あのじけん ー灰東愛生ー
「はぁぁ……早く来すぎちゃったかなぁー」
私は学校近くの公園で、旬くんを待っていた。
私たちは学校が終わると、いつも同じバスに乗って家に帰る。旬くんと私は家が近くて、いつも登下校は一緒。テスト期間になるとたまにお互いの家に行ったりして、一緒に勉強したりする。
でも、今日はいつもと違う。旬くんが同じクラスの子に用事があるらしくて、今日は一緒に帰れないと言われてしまった。
旬くんは「先に帰ってて」って言ってたけど、私は正門が見えるこの詩日都公園で旬くんを待っている。
「はぁ、もう6時かぁ……」
公園の時計を見て、ため息をついた。空がちょっと暗くなってきた。立っているのが疲れてきたけど、周りにはベンチがない。
ここを離れたら正門が見えないしなぁ……
「もー、旬くん何してるんだろ~……もう帰っちゃおっかなぁ……」
公園の出入り口に行こうと振り返ったそのとき、目の前に私よりも少し大きい茶色の動物がいた。
「……! ぁ……」
突然のことに驚いて、声が出ない。
とにかく逃げないと……
私は逃げようとする。でもなぜか足が思うように動かない。ギチギチと足が震えながら後ろへ下がったことで、右足をひねって転んでしまった。
「ハァ……ダァルァァ!」
茶色い動物が近寄ってくる。
「……! た……た……」
怖くてまだ声がでない。
もうだめかもと思い、目をつむった。
でも、なかなか痛みは来なかった。
おそるおそる目を開けるとそこには、金色?の人が大きな剣でその生き物から私を守ってくれていた。
私はほっとしたのか、そのまま気を失って倒れてしまった。
「というわけなんです」
「なるほどね、話してくれてありがとう。嫌なこと思い出させちゃってごめんね?」
ベッドの横で、安城さんが話を聞いてくれている。
今日は安城さんと潮田さんという人が私のところにわざわざ来てくれていた。
なんでも、私がノゲムに襲われた事件のことについて、旬くんが探偵の人に依頼して、それに安城さんたちは協力してくれてくださっているらしい。
旬くんが私のために動いてくれていると思うと、なんだか、ふわふわした気持ちになる。
「いえいえ! 全然大丈夫です。この話はもう既にお医者さんと看護師さん、あと旬くんにも話したので。」
「あ、そっか……」
安城さんはその優しい表情を変えずに少し悩むようにメモをじっと見ている。
潮田さんは何か考えごとをしてるのか、窓の方を見てぼーっとしている。
「あの、聞きたいことがあれば、なんでも質問していいですよ?」
私は、安城さんたちが遠慮していると思った。
小さい頃から、色々と遠慮されてきたから、そういうのはちょっと苦手で……できればもうちょっと軽く接してほしいなぁって思う。
「あ……ごめんね? 別に、遠慮してるわけじゃなくてね? 少しこの事件が難しいなぁって思ってて……大翔、なんか聞きたいことあったりする?」
安城さんは潮田さんの方を見る。しかしそんな潮田さんは未だ相変わらずぼーっとしていた。
「ちょっと大翔、聞いてる?」
安城さんが潮田さんの顔の前で手を振る。
「うん? あ、ごめんごめん。俺は……特に何もないかな。愛生ちゃんの話が具体的だったおかげだよ」
「ごめんねぇ愛生ちゃん。この人ちょっとずれてるところがあるから」
安城さんが潮田さんに指を差しながら苦笑いする。
「ちょっと! ずれてるってなんだよ~!」
少し静かな空気だったけど、2人の笑いで楽しい空気に変わった。
やっぱり私はこういうのが好きだなー。誰かが笑ってると、こっちも笑いたくなるし、心がふわふわして、すごく嬉しい気持ちになる。
「じゃあね! また来るよ」
安城さんたちが私に手を振りながらドアを閉めた。
はぁ楽しかった!
ベッドに1人でいると、公園での事件や、小さい頃の火事を思い出して、難しいことを考えちゃう。そうなるとなんだかどんよりした気持ちになる。やっぱり、誰かと楽しくおしゃべりすれば難しいことも忘れられる。
窓の外を見ると、空は青く、元気に飛び回る雀がいくつも見える。
そんな景色を見ていたら、心と体が暖かくなってきて、なんだか眠くなってきた。




