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第十三話 「白雪のような」

 土日が終わって月曜日。午後の履修を大方取り消したとはいえ、午前は普通に大学がある。

 夏休みがあけてもまだまだ暑い9月の電車内は冷房が効いて、ほどよくすずしかった。

「ーーーーあの、すいません」

 電車を降りて、大学までの道のりを歩いていると、背後から声をかけられた。

 振り返ると、なんとそこには、(きぬ)のように滑らかな黒髪に、真っ白な肌をした、同い年か少し年上かくらいの美人な女の子が立っていた。

「これ、落としませんでした?」

 差し出されたのは、見覚えのある革の財布だった。

「あ、えっと……」

 慌ててポケットを確認する。中はからっぽだった。

「多分、俺のです」

 あまりにも美人なので、手が触れ合わないようにドキドキしながら慎重に受け取り、中を確かめる。

 俺の学生証や定期券が入っていた。

「あ、やっぱり、俺のみたいです」

 言うと、美人の女の子は真っ白な細い手を胸に当て、

「良かった」

 と、ため息をついた。その仕草だけで俺の心臓はわかりやすくたかぶる。ごまかすように短くお礼を言い、立ち去ろうとする。

 しかし、なぜか女の子はそのまますぐ横を歩き出す。大学構内で拾ってもらったのだし、この子も同じ大学なのだろうから行く道がかぶるのはわかるが、それにしても近い。そう思っていると視線がぶつかり、向こうから話しかけてきた。

「一年生?」

「え? いや、二年生です」

「そうなんだ」

「じゃあ後輩か。私三年生なの」

「そうなんすか」

「私白雪京子。あなたは?」

 なんだろう。なんでこうも会話が途切れないんだろう。

「あぁ、えっと、カイトです」

 ごまかすわけにもいかないので、正直に答える。

「カイトくんか。ふーん」

 視線をそらし、横顔を見せる京子さん。

 肩の下まで伸びた美しい黒髪と、すじの通ったやや高い鼻。そしてガラスのようにきらめく瞳。

 うむ。美人だ。

 ……おかしい。

 警戒しすぎかも知れないが、こうも都合よくこんな美人の方から距離をつめてくることがあるだろうか。かつてあっただろうか。

 いや、ない。

「? どうかしたの?」

 しかし、京子さんのまさしく白雪姫のような美しい笑顔と、可愛らしい()んだ声に当てられ、心がぐらつく。

「いえ、なんでもないです」

『なんでもなくないにゃ。絶対おかしいにゃ!』

『いやでも、勘違いだったらもったいないし』

 脳内で、アカネちゃんと俺が喧嘩を始める。

『もったいにゃい? にゃーにがもったいないにゃーか。こんな出会い、はなからありえないにゃ』

『ありえない恋……ありだな』

『にゃ?』

 あきれ顔を浮かべるアカネちゃん。脳内シュミレートにてアカネちゃんの信頼を失ったが、これは俺の判定勝ちでいいだろう。

「そういえば、カイトくんはどこまで? 私はそろそろなんだけど」

 脳内でなおもギャーギャー騒ぐアカネちゃんを振り切ってこたえる。

「あ、俺はもうちょっと先っすね」

 この大学は山奥にあるだけあって敷地が広く、俺の場合正門から2番目に遠い棟にいかなければいけない。

「そっか。じゃあそろそろお別れか」

 京子さんがちょっぴりさびしそうに言う。

「ねぇ、良かったらなんだけど、連絡先交換しない?」

「え?」

 絹糸のような黒髪を耳にかけながら、切り出すように言われる。

「は、はい」

 断る理由がなかった。

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