第一章 第九話 勇者イアソン、仲間割れを起こして見捨てられる(ざまぁ回)
〜イアソン視点〜
俺は恥辱に塗れていた。
緊急事態であり、我慢をしなければならないことだとわかっている。しかし、今にも怒りでどうにかなりそうであった。
二人が見つけてきたのは大きい葉っぱと紐だ。それを繋ぎ合わせ、簡易のパンツを作ってもらった。
ああくそう。二人からの悪意のようなものを感じる。だけど俺のために用意してくれたから、怒るに怒れねぇ。
それにこれに関して嫌悪感すら抱くぜ。もしかしたら葉の間に虫なんかが入っていたりしねぇか? もし本当にそんなことが起きれば、絶叫してしまうぞ。
考えただけで悍ましい。早くダンジョンを抜け出して、本物のパンツとズボンを履きたいぜ。
それにしてもこの辺は本当に臭いな。ずっと歩いていると頭が痛くなる。
「ねぇ、もう少し早く歩きなさいよ! 私はさっさとこの臭い場所から出たいのだけど!」
俺の後ろを歩いていたリリスが、歩行速度を上げるように言ってきやがる。
「はぁ? お前は今の状況がわかっていないのかよ! 初めて入るダンジョンで、まだ頭の中でマップ作成もできていないんだぞ! そんな中、バカみたいに体力を使うような歩き方ができるわけがないだろうが!」
「何キレているのよ! 私はもう少し早く歩いてってお願いしているだけじゃない!」
「だったら、もう少し優しい言い方ができないのかよ! 語気を強めて言いやがってよ! そんな言い方だから俺までイライラしてくるんだろうが!」
「おい、くだらないことで喧嘩をするな。初めてきたダンジョンで仲間割れをしてどうするんだ」
ジョージのやつが仲裁に入ってきやがる。普通なら、あいつの冷静さに頭を冷やされる。だけどなぜか今回ばかりはイライラがヒートアップしていた。
「守ることしかできない。チキン野郎は黙っていろ!」
「そうよ! 臆病者は黙っていて」
「二人とも何を言っていやがる! 俺が臆病だと! お前たちの目は節穴か! 前線に立って魔物の攻撃を防いでいるのは俺じゃないか! 一番後ろで指示を出すことが殆どのイアソンのほうが、よほどチキンじゃないか!」
彼の言葉に、俺は再びカチンとくる。
「俺は勇者なんだぞ! リーダーが指揮するのは当たり前じゃないか! お前たちがまともに動くことができないから、わざわざ俺が指示を出しているんじゃないか!」
「リーダーが聞いて呆れるわね。ヘボい指揮しかできないくせに。吸血コウモリとの戦いで、ぎりぎり勝てるような指示しか出せなかったのはどこの誰だったけ?」
今度はリリスが反論してくる。
あああああああ! 二人ともザコの分際で俺に楯突きやがって! もうお前らなんかしらねぇからな!
「ああ、そうかよ! ヘボい指示で悪かったな! だったらもうついて来るな!」
言葉を吐き捨てると、俺は奥に向けて歩いていく。
ついて来るなとは言ったものの、ここは一本道だ。なので必然的に二人と行動を共にすることになる。
いたくもないやつと一緒にいると、本当にムカムカしてくるよな。さっさとここのダンジョンから脱出して、外の空気を吸いたいぜ。ここは本当に臭いからな。
感情的になりながら歩いていたからか、俺はいつの間にか歩く速度を早めていた。
先に進めば進むほど、異臭が強くなってきやがる。
この先に何があるって言うんだよ。臭いからして良くないものであるのは間違いないだろうな。だけどまぁ、最悪のことが起きた場合は、二人を囮にして俺だけ逃げ出すさ。
俺さえ生き残っていれば、いくらでもやり直せる。勇者である俺のパーティーに加わりたいなんて言うやつは、この世界に腐るほどいるからな。
ニヤリと不敵に笑いながら、先を進んでいると広い場所に出た。そしてさっきから漂ってくる腐敗臭の原因を知ることになる。
マジかよ! こんなところにデスライガーがいやがる。
デスライガーは体長六メートルほどある大きさの魔物だ。顔はライオン、身体が虎であるライガーに翼が生えているが、その肉体の半分は腐っており、骨が剥き出しになっている。
やつはどうやら眠っているようで、寝息を立てていた。
この魔物はSランクに認定されており、勇者である俺がどうにか倒せれるほどの強敵だ。
もちろん、これほどの凶悪な魔物は見逃すことはできない。だけど今日の俺は調子が悪い。戦ったとしてもまず勝てないだろうな。
触らぬ神に祟りなしだ。ここは見なかったことにして素通りしたほうがいいだろう。
万が一、起こしてしまった場合は、先ほど考えたみたいにあいつらを囮にして逃げ切ってやる。
俺はなるべく足音を立てないように気をつけながら歩く。
「あそこに通路を見つけたから先に行くわね」
「魔物のことは任せたぞ、勇者イアソン」
俺の行動とは対照的に、リリスとジョージは思いっきり足音を立てて走り去っていく。
一瞬どうしてあいつらがあのような行動に出たのか理解が追いつかなった。だが、数秒して奴らの真意に気づく。
あいつら、俺を囮にしやがった!
俺はあいつらが逃げるための時間稼ぎ役にされたことに気づいたと同時だった。立っていた場所に影が差し、俺はぎこちない動きで振り返った。
俺の背後には、口から涎を垂れ流しているデスライガーが立っていたのだ。
『ガアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!』
「起きているうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅ!」
デスライガーが咆哮を上げると同時に、俺も絶叫する。
まずい、まずい、まずい! 早く逃げないと殺されてしまう! 勇者である俺が、こんなところで死ぬ訳にはいかないんだ!
「て、撤退だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は全速力で地を蹴って逃げ出そうとする。
あいつらが逃げ出した通路は狭い。あの中に逃げ込めば、デスライガーからは逃げ切ることができる。俺の逃げ足の速さを嘗めるんじゃないぞ。
俺は一心不乱で走る。
あともう少し、あともう少しで逃げ切ることができる。あの通路まで五メートルぐらいだ。このままなら逃げ切れるはずだ。
後方から追いかけてくるような足音は全然聞こえない。半分死体だからな。きっと動きが鈍いのだろう。
ハハハ、ザマァアアアアアアアアアアァァァァァァァァ! このうすのろめ! 悔しかったら追いついてみやがれってんだ!
逃げ切ることを確信した俺は、念のために後方を見る。
どうせゆっくりと動いているデスライガーがいるだけだろう。
走りながら首を曲げて後方に向ける。しかし、俺の後ろにはデスライガーはいなかった。
へ? あいつどこにいきやがった?
行方が気になるが、今は逃げ切ることが最優先だ。
俺は視線を前に戻した。その瞬間、足に急ブレーキをかけるはめになる。
デスライガーが、ボロボロの羽で羽ばたきながら下降し、進路を塞ぎやがったのだ。
「お前飛べたのかよ! その羽は飾りじゃないんかい!」
俺は思わず声を荒げる。
魔物は舌舐めずりをしながら俺を見下ろしていた。
くそう。こうなったら引き返すしかない! 崖を上ることになるが、デスライガーに殺されるよりかはマシだ。
「じにだくない! じにだくないよおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
迫り来る死と恐怖心により、俺は極限状態になった。
目からは涙を流し、口からは涎を撒き散らしながら全速力で突っ走る。
どうしてこうなってしまった? いったい何がいけなかったんだよ!
心の中で喚き散らしながら、俺は必死に生にしがみつこうとする。
すまない、すまない、すまない。俺が悪かったのなら謝る。だから、誰か助けてくれ!
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