子どもっていいな。 ー潮田大翔ー
「get rid!」
俺はゲットリッダー・ノーマに変身した。
「「「キャーーーーー」」」
「はい!! じゃあみんな並んで順番に握手しましょうね~!」
子どもたちが次々と俺に手を出してくる。俺もそれに応え、順番に握手をした。
ジャングルジム、すべり台、ブランコ、雲梯、すな場。この志治乃木幼稚園の園庭の面積は比較的広く、色んな遊具が置いてある。この広場からは、4つか5つぐらいの部屋のベランダが見え、そこには紫色をした朝顔が咲いていた。緑色のプラスチックできた支柱につるを絡ませ、太陽にその顔を向けている。
俺は今、この幼稚園のイベントに招かれていた。
『うちの園で「ゲットリッダーさんとふれあおうの会」という行事を開催したいのですがー……ゲットリッダーである潮田さんにお越しいただきたいなと思いましてー。あ、ちゃんとお給料はお渡し致しますので……』
電話口からは気取ったような声というか、例えるなら「母親が電話で話す声」というか、とにかくそんな声が聞こえていた。
「え? ちょっ……ちょっと待ってください? どうして自分なのでしょうか? この地区のゲットリッダーなら他にもたくさんいるのに……」
戸惑いながら聞くと、電話の声は近所の知り合いと噂話をするような口調に唐突に変わって俺の質問に応えた。
『あ~…… 実はこの会、前々から企画していたんだけどねぇ~、この地区のゲットリッダーさんはクセのある方ばかりでねぇ……』
確かに。俺の頭には大空さんや多田の顔が浮かんだ。
『さっきね、ニュースサイトをたまたま見てね、期待の新人さんがいるって知ってねぇ。あなたのマネージャーさんって人のSNSにメッセージを送ったの。そしたら私の頼みを引き受けてくださって、あなたの番号を紹介していただいたのよ~。怖がらせてしまっていたらほんとごめんなさいねぇ~』
「は……はあ……」
どうやら麗華が仕事を引き受け、園長さんと俺を繋げたようだった。
園長先生はずいぶんと気さくな人で、あれよあれよといううちに話は進んでしまい、今にいたる。
「は~い! ではー……次はお兄さんたちと遊びましょー!」
先生がそう言うとみんな次々と俺の手を引っ張り、ジャングルジムに向かって走った。
俺は引っ張られながらも変身を解除し、みんなと一緒に遊んだ。
子どもたちはみんな笑顔で遊んでいる。こんな光景は久々な気がする。なんだか子どもの頃を思い出すようで、心がふわふわしてきた。俺がゲットリッダーにならなかったら、こんな光景も見れなかったのだろう。
俺は今ある非日常に喜びを噛みしめながらも、ふと砂場の方をみた。
そこには麗華がいて、園児たちと一緒に遊んでいた。砂場には女の子が多く、みんな麗華と楽しく遊んでいるようだが、しかしよーく見ると、端の方に1人でいる男の子がいる。
「うん? どうしたの? たつやくんって言うんだ。たつやくん、せっかくだからみんなと遊ばない?」
麗華は、その男の子の名札を見て、名前を呼びながら優しく話しかけていた。しかし、そのたつやくんという子は麗華をよそに黙々と1人で遊んでいる。その様子を見た近くの女の子が麗華に言う。
「たつやくんはいつもみんなとあそばないの、いつもひとりでいるのー」
「え、えー……? でもみんなで遊んだらもっと楽しいと思うし、仲間外れは良くないんじゃない?」
仲間外れではないとは思う。実際、幼くても一人の方が好きな子はいるだろうし、俺が幼稚園にいたころもそういう子はいたような気がする。
何はともあれ、麗華が困っているようなので、俺はジャングルジムから離れ、砂場へと歩き始めた。
しかしそのとき……
「「「「キャァァァーーーーーーーーーーー!!」」」」
園舎から数人の先生が慌てて外にでてきた。
みんな鬼気迫るような表情だ。
「ど、どうしたんですか!!?」
「裏口からノゲムが入ってきたんです!!」
50代ぐらいの女性が応えた。声を聞いた感じこの人が電話で話した、あのときの園長先生だろう。
「自分がやります! 先生方は、子どもたちを連れて逃げてください!!」
俺は再びキーを取り出してチェンジャ-に挿し、ゲットリッダー・ノーマに変身した。
『weapon 転送 Hotablade』
俺は園舎の方を見て、剣を構えた。しかし、一向にノゲムは姿を現さない。
「あれ……? 出てこない……?」
10秒くらいだろうか、じっと構えていると中からゆっくりと、四本足のキツネのようなノゲムがでてきた。ただ、キツネに似てるのは耳と尻尾だけで、ところどころに黒い模様があるし、馬ぐらいの大きさで、キツネよりもはるかに大きい。加えて、ゆっくり歩くその姿からはこちらに攻撃をしようという意思は感じられず、目もゆったりしている感じで、こちらが拍子抜けしてしまうぐらい、のんびりしている様子だ。口の周りには、食べかすだろうか、全面的に汚れていて、何かを食べた後であろうことは間違いない。
「あ、あのノゲム……給食を食べたんだと思います……」
園長先生が震えながら言った。
「なるほど、それは放ってはいけないですね……ただ、なんだか危害を加える感じではないし、捕獲するだけでいい気が……いやでも、俺はそんな技持ってないしなぁ~……」
俺がこのノゲムをどう処理すればいいのか、悩んでいたそのとき。
シュンッ! バタッ……
突然ノゲムの首筋に三本の傷がつき、ノゲムはその場に倒れた。
あまりに一瞬の出来事で、少しの間情報の処理ができない。先生たちが園児たちの目を抑えるのが横目に見える。
俺は状況を把握しようと、ノゲムの頭の方向を見る。そこには左手に恐竜の頭部のような形状をした、ナックル型の武器を持つ、人型の“何か”がいた。そいつはかがんでいるが、それこそ園児ぐらいの身長で、おそらく全長は110センチぐらいだろう。
「おいおまえ! なにしてる!」
“何か”が立ち上がり、俺に向かって怒鳴った。その声はまさに男の子のような、高い声だった。とにかくノゲムではないようだが、その異様な姿と声に、自分の脳が壊れているような、そういった感覚が俺の中にあった。
まさか、こいつは……
そいつはノゲムの方を向き、左手に装備している大きい武器を大きく掲げ、ノゲムの首めがけてそれをもう一度“嚙みつかせた”。
グサッ……
“恐竜の牙”はノゲムの首を一瞬たりとも放さず、ノゲムの首からは血がダラダラと垂れ続けた。首を嚙まれ続けたノゲムはしばらくもがき苦しんでいたが、程なくして動かなくなる。
“小さな人型の何か”は、ノゲムが死んだことを確認すると、園舎と園の堀の隙間の中へ顔を向け、すぐさまその方向に逃げていった。
「お……おいっ!!」
俺は一連の出来事に混乱しながらも、目の前の物体の正体を掴むため、同じ隙間に入りそいつを追った。狭いながらも、走れないぐらいの幅ではなかった。




