第五話 「大きなヤギと小さなハト2」
「カイトにゃん? は、普段何をされてるんですにゃん?」
自身なさげな上目遣いでこちらを見つめるコバトちゃん。
「あぁ、俺は普段絵描いたり、音楽聴いたり、あとは、映画見たりしてますね」
「そ、そうなんですにゃんか!」
ぎこちなくも必死に話を合わせようとする姿がなんとも萌えるが、やはり個人的に事務員のクロさんが最推しだ。
それにしても二日連続でしょっぱな趣味を聞かれたあたり、メイドさんたちの間で趣味デッキは常套句なんだろうか。
「わわ、わたしも、絵を描いたりするんですけど、カイトにゃんは、どんな絵を描くんですにゃん?」
どうも最初に趣味を聞いてそこから自分との共通点を見つけ、会話の糸口にしているようだ。緊張でガチガチなコバトちゃんにそこまで考えが回っているとは思えないので、マニュアルがあるのか、それともオオヤギさんあたりに教えてもらったのだろうか。
「そうですね、ファンタジー系とか、男女の恋愛模様を描いたりしてます」
いいながらスマホを取り出し、普段描いた絵を載せているSNSアカウントの画面を見せる。
「おぉ、すっ、すごいですね!」
両手をグーにしてわかりやすく喜ぶコバトちゃん。可愛い。
「キャッ!!」
と、突然コバトちゃんが身をかがめて床にしゃがみこんだ。一体何がどうしたんだろうか。気づけば店の中が騒然としていた。
「今の音、なんですか?」
お客さんの一人がアカネちゃんにたずねる。音? なんのことだ?
「組織の襲撃かもしれないにゃ お前たちはここで待っているにゃ」
慌ただしく駆け出ていくアカネちゃん。戻ってきていたオオヤギさんはコバトちゃんの肩をなで、大丈夫となだめつつ、
「心配ないにゃ」
とお客さんたちに大人の余裕を見せる。
その後、すぐにアカネちゃんが店の奥から顔を出し、
「大丈夫にゃ、なんでもないにゃ。ちょっとした悪魔の悪戯ーー炎を纏いし鋼鉄の器が打ち倒されたにゃ」
と店全体に聞こえる声で言った。
察するに調理器具か何かが倒れたようだ。それにしても、俺にはまったく聞こえなかったぞ? 首をかしげていると、コバトちゃんが立ち上がってスカートのほこりを払い、
「ご心配をおかけしましたにゃ」
とややまだ不安そうな声で強がる。
それでもオオヤギさんはもう大丈夫と判断したのか、他のお客さんを対応しに行った。
なんだったのかさっぱりわからないが、店の中は早くも元の雰囲気を取り戻し始め、俺も単に聞き逃しただけかもしれないと思い始めた。頭の片隅に少しひっかかるものはあったが、そんなものはコバトちゃんと楽しく話しているうちにどうでも良くなった。
そうしてあっという間に時間になった。前回に引き続き、今回も一時間で店を出ることにする。今回はたまたま手の空いていたオオヤギさんが出迎えてくれた。どうやら対応してくれたメイドさんが出迎えるというわけではないらしい。
「また来てくださいにゃん」
大人びた艶やかな声に耳元をくすぐられ、思わずドキッとする。また来よう。今回もそう誓った。