表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/35

第十話 「力」

 黒い群れとの距離が近づくにつれ、その姿が徐々に明らかになって来た。

 それは、牛から角やしっぽといった凹凸をすべて取り除いたかのような、寸胴に近い不気味な生物……いや、化け物だった。遠目からだったのでわからなかったが、その大きさは牛を優に超える。

 四本足で走っていながら人の背丈ほどもあるその化け物は、アカネちゃんたちの必死の攻撃にもまるでひるまず、ものすごいスピードでこちらに迫ってきていた。

 確かにあんな化け物が集落で暴れたら、ひとたまりもないだろう。

 それに、あの勢いでは小屋の中にいるテンさんさえ危ない。

 なんとかしなければ。けれど、ピンチだからと言ってそう都合良く力が湧き出たりはしない。

 何度も何度も、空高く飛ぼうとしては、

「ぐはっ!?」

 不時着を繰り返す。

 その間にも、上空ではアカネちゃんの指示が飛んでいた。どうやら倒すことはあきらめ、手前に着弾させて土煙を起こし、視界を遮る作戦に切り替えたようだ。

 不意に脳裏をよぎるのは、テンさんの言葉。

『ーーーーお前は愛するものを見捨ててまで、生きていたいと思うのか?』

「ーーーー嫌だ」

 ぽつりと吐いたその決意が、引き金となった。

「は!?」

 体が、ビュッと風を切る。跳躍(ちょうやく)というより、もほや飛躍(ひやく)だった。

 日常ではありえない、何かにつかまりたくなるような浮遊感が足下をすくう。

「うわぁぁぁーーーーーーー!!!!」

 一気に視点が高くなり、思わず手足を振り回す。しかし、息ができなるなるほど強い風が顔に吹き付ける中、なぜか姿勢だけは保てていた。

 これも魔法のおかげなのだろうか。というか、アカネちゃんたちの使うあれはそもそも魔法なのか。そんなことを考えてる場合じゃない!

 放物線を描きながらものすごい勢いで落下していく体。このままでは黒い化け物の群れの手前に落ちる。

 着地も魔法でどうにかなるのか、それともならずに爆散するのか。混乱が渦を巻いてめちゃくちゃになるなか、これはチャンスなんじゃないか、という謎の感覚が四肢を駆け巡る。

 そう、四肢を。頭ではなく、体がそう感じる。ボッと火がついて、じわりと広がるような。そんな感覚が全身を包む。

 頭の中で、エネルギーをチャージしていくような効果音が勝手に流れ出す。それが最高潮に達する瞬間、黒い群れの先頭を走る化け物の脳天に、突き出した拳が直撃した。

「オラァァーーーー!!!!」

 それはまさに、ドッカーンとでも形容すべき、爆発だった。

 真っ赤な閃光が視界を包み込んだかと思うと、次の瞬間には土煙の爆風に吹き飛ばされていた。


「ーーーーあれが、見込みゼロの人間の”力”!?」

 上半身だけ身をおこし、窓から様子を見ていたテンは、その爆発に感嘆の声を漏らす。

「やはり、アイツはーーーー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ