べている様子はなかった。


「あぁ、ドリンクゼリーを飲んだ」


「え……? それだけですか?」


「その情報をお前に教えたのはイージスとかいうやつだろう」


 大空さんは話を反らす。


「そいつは正陰(しょういん)コーポレーションと関係が深い。そいつが真相を知っていて、かつ警察による事件の捜査が進んでいないとなるとやはり……」


 大空さんは言葉をつまらせた。


「ん? どうしたんですか?」


「いや、大丈夫だ。こっから先は俺が引き受ける。お前は大人しくしてろ」


「そんなこと……できません…… 俺は、自分が戦ったノゲムが人間であることも知らずに、のうのうと生きていたんです。大人しくじっとしてるなんて……」


 俺の視界が揺らぐ。


「そんなこと言っても、今のお前はまともに戦えるような身体的、心理的状況にいないだろう。それともう1つ、お前はなにも悪くない。俺も人型のノゲムと戦っているから分かるが、恐らく一度ノゲムと融合するかもしくは時間がかかると、その先何をやっても生きた状態には戻れないのではないかと考える。いずれにしても、人型のノゲムと戦闘している時点で、お前がこれ以上何をしてもこの問題を解決できる訳でもないし、悪化させる訳でもない」


 俺に気を遣っているのか、大空さんは平然としながらも優しく言った。


「そう理屈では言っても、お前が今感じている絶望は計り知れないものだろう。だからここでゆっくり休み、気が向いたらまた活動を再開すればいい。安心しろ、お前が行動しようがしまいが現状は大して変わらない」


 大空さんは慰めてるのか貶してるのか分からないセリフを言いながら、俺の前にある空になった茶碗とスプーンを流しに運んでいった。


 そのとおりだ。俺が何をしようが、この事件を解決することはできないのかもしれない。


ピコン……


 突然スマホが鳴った。見ると、そこには麗華(れいか)からの、数十件もの不在着信とメッセージがあった。


 俺はメッセージを返し、そのままベッドに横になった。




 泣き疲れたのか、いつのまにか眠ってしまっていた。

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