俺がバカだったんだな。 ー潮田大翔ー
俺は部屋のイスに座ってただただ呆然としていた。
俺はヒーローなんかになれない。
人を守るどころか、ノゲムによる脅威の可能性を与えてしまった。
リタイアしようかなとさっきからずっと考えていた。どう教官に話そうか、あきらめたことを麗華にはどう言おうか、あんなに決心していたのにダサいとか思われるかもしれない。大学の奴らにも白い目で見られるんだろう。多田にも色々言われるんだろうな。
あ、でもリタイアしたら、多田とは会うことはないか。
ドン……!
「おい潮田大翔ォ! 俺はレポートを終わらせ、今さっき教官に提出したァ! まだ2時間も経っていないぞォ! どう……だ……ん? おいお前、なにしてんだ?」
突然うるさくドアを開き、そこからいつも通り多田が自慢をしてきた。普通だったら鬱陶しく思うところだが、正直今はどうでもいい。
「おう……多田……お前ともこれでお別れだ。お前は絶対、良いゲットリッダーになれよ」
俺は多田の顔を見ずに答えた。
「は? え、どうしたんだよ……なんかあったか……?」
「……は?」
え、嘘だろ。さっきの状況見てなかったのか?
なにこいつ、もしかしてこいつバカなの? 1日目からずっと思ってたけど、こいつバカなの?
俺は多田の顔を見た。
「え、もしかしてお前、ノゲムを逃がしただけでへこんでんのか?」
「は? 逃がしただけってなんだよ。ノゲムが外に出て暴れでもしたら、それによって被害者が出て、最悪死者が出ることになるんだぞ? 俺はそんな、してはいけない失敗をしたんだぞ……?」
多田は口を半開きにして、少し間をおいてまた話し出す。
「え、ごめん、それとお前がゲットリッダーを諦めることに何の繋がりがあるのかさっぱりわかんねぇんだけど」
多田は素っ頓狂なことを言い出す。
「こんな俺がゲットリッダーになっても、ノゲムを逃がしたり、ろくでもない失敗をするに決まってんだよ。だから辞める。もとの普通の大学生に戻るの。お前には分からないかもしれないけど、俺はそっちの方が向いてんだよ」
俺は多田を睨みながら、涙を流しながら、精一杯声をあげた。
このままここにいても意味がない。どうせゲットリッダーになれたとしても失敗するのだから。
それならもとに戻って、普通に生活して、普通に就職する方がよっぽど社会のためになる。
「だからなんだよ。お前が落ち込んで、誰かが助かるのか? お前がゲットリッダーになって誰かを助けるよりも普通の生活に戻る方が、人を助けられんのか?」
多田がきょとんとしながら言った。
俺は予想外の応えに驚く。
「お前、ゲットリッダーになったらそんなことで落ちこんでらんねぇぞ? そうやって落ちこんでる間にも誰かが死ぬかも知れねぇんだぞ? だったら自分のミス取り返そうと思わないとだろうが」
俺の頭に何かが弾けたような気がした。
俺はいつもこうだ。「特別」に強い憧れを抱きながらも、大きな失敗を恐れてそこから逃げてしまう。これまでの短い人生でそれを何度も経験してきた。だから今、こうしてただただ普通なだけのつまらない人間になり、そんな人生を送っていたのだ。
しかし、いつまでもこうしてるわけにはいかない。俺はゲットリッダーとなって、人々を助けると決めた。あのときあの公園で、俺はノゲムを倒すことでその場にいた麗華、いや、あれから危機にさらされるかもしれないような、その場にいたすべての人を助けたのは事実である。これからはずっと、危険に晒される人々を助けていきたい。胸を張って「ゲットリッダーです」と言えるように、強くなって誰かを守らなければいけないんだ。
俺は今までなにを考えていたんだろう。リタイア?、そんなのただの逃げでしかないじゃないか。自分自身を変えるためにはこの状況を乗り越えるしかない。
「お前がすべきなのはー……そのー、あれだ。あのギアノゲムに勝つ方法を考えることだ!」
そうだ、こうしてる場合じゃない。今頃大空さんが対処してくれてるかもしれないけど、俺は俺で行動しなくてはいけない。
「つーか、さっき教官室の近くで大空さんがいたの見たぞ。俺たちが作戦を提案すれば、この試験有利になるんじゃねぇか?」
多田は何かいたづらを考え付いた子どものような目をして、にやりと笑った。
こいつも少なからず失敗してるというのに、開き直りもいいところだ。しかしそんな前向きな姿勢も、ゲットリッダーには必要なのかもしれない。
どうやら思いがけない人間に助けられてしまったみたいだ。少し悔しいけど、もう少し頑張ってみようと感じた。




