恐竜ってみんな一度は通る道だよね。 ー潮田大翔ー
「はぁっ はぁっ はぁっ はぁっ……」
よりにもよってランニング中に探査機が鳴るなんて……
俺はついさっきまで、家から2キロぐらい先の公園の敷地内で走っていた。しかしそんなときに突然右腕のノゲム探査機が鳴り出した。
ちなみにこのノゲム探査機は、ノゲムが出現したとき、その場に居合わせた市民らの通報により、ノゲムの位置情報が割り出されるという仕組みだ。
そんなことはさておき、おととい志治乃木幼稚園で出逢ったばかりなのにまたノゲムの対処。前までノゲム出現を待っていたような気分であったが、こうなるとやはり、ほんの少しだけ嫌になってくる。
しかし、たつやくんが変身する、焦げ茶色のゲットリッダー、いや、「ゲットリッダー・ティラノ」は来るだろうか。もしかしたらもう既に戦ってるのかもしれない。
俺はあの日、幼稚園から出たそのままの足で、たつやのいる養護施設、「蝶のいえ」に行き話を聞いた。そこで得た情報により考えた俺の作戦が成功すれば……
俺は現場についた。住宅街の少し狭い道路上。通行止めのテープの手前、警察が現場に群がる野次馬の対応をしている。
「すみません! ゲットリッダーです!」
俺が1人の警察官に言うと、その人はテープを上げ、俺を通してくれた。
俺はノゲムがいるであろう奥に向かって走る。後ろからは野次馬たちの声援が飛び交う。俺は少しだけその声援を嬉しく思いながらも、チェンジャーを装着して変身した。
「get rid!」
変身した瞬間、より一層声援が大きくなった気がする。またまた嬉しくなり、俺の口角は仮面の裏で、少し上がった。
100mほどだろうか。走るとそこには、体中にある黄色と赤の花が目立つ、人間と同じ二足歩行のノゲムがいて、ゲットリッダー・ティラノ、ロウルフが対処していた。
やはり既にたつやくんがいるようだ。それに加えて大空さんもいる。これなら安心して戦える。一瞬そう思ったが、なにやら様子が変だった。
ロウルフは持ってる武器で刺突攻撃をくりだす。しかし、ノゲムはその武器を両手で抑え、肘打ちをする。ティラノは周囲の家の堀を上手く使いながら縦横無尽に駆け回り、ノゲムを攻撃する。しかし、ノゲムはそれをヒラリとかわし、右足でティラノを蹴り飛ばす。
目の前のノゲムは今までのやつと何かが違った。なんというか、知能が発達しているように思える。
「ぐぁぁ!」
ティラノがこちらに飛んできたので、俺は受け止める。
「おい! 大丈夫か!?」
腕の中のティラノがこちらを一瞥し、途端に暴れだす。
「オマエはじゃまするな!!」
ティラノは俺の腕をほどき、ノゲムに向かって走り出そうとしたが瞬間、俺はティラノの腕を引っ張る。
「ちょっと待て! 今から話がある。お前にとっても良い話なんだ!」
ティラノは振り返り、少し力を弱めた。
「毎月新しい恐竜のおもちゃを送る!」
俺の一言を聞いたティラノは、頭をピクッと動かし、今度は完全に力を弱めた。
俺は「蝶のいえ」にて、施設長の人と話した。
そこで俺は、たつやの今欲しいものについて聞いた。
「竜也の今欲しいものですかー……竜也はあまり自分の好きなものを言わない子ですからねー。生活費も匿名で勝手にうちへ寄付されてますしねー……まあ恐らく親戚の方でしょう」
少し気になる話であったが、そのときはたつやの欲しいものを知ることが先決だった。
「うーん、じゃあいつも遊んでるおもちゃとかはないですかね?」
「あぁー、おもちゃなら、竜也は恐竜のフィギュアが好きですけどね」
「あ、そうですか! なるほどー……分かりました! ありがとうございます!」
施設長さんは不思議そうな顔をしたが、俺は気にせず。すぐにその施設を出た。
「ほんとか!?」
聞いたことのない、嬉しそうな声が聞こえ、仮面を介してでも期待の感情が伝わってくる。
「ただ、これには条件がある。ノゲムが出たときはすぐ俺に連絡することだ!」
ティラノの腕に若干力が入るのが分かった。
「君がどんな理由で、どんな目的で戦ってるかなんて分からない。当然だよな。大人って、子どもの考えてることを分かった気でいるだけだもんな」
またティラノの腕の力が小さくなってくる。
「でもな、君を死なせるわけにはいかないんだよ。君がゲットリッダーとしてノゲムと戦うのにどんな理由があろうとも、そこだけはゆずれない!」
俺は一言一言気持ちを込めて、6才の子ども相手に熱苦しく語った。
ほんの少しの時間が流れた。その間、ロウルフはこちらをちらちら見ながらも、ノゲムと戦っている。
「チッ……! わかったよ! わかったから離せ!」
恐竜のおもちゃをくれると知ったときの喜びはなくなりつつも、ティラノはおれの要求をのんでくれた。俺の説得が聞いたのか、よほど恐竜が好きなのかは定かでないが、それでも今はどうでもいい。
「よし。だが今は、あいつを倒すときだ!」
俺は目の前にいるノゲムを指差した。ロウルフはノゲムの蹴りを受け、少しよろめく。
俺とティラノはノゲムに向かって走りだし、攻撃を繰り出した。俺はホタブレードで、ティラノは左手を覆う「レックスファング」で、ノゲムの胴体めがけて一撃を加えようとする。しかし、それでもやはり上手くはいかなかった。
俺は斬りつけようとするが、ノゲムは当然のごとく攻撃を避け、ティラノは何度も右手を突き出すが、それも受け流される。
このノゲムは一筋縄ではいかない。
俺は咄嗟にノゲムとの距離を空け、作戦を考えた。
「気を付けろ、こいつは今までのノゲムとは少し違う。 どうやら知能が高いようだ」
大空さんの大人っぽく低い声が俺に忠告をする。
「あいつのスキルキーの構成ってわかりますか?」
俺は今もなおノゲムに攻撃を仕掛け続けているティラノに指を差しながら、ロウルフに聞いた。
「知るか。あんなチビのゲットリッダーなんて知らない」
ロウルフは吐き捨てるように言った。
そんなやり取りをしている間、またノゲムに吹き飛ばされたのか、ティラノがこちらに転がってきた。
ロウルフは倒れているティラノを押さえつけ、右腰のフォルダーを開ける。
「おい! なにすんだ!」
「黙れ小僧、少しはキーを使え」
ロウルフは2つのキーを取り出し、ティラノに差し出した。
「いいか。こっちのキーを使って地震を起こし、続けてこっちのキーを使ってダメージを与えろ。その隙にあいつが止めをさす」
ロウルフは持ってるキーや俺を指差しながら、適格に指示を出した。
ロウルフの、子どもでも分かるような指示をする姿にはどこか教育者のような面影が見える。
『attack skill 発動 Earthquake』
ティラノがキーを挿し、地面に手を向けると、ノゲムと俺たちを含めた範囲内に地震が起こった。
「あ、ちょ……あ……意外に揺れる……」
俺とノゲムが激しくよろよろする中、技を発動したティラノはもちろん、ロウルフも上手く身体を使いバランスを保つ。
すごいなぁと、改めて感心するのも束の間、ティラノは次のキーを発動した。
『attack skill 発動 Meteor shower』
空に手をかざすと、多くの隕石のような石の固まりが出現し、その隕石群がノゲムを襲う。
「今だ、必殺技を発動させろ!」
「は、はい! 分かりました!」
ロウルフの声に少しビクッとしながら、俺は初めて使う必殺技のキーを取り出した。上手く出来るか不安だけど、今はやるしかない。
『final! Shellscissorstrike』
俺はホタブレードをノゲムに向かって投げた。ホタブレードがノゲムに刺さると、鍔のホタテが大きくなり、ガシッとノゲムを挟みこんだ。
俺はそんなノゲムに向かって走ると、軽く跳び、地面と水平にキック姿勢を保ちながら、ノゲムの胴体に右足の蹴りを入れた。
「ヒィィキャァァァァァァァァァ!!!!!」
強烈な俺の蹴りを受けたノゲムは甲高い声を出し、大きな爆音と爆炎に包まれながら粉々に砕け散った。
「ふう……やっと倒したー!」
俺は戦いが終わった安堵の気持ちと、ノゲムを倒した喜びから、つい大きな声を出す。
続けてティラノにハイタッチをしようと両手を出すが、ティラノはそれをすり抜ける。ティラノは高く跳ねると、住宅の屋根を何軒も伝い、遠くへと行ってしまった。
「おいなんだよー! ……ったく、かわいくねぇやつだなぁ~!」
俺はティラノが逃げていった先に向かって叫んだ。
気を取り直して、ロウルフに向かってハイタッチをしようとしたが、既に変身を解除し、大空さんの姿へと戻っていた。
大空さんは俺を手で制した。
「おい、あいつ、もしかして子どもか?」
「あ、えっとー、はい、そうなんですよ……いや、でも大丈夫です。これからは俺が、あの子を守りながら戦うんで」
大空さんは一瞬、この前俺を怒ったときのような表情を浮かべたが、すぐに落ち着いた顔に戻り、背を向けて歩き出した。
「勝手にしろ」
大空さんはそう一言だけ言い、その場を去っていった。
俺はそんな大空さんを不思議に思いながら、今日からおもちゃを買うためにお金を貯めないといけないのかぁ、と少し億劫な気持ちになりつつ、心のどこかではすっきりとした気持ちにもなっていた。
「さて! ランニングに戻るか!」
俺は再度ランニングをしに、現場を後にした。




