第1話 魔王に転生するまでの話
起きなさい
「もう誰だよ?やっと家のベッドで寝てるのに。」
愚痴を言いながら薄目を開けると、そこにはわずかに目が合っただけだが、心を幸福感と安らぎで満たしてくれる女性の顔があり一瞬にして、眠りを妨げられた不満が消え、しっかり起きてこの顔を見ていたいと思った瞬間、優しく微笑み、目の前から消えていった。
ん?今の何だ?と思いながら目を擦っていると
「やっとお目覚めですか」
声のする方に顔を向けると今度は微笑んで消えていった女性とは違う、凛々しい知的な雰囲気の女性が横に立っていた。
そして、その人の周りが真っ白で何もない事に気付いた。
最初は目が光に慣れていないから真っ白なのかと思っていたが、違っていた。何も無いのだ。
何にもない?ここはどこだ?昨日は仕事が一段落して久しぶりに家に帰れて…と考えていると
「上野賢人さん。簡潔に説明いたしますと、あなた死亡し、神に選ばれて転生するため今ここにいます。そして、この後ですが、………」
あぁそうか。。。となる訳ない事を喋り続けている女性の横で頭の中はクエスチョンだらけだ。
えっ?死んだ?俺死んだの?じゃあ
「ちょっと待ってください。あなたは誰で、ここはどこですか?」
淡々と話し続ける女性の話を遮るように混乱し続ける頭の中を何とか整理して言葉を絞り出すと
「わたくしは神の使いで、ここは転生の為の準備室と言ったところでしょうか」
「俺死んだんですか?」
「はい死にました。そうでなければここに召喚されませんから」
神の使いと名乗ったその人は、特に感情も無くハッキリと死亡宣告してきた。
「何で死んだんですかね俺?」
「過労による突然死です」
事務的かつ過不足のない声量で神の使いさんは言った。
「そうですか」
相手に感情がないからか、死んだ事をすんなり受け入れる自分がいた。
死んじゃったかのか俺。仕事辞めようとかいろいろと先の事考えていたのになぁ。あれだけ仕事してたら身体がぶっ壊れるとは思っていたけど、死んじゃったのかよ俺。
「で、どうなるんですか?この後」
考えるのやめて、力無く聞いた。
「聞いてました?まぁ寝ていましたからね。もう一度説明しますから、よく聞いてください」
「すみません」
死んだのに叱られ気味に話を聞くと
「あなたは生前の行動と神の選択により、異世界で別の生命として転生する個体に選ばれました。さらに、本来なら転生前の記憶などは引き継がれないのですが、転生後にも引き継がれても良い個体としても選ばれています。とても奇跡的な事なんですよ」
最後は語気を強めて、自分が死んだ事実に気落ちしている俺に説明をしてくれた。
「転生ですか。それってどんな世界でどんな生物になるか選べるんですか?」
死んだ事は戻らなそうなので、空元気でもいいから気分を変えて、どうせならできるだけ楽しく生きていける世界に行きたいなと思っていると。
「選べません。あなたは寝ていたから知らないでしょうが、あなた以外にもいろいろな世界からここに、神に選ばれた方達が説明を受け転生されました。あなたが最後の案件です。それにしてもあれだけ声がけしても起きないなんて。ほんと、このまま転生させず眠ったままにしようかと思いましたよ。神に頂いた転生のチャンスを棒に振るところだったんですからね」
神の使いさんはどうやら感情がないわけではなく、神からの奇跡を、無礼にも寝過ごすところだった俺にお怒りだったようだ。
「ならあの笑顔で起こしてくれた方に感謝ですね」
周りを見渡すが何もない真っ白な空間しかなく誰もいない。
「神の使いさんからあの方に………」
「誰の事を言っていますか?」
言葉を遮るように神の使いが慌てて聞いてきた。
「だから起きなさいと言って起こしてくれた優しい微笑みの女性の」
話ながら神の使いを見ると、さっきまでの俺に呆れていた表情と違い、唇を震わせながら
「ここは神が作られた場所、私以外の声………!」
神の使いが急に目の前の空間に手をかざし、紙をめくる動作を繰り返している。
しばらくすると深呼吸をして、話し始めた。
「あなたを目覚めさせたのは神です」
あの人が神?いまいち理解できない俺に対して
「この空間は神が転生する者のために作った空間で私以外使いの者はいません。転生者以外この空間に入る事はありません。また転生者同士は会話などができない仕様になっています。そもそもあなたが起きた時、他の転生者は誰もいませんでした。この空間で幻や幻聴が起こることはありません、よってこの空間に声や存在を示せるのはこの空間を作った神以外ないのです」
さらに畳み掛けるように
「そして、神が一個体に対して何か行動を起こすなどあり得ない事です。まして、その姿を見せ、声をかけるとは、あなたは恐ろしいほどの奇跡を体験したんですよ!分かってますか!?」
話ながらテンションが上がっていくのがわかる口調で顔を近づけながら俺が体験した奇跡の凄さを熱弁する神の使いを見ながら、起こされただけだけどな。と内心冷ややかに思ったが顔に出してはまずいと思い
「そんな凄いことを!」
とテンションを合わせて相槌を打った。
「そうです凄い事なんです。そして、あなたのステータスを確認しましたところ、神がチカラを与えたと解釈され、神からのギフトとして特殊なスキルが付与されています。また頂いたスキルが発揮できるよう転生先が再設定されました。きっとそのスキルが活かされる世界であなたは活躍する事でしょう」
「どんなスキルを貰ったんですかね?」
スキル?よくわからないけど奇跡的な体験をしたので得られたスキルならどんな内容なのか気になり聞いてみた。
「お答えできません」
期待させておいてそんなのあり!と心の中でツッコムが
「ですよね〜」
と愛想笑いとともにつぶやくと
「ですが必ず役に立つスキルです。ヒントとしては神があなたに何をしたか、それがスキルの元になっています。さらに言えば、ギフトとして、あなたの基本的なランクみたいものが最上級に更新されてもいますので、スキルに頼らなくても転生先で大活躍する事でしょう」
全部が抽象的すぎて全くピンと来ない励ましを貰った。がんばろう俺。
「本来こんなに時間がかかるものでは無かったのですがそろそろ旅立ちの時です」
お仕事モードに戻ったようで神の使いは冷静に話しかけてきた。それと同時に自分の身体が徐々に透けてきた。
「どんな世界に転生するかも内緒なんですよね?」
ダメ元で聞いてみる。
「いわゆる剣と魔法の世界です。生まれて間もない姿なのか、ある程度成長した姿で転生されるのかそこまでは分かりませんが、転生してすぐ自然死って事はありませんのでご心配なく、でもあなたの事だから、寝ていて誰かに起こされるまで始まらないかもしれませんね」
あっけなく答えを聞き、咄嗟に言葉が出ず、他に聞ける事を聞いておこうとした瞬間、目の前から神の使いは消え、視界は白なのか黒なのか色があるのか、ないのかよく分からなくなった。
目が回りそうになり目を瞑り、今どこにいるのか考えるのをやめ、転生の間で言われた言葉を思い返してみる。
(剣と魔法の世界か、ゲームみたいだな。仕事忙しくて最近ゲームなんてしてなかったな〜)
(考えてみれば死ぬほど仕事なんてしないでもっといろいろすればよかったなぁ〜。今回の人生は充実するといいけどなぁ)
(あれ待てよ。…俺は神様からパワー貰いました、剣と魔法の世界です、最上級のランクです、ランクってよくわからないが、これって勇者系じゃね?勇者はなくても近い感じの流れでしょ)
(早く転生が完了しないかな〜)
そんな事を考えながら、その時は突然だった。
今回も外からの音によって気がついた。意識を取り戻した俺の目の前は暗く、何か狭い物の中にいるらしくうまく身動きが取れない。
その外側では何やら声や音がしていた。ほんとにまた起こされてスタートするんだなとニヤけるが、転生が完了したと理解して、この内側から外に出ようとさらに動いてみる。
力を入れれば物理的に壊せそうな硬さだったので激しめに動いてみるとと、何かが割れる音と共に身体には自由が広がり、動きを制限していたものがなくなっていった。それと同時に聴こえていた声や音が静かになっていった。外の人たちは俺の登場を静かに待っているんだなと想像し、第一声はどうしようかななどとアホな事を考えつつ、最後に頭から被っている状態の視界を遮っている俺を閉じ込めてた物体のかけらをどけて俺が大活躍するであろう世界を見渡してみた。
そこはお城の中なんだろうか。映画で見た事のある綺麗な石畳と赤い絨毯が出入り口まで真っ直ぐに伸びている。天井からは何個もある綺麗なシャンデリアが蝋燭に灯りを灯している。
だが誰もいない。
俺の立ってる場所から三段ほど降りたところに
ひざまずいている3…2人と1匹
1人はおとぎ話に出てくるようなこれぞ魔女という老婆
もう1人は霧のようなもので覆われている鎧をきたもの
最後の1匹は鷲とライオンが合体したいわゆるグリフォン
そして老婆が俺にこう言った。
「魔王様、御生誕おめでとうございます」
「そっちかーい」
転生後、初めて発した言葉は転生前を含めてもっとも大声だった。




