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第二話 「いらっしゃいませにゃん!」

「「いらっしゃいませにゃん!!」」

 扉の向こうはホームページの設定にあった魔女のいた世界にふさわしい装飾で彩られていた。まず出迎えてくれたのはカチューシャの代わりに小さな魔女の帽子をかぶった三人の女性。おのおのがそれぞれの配色のメイド服を身にまとい、前髪を紫の髪留めでとめている。その背後でも魔女のほうきや分厚い魔法書、コミカルな目玉がつまったビンなど、ファンタジックな世界観が展開されていて、マンガやアニメの世界がそのまま飛び出してきたかのようだった。

 壁いっぱいをひび割れのようにつたうツタの装飾に感心していると、真ん中に立っていた赤い配色の女性が一歩前に出てきた。

絶対規律(アブソリュート・プロトコル)に導かれた者が、また一人、現れたんだにゃ……」

 腕を組んで胸を張り、意味ありげな台詞。そういうコンセプトのお店なんだろうか。

「は、はぁ」

 反応に困っていると、

「誓いの時は近い。ついてくるにゃ」

 ダジャレだろうか。よくわからないけど、カウンター席の一つへ案内してくれているようだ。

 着席すると、女性はカウンターを挟んで向かいに立ち、毛先までむらなく染まった見事な赤い髪を指先で(もてあそ)びながら口を開く。

真名(まな)はとうに封印したにゃ。今はただ、アカネ、とだけ呼ぶにゃ」

「……わかりました」

 声優のようなよく通るアニメ声に呆気に取られていると、残る二人も近づいてきて、順番に頭を下げた。

「カスミにゃん!」

「ミルクですにゃん」

 身構えていたものの、こちらの二人は至って普通のようだ。安心したような、肩透かしを喰らったような……。

 振り返って店の奥を見ようとすると、そこはトイレだった。入り口からはL字に曲がったカウンターしか見えなかったからわからなかったが、店の中はカウンター席だけで、お客は俺一人のようだった。平日の昼間とはいえ、都市部の喫茶店にしては少ない気がした。

「どうかしましたにゃん?」

「あ、いや、別に」

 カスミと名乗った茶髪を短く二つに結んだ女性に元気いっぱいにのぞきこまれ、思わずたじろぐ。さっきから女性女性と言っていたが、こうしてまじまじと見ると三人ともかなり若く、少女という方がしっくりくる。

「この店にくるのは初めてですにゃん?」

 長い暗めの茶髪をした女の子、ミルクちゃんが可愛げに小首をかしげた。みるからにおっとりとした優しそうな子だ。

「あぁ、はい、初めてです」

「名前を聞いてもいいにゃんか?」

「あぁ、えぇと、カイトです」

「カイト? ふふっ、そうか、天翔ける(カイト)、ということにゃ?」

「カイトにゃんかぁ。こういうところにはよく来るにゃん?」

 メニューを差し出しながら明るい調子でたずねてくるカスミちゃん。

「……まさか、この私が見えてないにゃんか!?」

 台詞をガン無視されたアカネちゃんがその後ろでちょっと寂しそうにつぶやく。

「いえ、今回が初めてです」

 可哀想だが、いちいち構っていたらキリがなさそうなので、俺も一旦無視することにした。

「カイト、まさかお前まで!?」

「ほう。なるほどにゃん。組織の妨害工作……そういうことにゃんか……」

 カスミちゃんの横で意味深に笑うアカネちゃん。さっきから思っていたが、台詞がいちいち厨二臭い。眼帯が似合いそうだ。

「じゃあじゃあ、ポイントカード、作りましょうにゃん♩」

 身を乗り出して小さな白いカードを取り出すカスミちゃん。カードには青い魔法陣の装飾が列になって並んでいた。ここにスタンプか何かをして貯めるのだろう。

「すべての魔法陣が完成された時、誓いの時は訪れるにゃ」

 全部貯まると何か特典があるらしい。

 カスミちゃんは身を乗り出したまま胸ポケットからペンを取り出し、名前の欄に手早くカイトにゃんと書いてくれる。

 アカネちゃんがさらに何事か言いかけたタイミングで、来店を示すベルが鳴った。

 仲良く一斉に振り返る三人。現れたのはさっきの全身黒のフリルで固めたゴシックメガネの女性だった。

 一瞬こちらを見た後、フリルの女性は店の奥へと消えていった。こちらはあらためてみても少女というほど若くはなく二十代前半くらいに見えた。

「あの人は?」

「あぁ、あの方は事務のクロさんですにゃん」

 ミルクちゃんが微笑みながら教えてくれる。

「へぇ。事務員さんもいるのか」

 個人的に一番タイプだった。今後通うことになったら、全力で推して行こう。

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