第十四話 「白雪のような2」
連絡先を交換して別れたあとも、頭の中は京子さんのことでいっぱいだった。
午前の授業を終え、食堂に向かう途中、早速京子さんから着信があった。
『京子です。
今日の授業は午前で終わりなんですが、午後から空いていたりしませんか?』
どうもメールは敬語で打つタイプらしい。なんとも可愛らしい文面だった。
『もちろん空いていますよ!』と返信すると、食堂で落ち合う流れになった。
意気揚々と食堂へ向かうと、先に来ていた京子さんがこちらに気づき、立ち上がって手を振ってくれる。
その仕草がまたなんともおしとやかというか上品というか。端的にいって好きだった。
二人で向かいあって席につき、俺はカレーを、京子さんはサバの定食を頼んだ。
そこで、流れで自然と互いの趣味の話になる。
「私ね、実は、オイルマッサージが趣味なの」
「へぇー。でも、オイルマッサージって結構高くないですか?」
「あぁ、される方じゃなくて、する方。だから、初期費用以外は意外と安いの」
「え? マッサージ師かなにか目指してるんですか?」
「うん。始めたのはわりと最近なんだけどね。それで、お願いがあるんだけど……」
京子さんはこちらをうかがうように姿勢を低くし、上目遣いになる。
「ん? なんすか?」
「実はね、私、まだ男の人のマッサージってしたことなくて、良かったら、その、練習台になってくれない?」
「練習台?」
頭の中で展開された妄想については、またアカネちゃんにはたかれそうなので割愛するが、鼻血が出そうになったとだけ言っておこう。
「ーーーーいいですよ」
「やった!」
京子さんは心から嬉しそうに小さく飛び上がり、ガッツポーズをする。うむ、可愛い。
「じゃあ、どうする? そのままうちに来る?」
「そうですね。今日は荷物少ないし、そのまま行こうかな」
なんと、今日あったばかりの女性の家にお邪魔することになってしまった。
「じゃ、暗くするね」
京子さんの自宅の一室にて。
俺は簡素な台の上に横になり、すっかりされるがままになっていた。
薄い茶色の毛布を腰にかけられ、仰向けに横たわっている。
上半身は裸だが、京子さんが明かりをオレンジの電球にしたこともあって、雰囲気にのまれてちっとも恥ずかしくはなかった。
やがてアロマキャンドルに火が灯り、ーーーーやけに煙が多いな。
「ゴホッ、ゴホッ、京子さん? なんすか、これ」
「大丈夫。すぐに気持ち良くなるにゃ」
「にゃ? ーーーーって、あ……」
知らぬ間に、体に力が入らなくなっていた。そのまま俺は、沈むように意識を失った。