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第八話 「地平線の向こうから」

 目の前には、煙の原因らしい燃え盛る大きな焚き木。そして、地平線と、空。振り返ると、俺が先ほどまでいたらしい丸太の小屋があった。どうみてもメイド喫茶ではないし、何より高さがおかしい。俺は先ほどまで三階にいたはずだった。なのに、どうみてもここは、

『オオオオォォーーーー!!!!』

 牛に似た、しかし決定的に違う何かの声が、地平線の彼方から響き渡る。

「にゃ!? お前は、天翔ける(カイト)!? にゃんでお前が、ここに!?」

 どこからかアカネちゃんの声が聞こえる。声のする方に振り向くとなんとそれは上空だった。アカネちゃんだけではない。俺が通いつめていた一週間のうちに知り合ったメイドさんたちがせいぞろいしていた。そろいもそろってみんな当たり前のように宙に浮いている。服装はメイド服のままの子もいれば、動きやすそうな軽装に身を包んでいる子もいた。

 ちなみにメイド服の子達はそろってパニエをはいていたので、読者の諸君が期待するようなものは見えなかった。

「まさか、結界が……!!」

『グオオオオォォーーーー!!!!』

 コバトちゃんの声を(さえぎ)るように、再びの咆哮(ほうこう)。腹の底に響く低音に、体がぶるりと震える。さっきよりも音が近づいている気がした。

「なんなんすか、この鳴き声……!」

「危にゃいっ!」

 正面に向き直ると、拳の倍ほどもある岩石が音もなく飛んで来ていた。

 避けようにも間に合わない。思わず両腕で目元をガードした。が、

「ぐっ!!」

 次の瞬間、聞こえて来たのは男のうめき声だった。

『テンさん!!』

 上空に浮かんでいる女の子たちの声が重なる。

 テンと呼ばれた猫耳を生やした暗い金髪の男は、俺の方にばったりと倒れこんで来た。

「おい、大丈夫か!!」

 見ると、左肩が大きくえぐれている。それだけにとどまらず、体には古傷も含むいくつもの傷が刻まれていた。相当消耗しているようだ。

 倒れそうになるのをなんとか抱え上げ、下りて来たオオヤギさんと共に小屋の中へ運び込み、そっと床に下ろす。

「大丈夫か、しっかりしろ!」

 体を揺さぶると、オオヤギさんに止められた。

「テンさん、テンさん!!」

 オオヤギさんは体には触れずに声だけで呼びかける。

 しばらくして女の子たちが小屋の扉から殺到すると、男は辛そうにうめき声を上げ、上半身を起こした。

「テンさん、無理をしてはダメにゃ!!」

 オオヤギさんを片手で制し、テンは俺の方を見る。

「……カイト、と言ったか」

 痛む左肩を右手で抑えながら、テンは続ける。

「お前がここに来られたということは、お前にそれだけの”力”があるということだ」

「は? ”力”? 何言って……」

 駆け寄って来たミルクちゃんの手当てを受けながら、テンは苦しげに続ける。

「っ! 時間がない……お前に、俺の”力”の一部を託すにゃ。そうすれば、お前の”力”はブーストされる」

「託す? ブースト? さっきから何言ってーー」

「ーー聞けっ!! このままじゃ、みんな死ぬ!!」

 張りつめたその声に、空気がピシリと引き締まる。

「いいか、この先には集落がある! ここを突破されれば、そこの猫たちも、俺たちも、みんな死ぬ!! お前しか、いないんだにゃ」

 右腕で胸ぐらをつかんで引き寄せられ、ひたいとひたいをかち合わせた状態で怒鳴られる。その目は真剣そのものだった。と、同時に、人間のそれではないと、一目でわかった。

「あんた、その目の色……」

「そうだ、俺たちはしょせん猫だっ! お前たち人間にとっては、取るに足らない獣の命だ! だけどな、ーーーー俺たちだって、生きてるんだよ」

 ゴホッと深く咳き込むテン。口元をおさえた手が赤く染まっていた。よく見ると、その手も人間のものではなかった。それぞれの指が短く、肉球のような膨らみが浮き出ている。

『テンさん!!』

 悲鳴に近い女の子たちの声を制し、テンは必死に言葉をつむぐ。見ると、魔女のとんがり帽子を取った女の子たちの頭にも、みんな黒い猫耳が生えていた。

「人間。もしもお前に、情けがあるのなら、俺たちを救ってくれ……その命を、()して」

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