俺たちは何か恐ろしいものに手を出してしまったのかもしれない。 ー潮田大翔ー
8月下旬、夏真っ只中。周りのセミがミンミンミンミンうるさい。どこを歩いてもこの音。ただでさえ暑くてだるいのに、こんな耳障りな音本当なら聞きたくない。というより家に帰りたい。
まぁゲットリッダーとして協力すると決めた手前、ここで家に帰るわけにはいかないのだが。
「大翔~……あそこのコンビニでアイス買わなーい? 奢るからさ~……」
先を歩く麗華はこちらも見ず、少し不機嫌そうに言う。
麗華は俺よりも暑がりだ。きれいな茶髪を一つ縛りにしている麗華のうなじからは、キラキラ光る水滴がところどころ見られる。
マネージャーでありながらも、さすがにこの暑さはきついのか、今日はスーツではなく、水色の半袖シャツにグレーのミニスカートというコーディネートだ。
すごくかわいい。いや、美しい。やはり夏はスタイル抜群の麗華がより一層映える。おそらく汗を気にしているようだが、そんなこと気にせんでいい。君は歩いているだけで人を幸せにするのだ。
そんな気持ちの悪いことを考えつつも、コンビニへと入る。外の厳しい暑さから解放され、心が和らぐ。
麗華も機嫌を直したようで、目尻を下げながら冷風を体で切り、軽やかな足取りでアイスコーナーへと向かっていった。
麗華はワッフルコーンミルクバニラ。俺はクラッシュタイプのアイス、オーソドックスなバニラ味を選んだ。
麗華が会計してくれ、俺たちは再び外にでる。麗華はまた目を細め、強い日差しに明らかな嫌悪感を出しつつも、アイスを食べながら再び歩き始めた。
俺たちは今、旬くんの幼馴染みで、今回の事件の被害者であるという、灰東愛生ちゃんがいる病院に向かっている。
旬くんの話によると、愛生ちゃんは学校の帰り、旬くんと待ち合わせするために詩日都公園にいたらしい。
そこで彼女はノゲムに襲われた。幸い、その直後にゲットリッダーが来て、命は取り留めたそうだが、彼女は足首を捻挫し、入院しているらしい。
すぐに助けが来たことを考えると、やはりあの公園はゲットリッダーに警戒されている可能性が高い。だからこそ、ノゲム警戒区域や立ち入り禁止にもなっていないところが怪しい。
そんなこんなで俺たちは、愛生ちゃんがどのような状況で襲われたのか、もっと詳しく事情を聞くために病院を訪ねるというわけだ。そこで数多の被害の共通点を掴むことができれば、かなりの進歩になると思う。
ちなみに、肝心の旬くんがこの場にいない理由は、金房さんと共に正陰コーポレーションに事情を聞くかららしい。
そういえば、愛生ちゃんはその正陰コーポレーション前社長の孫であると旬くんは言っていた。この前調べたけど、確かその前社長の名前は正陰昌景。ノゲムショックの年のクリスマスに、当時次期社長の予定であった息子とその妻と共に、自宅の火事で亡くなったらしく、愛生ちゃんもその火事の被害に遭い、軽いけがを負ったらしい。
そういった経緯があって、会社の跡取りはいなくなり、当時の社長秘書が今の社長になったというわけだ。
思ったより複雑な境遇で、正直愛生ちゃんとどうコミュニケーションをとろうか迷ってる。旬くんが言うには、彼女は天真爛漫な性格で、その点は気にする必要はないというが……いや、やっぱり不安だ。まあ、そこら辺は麗華に任せるか。
そんなこんなで考え事をしていたら、あっという間にアイスを食べきってしまった。
俺の右隣を歩く麗華は、もうとっくに食べ終わっていたらしく、その手に持つレジ袋にはゴミが入っていた。綺麗な彼女にアイスを奢られるだけでなく、ゴミ袋を持たせてしまうのはさすがに忍びない。
俺は麗華の持つ袋を持ってあげようとする。重要なのは何も言わずにさりげなく袋を持ってあげることだ。「持とっか?」とかどや顔で言ってしまうものならもうとてもダサい。
俺はカッコよく袋に手をかける。
ドシン……!
そのとき、俺の左耳には何か人でないモノの足音が聞こえた。
「はっ……! ノゲム!」
麗華の声で俺は前を見る。俺たちの前には、緑色の物体が堂々と立っていた。
「「「キャーーーー!!」」」
周囲の歩行者たちがノゲムを見た瞬間悲鳴を上げ、散り散りに逃げていく。
「ガァァ!!」
ノゲムはそんな通行人のことは見向きもせず、俺たちをじっと見た末、急に襲いかかってきた。
「麗華!! 早く逃げろ!! ここは俺がやるからっ!」
「わ、わかった!」
俺はノゲムの殴打攻撃を間一髪避けながらも麗華を逃がす。
ノゲムは、腹部にあるとても大きな花を揺らしながら、攻撃の手をやめない。
その花はまるで血の色のような、黒々とした赤い色をしている。まるで世界最大の花、“ラフレシア”のような花だ。
「うぅぅ……! ぐぁぁッ!」
ダンッ……
ノゲムは俺の胸ぐらをつかみ、俺を投げた。距離でいうと5メートルぐらいは跳んだだろうか。俺の体は住宅を囲む白い堀に重くぶつかった。
ヤバい、このノゲムは力が強い。それに、このまえ竜也と戦ったノゲムと同じ、人の行動を読んで戦っているように思える。
普通のノゲムだったら、人間の胸ぐらを掴むなんて行動はしないはずだ。
「ガァァァ!」
ノゲムは俺に向かって走り、右腕のパンチを繰り出した。
俺は瞬時に避け、チェンジャーを装着、変身した。
フェンスにノゲムの拳が当たり、シャンシャンと辺り一帯に鳴り響く。もう周りに人はいない。
『change Getrider Norma Union Scallopsracco』
『weapon 転送 Hotablade』
俺はゲットリッダー・ノーマに変身。すぐにホタブレードを召還する。
「おい! まさか俺を狙ってるのか! 詩日都公園の事件に関係があるのかっ!?」
こいつに知能があるのなら、もしかすると言葉が通じるかもしれない。病院へ向かう途中の俺たちを襲うなら、事件とのなんらかの関係があり、もっと言うと、こいつの襲撃に何者かが関わっている可能性も……
「グゥワァァァッ!!!」
ノゲムが重く低い声を響かせながら俺に襲いかかる。
俺はノゲムの拳を避け、剣で体を斬る。
ガコンッ!
ノゲムは攻撃を受けると後退し、レストランの看板に当たった。
看板が大きくへこむ。
「言葉は通じないか……! だったら……倒すしかない!」
『attack skill 発動 random beam』
俺はランダムビームを発動させた。正直何をすればいいか分からず、テキトーに選んだ。
しかし、今回は運が良かったらしい。
俺の手からはマグマのような、高熱のビームが出る。
ノゲムにビームが命中すると、腹部の花が燃え始め、やがてそれは全身に移っていく。
「グワァァ……グワァァ、グワァァァァ……」
ノゲムは低く、苦しい声を上げながらも、燃え尽き、灰になった。
植物のような特徴をもつノゲムには火の攻撃が効くみたいだ。どうやら賭けには勝ったらしい。
「大翔……! 大丈夫!?」
しばらく経ってから麗華が駆け寄ってきた。
俺は壊れた看板の店員に謝罪し、弁償代の請求書を受け取り、再度病院へと歩みを進めた。
「ていうか看板が壊れたのってノゲムのせいだよね? なんで大翔が払わなくちゃいけないわけ?」
麗華がしきりに請求についての文句を言うが、正直それどころではない。
俺たちは危ない橋を渡っているのかもしれない。あのノゲムは確実に俺たちを狙っていた。
念のため、金房さんにも連絡をしたが、俺の頭の片隅には漠然とした“何か”があった。




