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ゲットリッダーズ  作者: 早尾アスカ
第4話 [知らなくていい真実もあるよね。]
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横常礼人さんの行方調査 ー金房佑樹ー

 2030年8月24日土曜日。私は横常礼人さんの行方、いや、詩日都公園での連続失踪事件の真相の究明のため、とある若者と正陰コーポレーション本社受付にいた。

 その若者は、炭岡旬という。

 この間、我が事務所に突然現れ、幼馴染みが被害にあったという事件の真相究明を私に依頼してきた少年だ。この失踪事件をかなりの間調査していた私を、はるかに凌ぐ情報量を彼は持っていた。それに加え、彼は正陰コーポレーション社長とのコネクションを持っていると言う。

 調査が行き詰まっていたときでの彼の登場。まさにこれから事件の解決へと結び付くかのような、推理小説のクライマックスへとつながる展開だ。私は当初、その莫大な情報量を持つ彼を疑ってはいたが、鋭い観察眼、その情報収集能力を見ると、そんな疑いはすぐに消えた。彼は私にないものを持っている。

 

 私は事務所を立ち上げてからまだ間もない。したがって従業員は私一人である。最初の頃は一人で事足りると思っていたが、このご時世、私だけではどうにも怪しまれてしまう。そんなところに有望な人材の登場だ。正直私は今、事件なんかより彼をどう引き抜こうとばかり考えてしまっている。


 受付の女性と何やら話をしていた彼は、少し経ってからこちらへと小走りで向かってきた。

 

「金房さん! 社長はいま立て込んでいるらしく、秘書の同席ありに加え5分間という制限の中なら話が聞けるらしいです!」


「おお、本当か! やはり君がいると調査が進むな! よし、では早速行こうか!」


「はい! 30階の社長室にいるらしいです」


 私たちはエレベーターに乗り、30のボタンを押した。

 

 ものの数秒で目的の階へ着いた。ノゲムショックでの経済崩壊があっても、さすがは令和12年、技術の進歩を肌に感じられる。


 私たちはエレベーターを降り、社長室まで歩いた。

 社長室の前には1人、女性の方が立っていた。


「正陰コーポレーション社長、陽園の秘書をしております、若美(わかみ)と申します」


 その秘書さんは我々に名刺を差し出した。私も名刺を出す。


「急な訪問申し訳ありません。私、探偵事務所サンビレッジ所長、金房佑樹と申します。こちらは()()の炭岡です」


 隣にいる彼がこちらを見ているが、私はそんな彼とは目を合わさない。


「陽園は現在、業務で立て込んでおりまして、対面時間は5分のみとなっております。ご了承ください」


 秘書さんはそう言いながらドアを開けた。

 私たちは社長室に入ると、客用のテーブルには既に陽園社長が座っていた。


「ああ、ようこそお出でくださいました。社長の陽園と申します」


 社長は立ち上がり、私たちに挨拶をした。

 シュッとした身体にスマートな灰色のスーツ、耳が隠れているぐらいの茶色いロングヘアに、不自然なほど真っ白で綺麗な歯。世間では若くて優秀な社長で有名であり、こうして生で見ても爽やかで眩しい男性だ。その若さが羨ましい。


「ではさっそく。どういったご用件で……?」


 席につくと、彼は私たちを交互に見た。


「社長さんは、世田輪区内の詩日都公園という場所付近で起こっている失踪事件のことは知っていますか?」

 

 私は前座なしに話すことにした。5分という時間では致し方ない判断である。


「失踪事件? うーん……私は毎朝、新聞を読むのが習慣ですがー……そのような失踪事件は聞いたことがありませんね……」


「そうなんですよ。それが不思議なもので、マスコミへの公開はおろか、警察の捜査も進んでいない事件なんです」


「なるほど、それじゃあ僕が知らないのも当たり前ですね。それでもあなたたちがお越しくださっているということは、『私とその事件に何かしらの関係がある』とあなたたちは考えているということでしょうか?」


 陽園は笑みを浮かべながら私たちに問いかけた。

 私はその質問にはすぐに答えず、炭岡くんに目で合図する。彼は自身のスマホを取り出した。


「こちら、事件の起きる数日前にSNSで投稿されたものです。数件ですが、こちらの会社が保管しているキーがいくつか紛失しているとも捉えられるような投稿が見られます。このことについて、陽園さんはご存知でしたか?」


 炭岡くんが淡々と述べる。


 陽園は画面を見て、少しの間考えてると、さっきの余裕のある顔から真剣な顔に戻った。しかし、その真剣な顔にもどこか芝居臭いような、我々を少し小馬鹿にしているような雰囲気を感じる。


「なんと……私はこのような話を聞いたことはありませんがー、火のないところに煙はたたないとも言いますしねぇ……」


 樋園は入口にいる秘書さんを呼ぶ。


「若美くん、キーの保管倉庫に連絡し、保管状況を確認するよう指示してくれないか」


「承知致しました。直ちに連絡致します」


 そう言うと秘書さんは社長室を出た。

 陽園が右腕の時計を見る。


「あっと、もうこんな時間だ。今から取引先との会食があるので、申し訳ありませんがお帰りいただけませんでしょうか? キーの紛失疑惑に関しましては後ほど報告書をそちらへお送りいたしますので」


 良いようにはぐらかされてしまっているようだ。


「分かりました。突然の訪問失礼致しました」


 私たちは潔く社長室を出る。


 さすがは正陰コーポレーション前社長秘書で現社長。いつも私が行う揺さぶりをかける時間すらもなかった。


「あまり収穫はなかったですね。それでも陽園さんは怪しいです。あの胡散臭い態度と口調。なにかしらは知ってますよ絶対」


 炭岡くんが丁寧な口調ながらも毒を吐く。


「炭岡くん、憶測でものを言ってはいけないよ。そんなんじゃあ僕の助手にはなれないよ?」


「え?」


「ん?」


「今“助手っ”て言いましたよね? さっき入る前も言っていたような……」


「ん?」


「ん?」


 大変だ。炭岡くんの表情が厳しめである。作戦第一段階は失敗かもしれない……

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